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    年齢に負けない良い菌環境を作るには?

    こんにちは。
    子宮内の菌環境を調べる「子宮内フローラ検査」など、ゲノムテクノロジーを応用した検査の開発・提供をしているVarinos(バリノス)です。

    近年の研究で、妊娠、出産に影響を与えることがわかってきた、腟や子宮内の菌環境(子宮内フローラ)は、年齢によっても変化する、と言われております。

    今回は、どのような仕組みで、年齢を重ねるとどういった現象が起きてくるのか、対策はどうしたら良いのかを、少し掘り下げてご紹介していきます。

    解説をしてくれるのは、VarinosのCEOで、研究者出身でもある桜庭さんです。

     

    良い菌環境を保ってくれる【自浄作用】における、「グリコーゲン」の大切さ

    編集部:
    以前「子宮内フローラ(子宮内の菌環境)が妊娠率や生児獲得率に影響すること」、「子宮内フローラは善玉菌・ラクトバチルスが90%以上存在していることが妊娠、出産にとって重要」というお話を聞かせていただきました。


    ↓詳細はこちら
    【専門家に聞く】子宮内フローラと妊娠率・生児獲得率の関係

    その大切な子宮内フローラが年齢によっても変化してしまう、という話を小耳にはさんだのですが、一体どういうことでしょうか?
    年齢を重ねていく過程での変化に対しては、諦めるしかないのでしょうか?

    桜庭さん:
    そうですね。確かに年齢によっても子宮内フローラは変化すると言えるでしょう。ただ諦めないといけないわけではありません。
    【自浄作用】という言葉をお聞きになったことはありますか?

    編集部:
    自浄作用…自分を自分の力できれいにする、ことでしょうか?

    桜庭さん:
    そうですね。おっしゃるように「自ら清浄する能力がある」ということですね。妊娠や出産において、大変重要な場所である、腟や子宮にもこの自浄作用が働いています。

    編集部:
    そうなんですか!私たちのカラダにはそんな頼もしい防衛システムが備わっていたのですね!一体どのような仕組みで腟や子宮を守ってくれているのですか?

    桜庭さん:
    言葉だけではなかなかイメージが湧かないかと思いますので、下の図を見ながら説明していきますね。

    腟や子宮での自浄作用において大切になってくるのが「グリコーゲン」というヒトや動物が体内で生成する炭水化物の一種です。

    グリコーゲンは腟や子宮の粘膜(上皮細胞)内に蓄積されていて、エネルギー代謝を経てブドウ糖に変わります。

    そのブドウ糖は腟や子宮内に存在する善玉菌・ラクトバチルスのエサとなります。

    編集部:
    なるほど。まずスタートは、腟や子宮の粘膜にあるグリコーゲンで、それがブドウ糖に変化して、善玉菌・ラクトバチルスのエサになるのですね。

    桜庭さん:
    さらにエサとなったブドウ糖は分解され、乳酸が生成されます。この乳酸の影響により腟や子宮内は酸性(pHは4~5)となり、その結果、多くの雑菌や病原体は死滅し、善玉菌にとって優位な「良い菌環境」、「整った子宮内フローラ」へと導きます。

    編集部:
    腟や子宮を守るために、グリコーゲンが善玉菌・ラクトバチルスのためのエサとなって、さらにそこから乳酸が作られて、結果、雑菌や病原体が嫌う酸性にして良い菌環境にしてくれるなんてすごい仕組みですね

    桜庭さん:
    本当によくできていますよね。

    編集部:
    となると、この仕組みのスタート地点であるグリコーゲンは多い方が良い、ということですよね?

    桜庭さん:
    そうですね。ではその点に関して説明していきます。

    自浄作用に欠かせないグリコーゲンを増やすには?

    桜庭さん:
    グリコーゲンの増幅には卵胞ホルモンである「エストロゲン」が大きく関わっています

    編集部:
    卵胞ホルモン・エストロゲンですか。なんだか月経周期などに影響するホルモンだったような気はするのですが、ちょっと解説をお願いします。

    桜庭さん:
    エストロゲンとは、卵巣から分泌されるホルモンで、おっしゃるように月経周期に大きく関わっています。女性ホルモンとして、黄体ホルモン(プロゲステロン)と卵胞ホルモン(エストロゲン)のセットで聞いたことがあるかもしれません。エストロゲンは卵胞の発育とともに産生されるため卵胞ホルモンとも呼ばれています。

    ちょっとホルモンの話は複雑なので、今回は割愛させてもらいますが、エストロゲンについて、大きな役割をご説明しますと、特に妊娠に適したカラダ作りをしてくれるホルモンと言えるでしょう。

    エストロゲンには様々な作用がありますが、今回のテーマですと、正常な腟粘膜の維持や子宮内膜を厚くし、その過程で粘膜(上皮細胞)内にグリコーゲンを蓄積していく働きがあります。
    特にエストロゲンが大量に出される(=腟や子宮の自浄作用が高くなる)のは「妊娠時」です。
    これは、受精卵の着床に備えて子宮内膜を分厚くすることに加えて、細菌性腟症など、早産の原因となり得る環境を防いでいるとも考えられています。

    編集部:
    エストロゲンによって腟や子宮の粘膜を維持したり、分厚くすることで、グリコーゲンが蓄えられる場所が増える、つまりエストロゲンがしっかり分泌されると、グリコーゲンを増やすことに繋がる、ということなんですね。
    先程、良い菌環境を保つためにはグリコーゲンが大事だと知りましたが、その前にはエストロゲンが関係していたのですね。なんだかバトンリレーのようですね。

    桜庭さん:
    その通りです。何か1つだけが大切、というわけではなく、バトンを受け渡しながら、チームで働いてくれています。

    腟や子宮を良い菌環境に保つために、重要な役割を果たしているエストロゲンですが、年齢を重ねるに伴い、量が減少していく傾向があります。閉経に伴い、卵巣の働きが弱まり、エストロゲンが減ることで脳が今まで出ていたエストロゲンをもっと出すよう、指示し過ぎてしまい、自律神経の調節バランスが崩れてしまうなどの、いわゆる更年期障害になってしまうことも知られています。

    編集部:
    年齢を重ねると女性ホルモンが減ってしまう、ホルモンバランスが崩れてしまう、といった漠然としたイメージはあったのですが、エストロゲンもその1つだったのですね。

    桜庭さん:
    エストロゲンが減ってしまうと、先程ご紹介した内容の逆のことが起きてしまいます。
    こちらもイメージ図をご覧ください。

    はじめにご紹介した自浄作用のイメージ図で、グリコーゲンの前にエストロゲンとの大切な関係を加えました。では、この図をもとにエストロゲンが減ってしまうとどういう影響があるのかを見ていきましょう。

    まず初めにグリコーゲンを蓄積する大切な場所である腟や子宮粘膜が薄くなります。つまり蓄積されるグリコーゲンが減り、善玉菌のエサとなるブドウ糖も減り、善玉菌・ラクトバチルスは十分なエサがない状態となります。その結果、乳酸の生成も減少。それにより、本来は酸性が望ましいところ、ほぼ中性の環境となってしまい、正常な自浄作用が低下し、雑菌や病原体が増えやすく、感染に弱い状態(腟や子宮内フローラが乱れた状態)となってしまいます。
    そのため婦人科や不妊治療専門クリニックではエストロゲンのもたらす作用の重要性からホルモン検査や補充療法が行われている場合もあります。

    編集部:
    年齢を重ねることでエストロゲンが減ってしまうのは仕方のないことですが、腟や子宮を良い菌環境にするために、何も打つ手はないのでしょうか?

    腟、子宮内の菌環境は改善できる

    桜庭さん:
    上記のようにホルモン療法に加えて、良い菌環境にするためにできることは他にもあります。本日の冒頭で、諦めないといけないわけではない、とお伝えした点です。実際の不妊治療専門クリニックでの対応例を参考にご紹介していきますね。

    良い菌環境を保つためには、食生活の改善はもちろん大事ですが、加えて、善玉菌・ラクトバチルスを増殖、定着させてあげることが大切です。
    そのために、「ラクトフェリンを補助的に摂取する」、という方法も不妊治療専門クリニックなどではとられています。

    ラクトフェリンは母乳に多く含まれる鉄結合性の糖タンパク質です。特に初乳に多く含まれており、生まれたばかりの赤ちゃんを、病原菌やウイルスから守る働きをしている大事な成分です。
    例えば、細菌性腟症の原因と言われるGardnerella(悪玉菌)等は増殖の際に鉄を必要とします。ラクトフェリンは、その鉄と結合することで、悪玉菌のエサとなる鉄分を奪い、悪玉菌の増殖を阻害、それにより善玉菌・ラクトバチルスを増やすことを補助してくれます。

    治療やラクトフェリン摂取の方法などは、医師が患者様の状態を「子宮内フローラ検査」などで把握し、的確な方法が選択されますので、気になる方は一度かかりつけ医にご相談ください。

    ↓子宮内フローラ検査についての詳細はこちら
    【専門家に聞く】子宮内フローラ検査で「わかること」と「向き合い方」

    編集部:
    腟や子宮を良い菌環境に保つために、知らないところで私たちのカラダのために雑菌や病原体と戦ってくれている善玉菌・ラクトバチルスの応援をしたくなってきました!
    ラクトフェリンは私たちがラクトバチルスを応援するために渡すことができるバトンかもしれませんね。
    本日はありがとうございました!

    専門家プロフィール

    Varinos株式会社
    創業者 代表取締役CEO
    桜庭 喜行

    埼玉大学大学院で遺伝学を専攻。博士取得後、理化学研究所ゲノム科学総合研究センターでのゲノム関連国家プロジェクトや、米国セントジュード小児病院にて、がん関連遺伝子の基礎研究に携わる。その後、日本に初めて母体血から胎児の染色体異常を調べるNIPTと呼ばれる「新型出生前診断」を導入したほか、医療機関や研究機関に対し、NIPTやPGT-Aと呼ばれる着床前診断などの技術営業を経て、2017年2月にゲノム技術による臨床検査サービスの開発と提供を行うVarinos株式会社を設立。同年、子宮内の細菌を調べる「子宮内フローラ検査」を世界で初めて実用化するなど、生殖医療分野の検査に精通。