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    知ったら絶対摂りたくなる!?~「葉酸」が妊娠前から妊娠中ずっと大切な理由とは?

    こんにちは。
    子宮内の菌環境を調べる「子宮内フローラ検査」など、ゲノムテクノロジーを応用した検査の開発・提供をしているVarinos(バリノス)です。

    葉酸は、赤ちゃんの二分脊椎(にぶんせきつい)予防のために必要だから、妊娠初期にサプリメントで補う必要があると思われている方も多いのではないでしょうか?
    国としても、妊娠の可能性のある女性に、食事とは別に効率よく体に吸収されるサプリメントで400㎍の葉酸を摂ることを勧めているのですが、実はそれだけではないのです。

    葉酸は、近年の研究で「不妊治療」「産後」にも関わることがわかってきています。

    今回は、古賀文敏ウイメンズクリニック院長・古賀 文敏先生に、葉酸の重要性を教えていただきました。

    諸外国に比べ、「葉酸」への意識が低い日本

    ―葉酸というと胎児期に起こる脊椎の形成異常の1つである二分脊椎を予防するために、妊娠初期に必要な栄養というイメージが強いのですが…。

    古賀先生:
    そうですね、二分脊椎は胎児期の神経管閉鎖障害によって起こります。そして、排尿障害や排便障害、歩行障害などを引き起こします。顕在性二分脊椎の場合、90%が水頭症を合併し発達障害を起こすため、生まれてすぐにシャント術という手術が行われます。

    諸外国では、二分脊椎と葉酸の関連が疫学的に証明されていたことから、かなり早い段階から葉酸摂取の対策がとられていました。しかし、日本では二分脊椎の件数が少なかったこともあり、国として対策がとられていなかったので、諸外国はどんどん二分脊椎の件数が減っていくのに対し、日本における二分脊椎の件数は増え続け、諸外国を抜き件数は逆転していきました。そこで、日本でも、2000年に厚生労働省が食事以外に、葉酸をサプリメント等で補った方がよいという発表をしました。

    ―そこから、日本でも少しずつ妊婦さんが葉酸をサプリメントで摂るといった流れができてきたということなのですね。

    古賀先生:
    そうですね、ただ、2000年以降も日本において二分脊椎の件数は諸外国ほど減ってきていません。理由はいくつかありますが、例えば欧米では二分脊椎の件数がかなり多かったこともあり、穀物などにも葉酸を配合しています。一方、日本では、葉酸の摂取が義務化されているわけではありませんし、文化としてもサプリメントの過剰摂取を危惧するところがあるので、欧米ほど葉酸を摂取するという傾向にはなっていないと思います。

    また、二分脊椎を引き起こす原因としては、
    ・葉酸の摂取量不足による栄養学的因子
    ・環境因子(糖尿病、肥満、てんかん薬の内服、放射線被ばく、妊娠前期の高熱発作、ビタミンAの過剰摂取など)
    ・遺伝的因子
    があると考えられています。

    妊娠前から葉酸のサプリを十分に内服することで発生リスクは、70%から80%低減できるとされていますが、二分脊椎を引き起こす原因は葉酸不足だけというわけではありません。そして、二分脊椎の発症頻度としては、現在、分娩1万人あたり、5.05人です。そのため、二分脊椎の予防という観点で葉酸は大切と言われていても、すべての方が積極的に葉酸サプリで栄養を補おうとしているかというと、そういうわけではないと思います。

    「葉酸」は妊娠率・出産率・産後うつにも関わっている

    ―ただ、近年、葉酸は赤ちゃんの二分脊椎予防のためだけではなく、妊娠を望む方にとっても、そして産後のお母さんにも大切な栄養ということがわかってきているということですね??

    古賀先生:
    はい、そうです。ただ、このあたりは、まだご存じない方も多いかもしれません。
    私たちのクリニックでは、不妊外来初診時に様々な検査を受けていただきます。卵巣予備能検査であるAMHやFSH、E2、PRL、TSH以外に25-OHビタミンDや葉酸、ホモシステインなどの値も測定しています。

    ☟ビタミンDについてはこちらから
    “卵の質と数”の観点でも注目を集める「ビタミンD」~充足群では流産率低減も

    なぜ葉酸に注目しているかというと、葉酸の摂取ができていると

    ・妊娠率が上がる
    ・流産率が下がる
    ・産後うつが軽減する

    といったことがわかってきているからです。

    いくつか論文を紹介します。

    Dietary folate and reproductive success among women undergoing assisted reproduction
    食事性葉酸摂取3000㎍/日、葉酸サプリ1200 ㎍/日までは、摂取量が増えるほど生殖補助医療の成績が向上するといったことが示されています。

    Maternal Prepregnancy Folate Intake and Risk of Spontaneous Abortion and Stillbirth
    葉酸サプリ730 ㎍/日で流産リスクが20%減少したということが示されています。

    Association between Duration of Folic Acid Supplementation during Pregnancy and Risk of Postpartum Depression
    妊娠中に葉酸の摂取が6カ月を超えると産後うつのリスクが軽減するといったことが示されています。

    二分脊椎の予防という観点だけで葉酸の重要性を考えると、妊娠初期にしか関係ない栄養なのですが、妊娠前から妊娠中にずっと必要な栄養であることがお分かりいただけるのではないでしょうか。

    「葉酸」は『人の心』や『疾病』にも影響する

    ―葉酸は、妊娠を考えはじめたときから継続して摂取しておいたほうがいいのですね。

    古賀先生:
    妊娠を考えはじめた女性は葉酸をサプリでも摂取され始めたほうがいいと言えますね。
    ただ実は、葉酸についてわかってきているのはそれだけではないのです。

    嬉しい気持ちや快楽をもたらす「ドーパミン」や気持ちを安定させる「セロトニン」とも関係していること、また解毒に関わる「グルタチオン」などにも影響することがわかっています。

    これらは「メチレーション」というものに関係しています。詳しく話すと難しくなってしまうので、すごく簡単に説明しますね。

    幸せ・やる気に関わってくる「神経経路」、そして解毒などに関わる「メチル化経路」というものがあるのですが、下図をご覧いただくとわかるように、この2つの間に葉酸経路があります。

    それぞれの経路は関係しているので歯車をイメージいただくと良いかもしれません。
    上図のように真ん中に位置する葉酸経路が上手く回らないと神経経路やメチル化経路も上手く回らなくなってしまうと考えられています。

    葉酸経路をちゃんと回すには、体内に十分なだけの葉酸を取り込むことが大切です。

    ちなみに、上図の一番右(黄色の歯車)のメチル化経路がうまく回ることもとても大切で、上手く回らないと
    ・がん(免疫)
    ・自閉症
    ・うつ
    ・動脈硬化
    ・心筋梗塞
    などにつながる要因の一つと考えられています。

    なぜ?の部分が気になる方もいると思いますが、この場では専門的になりすぎるので割愛しますね。

    ―今度、機会があれば別の記事でじっくりご紹介できればと!

    プレコンセプションケアの主要な指標の一つにも「葉酸」が

    ―葉酸は、妊娠期間中にサプリで飲むものというイメージがありましたが、葉酸は男女問わず必要な栄養と言えそうですね。

    古賀先生:
    そう考えていただいて良いと思います。
    今、「プレコンセプションケア」という言葉が浸透しつつありますよね。“将来の妊娠を考えながら、女性やカップルが、自らの生活や健康に向き合うこと”なのですが、2006年に米疾病管理予防センター(CDC)が発表した10の主要な指標の一つに葉酸摂取が入っています。

    またタイムズ誌でも以前取り上げていましたが、Developmental Origins of Health and Disease(DOHaD理論)では、「将来の健康や特定の病気へのかかりやすさは、胎児期や生後早期の環境の影響を強く受けて決定される」とされています。

    そのため、特に女性は20~30代になったら、自分の健康というものが、次の世代にまで影響を与えるということを意識されると良いと思います。

    私たちのクリニックでは、2010年から不妊治療においても食事療法を取り入れ、患者様向けにセミナーも開催しています。『私たちの体は食べたものでできている』このことを忘れないようにしてくださいね。

    ―古賀先生、ありがとうございました!
    古賀先生のお話では、世界的に妊娠率や出産率に関係する栄養としてエビデンスがでているのは、葉酸と「ビタミンD」ということです。
    「ビタミンD」については以下の記事で古賀先生にお話を伺っています。ぜひ本記事と合わせてご覧ください!

    https://note.com/varinos/n/na8ef056bcfa4

    ≪古賀 文敏(こが ふみとし)医師≫プロフィール

    略歴
    1996年 大分医科大学(現大分大学)卒業
         久留米大学産婦人科入局
    1999年 国立小倉病院周産期病棟医長
    2004年 久留米大学病院不妊・内分泌部門主任
    2007年 福岡市中央区大名に古賀文敏ウイメンズクリニック開院
    2014年 福岡市中央区天神に移転・拡張、胎児診断部門併設
    2021年 事業構想大学院大学卒業、事業構想修士(MPD)

    日本生殖心理学会理事長、日本レーザーリプロダクション学会副理事長、
    日本IVF学会理事、日本受精着床学会評議員、日本生殖内分泌学会評議員

    資格
    日本産科婦人科学会専門医、日本人類遺伝学会専門医、
    福岡大学産婦人科臨床教授

    ≪古賀文敏ウイメンズクリニックについて≫

    クリニック名:古賀文敏ウイメンズクリニック
    院長:古賀 文敏 医師
    住所:〒810-0001
    福岡県福岡市中央区天神2-3-24 天神ルーチェ5F
    HP URL:https://koga-f.jp/