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    日本人妊婦の中間的な腟内フローラと早産に関する研究

    学術誌Advances in Microbiologyに、子宮内フローラ検査の技術を用いて解析した論文が掲載されました。

    An Attempt to Classify Gram-Stained Vaginal Smears with a Nugent Score of 4 into Four Bacterial Morphotypes at First Prenatal Visit

    妊婦初診時、腟内細菌グラム染色標本でのNugent Score 4の4細菌形態分類への試み​

    腟内のLactobacillus(乳酸桿菌; ラクトバチルス)が減少し、病原性細菌が増殖してしまう「細菌性腟症」の診断方法として、Nugent Score が広く利用されています。Nugent Scoreとは、腟擦過物をスライドガラスに塗り、グラム染色法による形態学的観察によって、腟内に存在する3種類の細菌の有無や量を調べてスコア化する検査です。Nugent Scoreは、0から10点まであり、7点以上が細菌性腟症と診断され、0~3点が正常で、4~6点が中間群とされています。

    早産を防ぐために、妊娠初期に細菌性腟症の網羅的なスクリーニングと治療を行うべきかどうかが議論されています。特に、Nugent Scoreが4〜6点の中間群を治療の対象に含めるべきかどうか、決まった基準がないという問題があります。

    北海道では、全国に先駆けて、妊娠初期細菌性腟症のスクリーニング・治療が始まっています1)。スクリーニングの効果を調べるため、町立中標津病院 島野 敏司先生らは、Nugent Scoreが4点の日本人妊婦58名の腟内フローラを形態学的に分類し、早産への影響を報告しました。

    その結果、Nugent scoreが4点の腟内フローラは、混合型*、グラム陽性球菌型、Bifidobacterium型、無細菌型の4種類に亜分類できることがわかりました。

    *混合型とは Lactobacillus と Gardnerella または Bacteroides などの短桿菌との混合になります。

    グラム陽性球菌型の女性3名は、2名がGBS感染を経験し、切迫早産徴候を認めたため、ペニシリンと陣痛抑制剤による治療の結果、無事に正期産となりました。
    Bifidobacterium型10例のうち、無治療での分娩が5例、メトロニダゾール治療での分娩が3例、母体合併症を伴う早産が2例でした。

    無細菌型の7例のうち、早期破水を伴う早産と診断されたのは6例で、そのうち5例は予防的な抗生物質治療を行ったにもかかわらず早産となりました。

    Nugent Scoreが4点の妊婦さんの34.5%が混合型ではなく、少なくとも22.4%は、細菌性腟症に関与していないグラム陽性球菌型とBifidobacterium型でした。

    本研究では、Bifidobacterium型では無治療で正期産となった症例が5例ありました。そのため、Bifidobacterium型を持っている女性は細菌性腟症の治療をしなくてもよいと考えられます。

    一般的に、Bifidobacterium dentium 以外は非病原性とみなされています。特に Bifidobacterium bifidum とBifidobacterium breve は細菌性腟症の腟内に比べ、正常腟内に多頻度かつ高濃度で存在しており、これらは健全な腟内フローラの維持に重要な役割を果たしている可能性があります。以上より、Nugent score 4 のBifidobacterium型の妊婦においては、細菌性腟症の治療は必要なく、経過観察でよいと考えます。

    本研究により、Nugentスコアが4点の塗抹標本から、4つの細菌形態型に分類することは有効であり、細菌形態型によって必要な治療法は異なることが明らかとなりました。

    今後さらなる研究として、腟内フローラ型を参考に、妊娠経過を見てゆくことが重要となります。

    引用

    1) Shimano, S., Yamada, T., Sonoda, T., et al. (2016) Clinical Screening Strategies for Cervical Cancer, Chlamydia trachomatis Infection, and Bacterial Vaginosis in Pregnant Women in Hokkaido between 2004 and 2012: A Retrospective Study. International Journal of Women ’ s Health Care , 1, 1-5. https://doi.org/10.33140/IJWHC/01/01/00003