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    腟内細菌叢は赤ちゃんにとって有益だけれども、塗り付けるのはハイリスク?

    近年、米国では、赤ちゃんにお母さんの腟内細菌叢を塗り付ける「Vaginal Seeding」が注目されています。

    普通分娩の際、赤ちゃんには母親の産道(腟内)に常在している菌が付着します。菌と言っても雑菌というわけではなく、乳酸菌とビフィズス菌などの善玉菌を含んだ様々な種類の菌を母親から受け取るとされています。それにより、早い段階で外の世界への順応できるようになると考えられています。

    一方、帝王切開で産まれてきた赤ちゃんは、母親の腟内の菌を受け取れず、免疫関連疾患の割合が高い傾向にあるのでは、古くから指摘されてきました。

    そこで、帝王切開児の喘息やアレルギーを予防するため、2016年2月、帝王切開後の赤ちゃんに母親の腟液を塗る実験が発表されました[1]。このような処置を受けた帝王切開分娩児の腸内、口腔内、皮膚の細菌叢は、経膣分娩児と同様に、生後30日間は膣内細菌が優勢でした。

    つまり帝王切開分娩児でもこのような処置を施せば、赤ちゃんにとって有益な腟内細菌叢の部分的回復が可能であることを実証している、という内容でした。

    この研究成果はニュースに取り上げられ、帝王切開で生まれた赤ちゃんに対して、腟内細菌叢を塗るという「Vaginal Seeding」が一時の流行となりました。

    しかしながら、2017年8月にデンマークのNordsjaellands病院の報告によると、このような処置は普通分娩時に出会う菌とは同様ではない可能性が指摘されました[2]。それどころか、B群連鎖球菌のような病原菌を赤ちゃんに曝露する可能性があることを警告しています。

    細菌叢の回復が赤ちゃんの健康状態に与える長期的結果はまだ分かっておらず、今後も議論が続くこととなりそうです。

    [1] Partial restoration of the microbiota of cesarean-born infants via vaginal microbial transfer. Nat Med. 2016 Mar;22(3):250-3.

    [2] Vaginal seeding or vaginal microbial transfer from the mother to the caesarean-born neonate: a commentary regarding clinical management. BJOG. 2018 Apr;125(5):533-536.