妊娠初期の情緒不安定は赤ちゃんに悪影響?原因や対処法を紹介
妊娠すると、お母さんのからだの中では、様々な変化が起こります。
おなかの中で赤ちゃんが大きくなっていく喜びを感じつつも、つわりやお腹が大きくなるにつれ胃や膀胱が圧迫されることによる不調などで、身体的に辛い思いをすることもあります。また、赤ちゃんが無事大きくなってくれるか、生まれた後お母さんとしてやっていけるかなど心配に思うこともあるでしょう。
特に、妊娠初期は身体的な変化も大きく、情緒不安定になってしまうことがあります。そして、情緒不安定になっていることが赤ちゃんに悪影響を及ぼすのではないかと、さらなる不安が募ることもあります。妊娠初期の情緒不安定は一過性のものですが、お母さんにとってはとてもつらい症状の一つです。
そこで、今回は妊娠初期の情緒不安定の原因や症状、対処法、そしておなかの中の赤ちゃんにお母さんの情緒不安定が影響するのかについてお話します。
ぜひ、リラックスしながら読み進めてください。
目次
妊娠初期とは
妊娠初期は、妊娠0週から妊娠13週6日までの期間を指します。*
妊娠初期はホルモンバランスの変化などにより、体のだるさや眠気、頭痛、嗅覚の変化、頻尿・便秘など様々な症状が現れることがあります。ただし、これらの症状は個人差があります。
*2018 年発行の産科婦人科用語集・用語解説集(改訂第 4 版)より
妊娠初期は、ホルモンが急激に変化することにより、情緒不安定になることがあります。「マタニティブルー」という言葉を使われることもあります。
そもそも女性ホルモンには、「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」という2つがあります。月経周期により女性が心身ともに影響を受けるのは、これらのホルモンによるものです。
エストロゲンが増える卵胞期は精神状態が安定し、エストロゲンが減りプロゲステロンが増える黄体期は精神状態が不安定になりやすくなります。
妊娠が成立すると妊娠後期までプロゲステロンは増え続けます。そのため、妊娠初期から出産まで妊婦さんは情緒不安定になりやすい
のです。
まずは、情緒不安定がご自身のせいではなく、「ホルモンの影響で仕方がない」と理解することで少し気持ちが楽になるのではないでしょうか。
妊娠初期に起こる情緒不安定の症状とは?
普段は気分の浮き沈みがほとんどない方でも、妊娠初期のホルモンバランスの急激な変化により
・わけもなくイライラする
・気分が落ち込む
・涙もろくなる
といったことで、戸惑いを感じる方もいます。
妊娠初期の情緒不安定はいつからいつまで続く?
妊娠初期の症状は全般的に個人差があります。精神的な変化を感じない方もいれば、妊娠判明直後から情緒不安定になる方もいます。
妊娠初期の情緒不安定は、
2~3日で収まることが多いと言われますが、数週間続く方もいます。
注意が必要!妊娠初期の情緒不安定(マタニティブルー)とうつ(鬱)の違い
妊娠初期に情緒不安定の症状が現れた場合、気を付けたいのが一過性の妊娠初期症状の一つなのか、それとも「うつ(鬱)」なのかです。
妊娠初期症状としての情緒不安定の場合、
女性ホルモンのプロゲステロンが増加することにより引き起っているため、
数日~数週間で改善することがほとんど
です。
一方、
うつ(鬱)病は、
心理的なストレスがきっかけとなり、脳の働きのバランスが崩れることで発症すると考えられています。妊娠初期症状の情緒不安定が強く影響し、うつ病が発症する可能性もあります。うつ(鬱)の場合は、
できるだけ早い段階で治療を始めることが重要です。
ただし、症状が似ているため、ご自身や家族が妊娠初期症状なのか、それともうつ病なのかを判断するのは難しいと言えます。数週間経過しても症状が改善しない場合や症状が重い場合は、医療機関を受診するようにしましょう。
妊娠初期の情緒不安定は赤ちゃんに影響するのか
お母さんの情緒不安定やうつ(鬱)は、胎児の発育や子どもの成長に影響する可能性があると言われています。
妊娠初期のストレスと胎児や子どもの成長との関係
妊娠初期に強いストレスを感じると、赤ちゃんに影響する可能性があります。
人はストレスを感じると体内にアドレナリンやコルチゾールというホルモンが分泌されます。
アドレナリンは、危険から体を守るための闘争・逃走反応に関連するホルモンで、アドレナリンが分泌されると、心臓や手足、脳などに血液を多く送り届けるようになります。そうすると、子宮に送られる血液量が減ってしまいます。お母さんの血液は胎盤を通し、胎児に酸素や栄養を届けています。そのため、血液量が減ると胎児の発育に悪影響が出る可能性があります。
また、コルチゾールは、ストレスホルモンとも呼ばれるホルモンで、妊娠初期にたくさん分泌されると胎児の胎動や心拍を減らしてしまう、あるいは神経機能への障害や低体重を引き起こすリスクが高まる可能性があると言われています。
なお、妊娠中期以降になると、コルチゾールは胎盤でブロックされて胎児まで届くことはないとされています。
妊娠中のうつ(鬱)と胎児や子どもの成長との関係
妊娠初期ではありませんが、周産期(妊娠22週から出生後7日未満)のお母さんの心理状態は将来の子どもの情緒的および神経的発達にも大きな影響を与えることがわかっています。
O’Connor T.G., Heron J., et al, Maternal antenatal anxiety and behavioral/emotional problems in children: a test of a programming hypothesis. Journal of Psychology and Psychiatry 44:7, 1025-1036, 2003
このようなことからも、妊娠中は、胎児の成長や生まれてくる赤ちゃんのその後の成長のためにも、できるだけストレスをためないこと、うつ(鬱)が疑われる場合は早期に医療機関を受診することが大切です。
▶妊娠中に葉酸の摂取が6カ月を超えると産後うつのリスクが軽減すると論文も。妊活中から妊娠中もずっと大切な葉酸とは?
妊娠初期の情緒不安定。対処法は?
妊娠初期に「情緒不安定になっているかも」と思ったら、まずはあまり思いつめず、できることをできる範囲内で取り組んでみましょう。
自律神経を整える
自律神経がメンタルに影響していることはご存じでしょうか?
自律神経は全身に張り巡らされており、循環・呼吸・体温調節・消化・分泌・排泄など、基本的な生命活動を維持する機能を担っているとても重要な存在です。
自律神経には、“アクセル”の役割をする「交感神経」と“ブレーキ”の役割をする「副交感神経」の2種類があります。主に体を活発に動かす時に働く交感神経と主に体を休める時に働く副交感神経は相反する働きですが、この2つが上手く働くと、心身ともに健康な状態が保たれます。しかし、例えば、強いストレスがかかると、交感神経が優位な状態になり興奮や緊張状態となってしまいます。
そのため、「交感神経」と「副交感神経」が上手く働きバランスの取れた状態にすることが大切なのです。
自律神経が乱れる要因として代表的なものが「ストレス」と「生活習慣の乱れ」
です。この2つに上手く対処し、自律神経を整えましょう。
ここでは、いくつか方法をご紹介しますが、人により合う・合わないがあるものもあります。取り入れやすいものから始め、ご自身にあった方法を見つけていただければと思います。
ストレスを解消し、自律神経を整える
妊娠初期は、これまでは感じていなかった不安やストレスを感じるようになることがあります。
まずは、何が自分のストレスになっているのか、原因を考えてみましょう。
・つわりなど、体調が優れない日々が続いていること?
・仕事との両立が大変なこと?
・今までできていたことが、できなくなったこと?
・旦那さんやパートナー、周囲の人から自分の気持ちを理解してもらえないこと?
・赤ちゃんが無事に育ってくれるか不安に思っていること?
・赤ちゃんが生まれた後、お母さんとしてやっていけるか心配に思っていること?
など、何に対して不安や不満、ストレスを感じているかを考えてみてください。
原因がわかったら、自分一人で抱え込まず、パートナーや身近な人、職場の人、医師などご自身が話しやすい相手に相談してみましょう。大切なことは漠然とした不安や不満、ストレスを一人で抱え込まないことです。ご自身では思いつかなかった解決策が見つかることや不安を払拭できるきっかけとなるかもしれません。
また、ご自身がリラックスできる、あるいは楽しいと思えることに取り組むとはストレス解消にもつながります。自分のための時間を設けて、心身ともにリラックスできる環境づくりを意識してみてください。
[旦那(パートナー)はわかってくれない?]
妊娠がわかって間もない妊娠初期。女性は心身ともに多くの変化を感じます。一方、男性は体の変化もないため、お父さんになる実感がわかない方もいるでしょう。
そして、女性がホルモンの影響で情緒不安定になることがあるというのを知らない方も多いかもしれません。そのため、女性のつらさを理解できずに寄り添った言葉や行動ができない方もいるかもしれませんし、女性のイライラをぶつけられ、男性側もイライラするという負のスパイラルに入ってしまうこともあるかもしれません。。
ご主人やパートナーにも、妊娠初期の症状の一つとして、情緒不安定があることを伝え、理解してもらうと良いでしょう。
生活リズムを見直し、自律神経を整える
自律神経は約24時間の周期でバランスを保っています。そのため、食事や睡眠など、日々の生活リズムが乱れると自律神経の中枢である脳の視床下部に負担がかかり、自律神経を乱す要因となってしまいます。
日々の生活の中で、以下のことを意識してみると良いでしょう。
・朝日を浴びて、体内時計をリセット
・睡眠は質と量を意識する
・ぬるめのお湯に浸かる
・寝る前にスマホは見ない
・適度な運動を行う
まずは、毎日できるだけ決めた時間に起きるようにしましょう。そして起床後は、朝日を浴びることで、そこから14~16時間後に「メラトニン」という快適な睡眠をとるために必要なホルモンが分泌されます。さらに、良質な睡眠をとるためには、寝る1~2時間前にぬるめのお湯(38~40度程度)に15~20分ほど浸かる、あるいは就寝2時間前くらいから、ブルーライトを発するスマホ等をみないようにするという工夫をされるのも良いでしょう。
また、日々の生活に適度な運動を取り入れるのも自律神経を整えるために有効です。
30分から1時間程度のウォーキングや仕事合間のスクワットなどは血流が良くなり、自律神経が整うと言われています。ただし、高強度の運動やランニングは交感神経系が優位な状態が長引くことがあると言われています。特に妊娠初期は体調も不安定になりがちですので、無理ない範囲の適度な運動を心がけましょう。
自律神経を整えるその他の方法
≪体を温め自律神経を整える≫
交感神経が活性化すると、血管が収縮して手足が冷たくなります。反対に副交感神経が活性化すると、血管が広がり手足が温かくなります。
これは逆も言え、体が冷えると自律神経が乱れやすくなるため、意識的に体を温めることでリラックス状態にし、自律神経を整えることができます。
体を温めるためには、お風呂でお湯に浸かる以外に、温かい食べ物や飲み物、体を温める食材をとることを意識すると良いでしょう。
体を温める飲み物:
・温かいルイボスティ
・温かいごぼう茶
・白湯
など、ノンカフェインで無糖のものを選びましょう。コーヒーや緑茶、紅茶などに入っているカフェインは利尿作用があり、水分が体の外に出されることで体を冷やすことにつながってしまいます。同様に麦茶も原料の大麦に体を冷やす作用があると言われ、また利尿作用のあるカリウムも多く含まれるので、体を温める飲み物としては向いていません。
※ルイボスティやごぼう茶も摂りすぎると体に良くない影響を与える可能性もあります。飲みすぎにはご注意ください。
また、体を温める食材は以下のようなものがあります。
体を温める食材:
[野菜]玉ねぎ、ネギ、ニラ、(加熱や乾燥させた)生姜、にんにく、かぼちゃ、ごぼう、にんじん、れんこんなど
[たんぱく質]お肉・お魚
[果実]りんご
[発酵食品]味噌・納豆
[その他]ナッツ類・ココア
旬が冬のものや寒い地域で収穫されるものに体を温める食材が多いと言えます。
≪腸活により自律神経を整える≫
「脳腸相関」
という言葉はご存じでしょうか?
実は、脳と腸は密接に影響を及ぼしあうことがわかっています。そして、腸内環境を整えることで、自律神経も整うと言われています。
腸内環境を整えると、セロトニンやオキシトシン(いわゆる幸せホルモン)というメンタルを安定させるのに重要な役割を果たすホルモンを出す神経細胞が活性化され、たくさん分泌されるようになります。腸内環境が良くなることで、脳に刺激が伝わり、脳の血流が良くなり、全身に質の良い血液が流れるため、メンタルも整うという流れです。
腸活と何をしたらよいの?と思われる方もいるかもしれません。
そもそも腸内には、いてくれると良い働きをする「善玉菌」と良くない働きをする「悪玉菌」、善玉菌もしくは悪玉菌の多い方に味方をする「日和見菌」がいます。そして、腸活は腸内環境を良くするために、食べ物の工夫や運動をすることを言います。
腸活にオススメの食べ物:
[発酵食品]納豆・キムチ・味噌・ぬか漬け
[キノコ類]
[海藻類]わかめ・寒天
[ヨーグルト]商品により、含まれる乳酸菌の種類が違うため、自分に合うものを見つけることが大切
[果実類]リンコなど
[野菜]ニンニク・ごぼう・玉ねぎ
[大豆製品]豆乳・豆腐・きなこ
※豆乳や豆腐は、食材としては「体を冷やす」ものに分類されます。豆腐を食べる場合、湯豆腐で薬味を入れて食べる、みそ汁の具材にするなど、体を冷やさない工夫をすると良いでしょう。
妊娠初期の情緒不安定に関するまとめ
妊娠初期の症状の一つである情緒不安定についてご紹介しました。
・妊娠初期は、プロゲステロン(黄体ホルモン)という女性ホルモンの量が増えることでホルモンバランスが乱れ、情緒不安定(マタニティブルー)になることがある。
・妊娠初期の情緒不安定の症状としては、「わけもなくイライラする」「気分が落ち込む」「涙もろくなる」などがある。
・妊娠初期の情緒不安定は、2~3日で収まることが多いが、数週間続く方もいる。
・妊娠初期の情緒不安定とうつ(鬱)病は症状が似ているため、ご自身や家族が妊娠初期症状なのか、それともうつ病なのかを判断するのは難しく注意が必要。
・お母さんの情緒不安定やうつ(鬱)は、胎児の発育や子どもの成長に影響する可能性があると言われている。
・妊娠初期の情緒不安定への対処法として「自律神経を整える」方法がある。
・自律神経が乱れる要因として代表的なのが「ストレス」と「生活習慣の乱れ」。この2つに上手く対処し、自律神経を整えると良い。
情緒不安定は妊婦さんにはつらい症状の一つです。記事でご紹介した対処法で取り入れられるものがあれば、ぜひ取り入れてみてください。ただし、それ自体がストレスになってしまう方もいるかもしれません。ご自身が無理なく取り入れられるものを無理ない範囲で取り組まれてみてください。
この記事の監修者
医療法人社団 俵IVFクリニック
俵 史子 理事長/院長
浜松医科大学 医学部卒業
平成15年~ 豊成会竹内病院 トヨタ不妊センター
平成19年 9月 俵史子IVFクリニック 院長
現在 医療法人社団 俵IVFクリニック 理事長/院長
[専門医・指導医]
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医 指導医
日本生殖医学会 生殖医療専門医 指導医
日本臨床遺伝専門医
[役職]
国立大学法人浜松医科大学 臨床教授・非常勤講師
日本受精着床学会 評議員