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    不妊検査に「無菌の水」が不可欠な理由

    こんにちは。
    子宮内の菌環境を調べる「子宮内フローラ検査」など、ゲノムテクノロジーを応用した検査の開発・提供をしているVarinos(バリノス)です。

    お台場にあるVarinosのラボには、大きく4つの検査室があります。

    その中で、医療機関から到着した検体からDNAだけを抽出するという、とても大事な作業をする部屋(上図 ②Pre-PCR Room)は、「準クリーンルーム」に位置付けられており、空気清浄度が高いレベルに保たれています。

    普段は社員とはいえ、検査員以外は気軽に入れる部屋ではありません。。。
    ラボツアーという研修の一環で検査室を見学したときのこと。ふと目に入ったのが、水場にある浄水器のような機械。

    一見、普通の浄水器のようにも見えますが、子宮内フローラ検査にとって、「水」はとても重要なもので、検査工程においても複数の水を使い分けているそう!

    そこで、今回はVarinosで実際に使っている機器に誰よりも詳しい、臨床検査本部の芦川さんに「検査」と「水」についての話を聞きました。

    子宮内フローラ検査の工程で使う“特別な水”とは?

    編集部:
    子宮内フローラ検査に使用する「水」は、ただの水ではないらしいですね!?

    芦川さん:
    そうですね、ただの水道水ではないですね。(笑)
    以前、noteでも書かれていたと思いますが、最初に少しおさらいをしましょう。

    ◇人間だけではなく、動物や植物、そして細菌も皆「DNA」を持っている
    ◇「DNA」がもつ遺伝情報を「ゲノム」といい、「ゲノム」により生物の特徴が決まる(どの細菌かを判別できる)
    ◇子宮内には超微量の菌しかいない(しかし、子宮内の菌の比率が妊娠率に影響していることがわかっている)

    勘の良い人はお気づきかもしれませんが、子宮内フローラ検査は“超微量な菌”を調べていく検査です。最初の工程である、検体から細菌のDNAだけを抽出する際、空気中を漂う細菌や器具に付着している細菌が入ってしまうと、正確な結果を導きだすことができません。

    なので、準クリーンルームとして、空調も一定になるようにしていますし、器具にも検体以外の菌が付着しないように細心の注意を払っています。

    その一つが「水」です。

    編集部:
    やっと「水」の話ですね!あの青い浄水器は「無菌の水」ということになるのですか?

    芦川さん:
    あの機械から出てくるのは「超純水」というものです。限りなく無菌に近いものです。あとで話しますが、これとは別に「DNAフリー」という水もあります。それは、菌だけではなく菌由来のDNAすら入っていないものです。

    編集部:
    菌だけではなく、DNAも入っていない??どういうことですか?

    芦川さん:
    菌は大きいので、超純水でも除去できていますが、DNAは菌を構成するもので、すごく小さいんですね。それもすべて取り除いているのが「DNAフリーの水」ということになります。
    当然、DNAの処理をするなど、手間のかかった水なので、お高くなってきます。

    “出来立ての水”であることが重要な理由

    編集部:
    超純水とDNAフリーの水はどのように使い分けているのですか?

    芦川さん:
    まず超純水は、器具などを洗浄するのに使います。エタノールや次亜塩素酸できれいにした後、最後に超純水で洗い流します。DNAフリーの水は、検体の処理や試薬と言われる検査に使うための薬剤を溶かしたりするのに使います。

    編集部:
    検査室では、超純水とDNAフリーの水をストックしていて、用途に合わせて使っているのですね!

    芦川さん:
    ストックしているといっても、作り置きはできないんです。例えば、超純水を機械から出して放置すると、どんどん二酸化炭素が溶け込みpH(酸性、中性、アルカリ性を表す尺度)が変動してしまいます。きれいな水ほど、よく溶け込んでしまうんです。
    だから「使う時に作る」というのが原則です。

    編集部:
    では、超純水をつくるのには結構時間がかかるのですか?

    芦川さん:
    それほどかかりません。家庭用の浄水器でもすぐに浄水された水がでてきますよね?イメージは同じです。
    ちなみに、超純水をつくる浄水器の前半の工程は、家庭用の浄水器とほぼ一緒です。機械の中で、前半の工程が終わった水を貯めておき、超純水が必要な時に後半の工程を進めることで、「出来立ての超純水」が出てきます。

    編集部:
    「出来立ての水」って表現は、生まれてはじめて聞いたかもしれません。笑

    芦川さん:
    この機械のおかげで、超純水を水道水から作ることができるのですが、でてきた水が超純水であるかも常にチェックしています。
    オームの法則って覚えています?

    編集部:
    名前だけはかろうじて…

    芦川さん:
    中学の理科で出てくると思うのですが、「電圧の大きさは、電流が大きくなるほど大きくなり、抵抗が大きくなるほど大きくなる」という法則です。

    「不純物のない水は電気を通しにくい」ため、機械から出てくる水がどのくらい電気を通さないか(抵抗値)を図り、品質をチェックしています。

    それだけではなく、もう一つ、全有機体炭素(TOC:Total Organic Carbon)という水の中に存在する有機物の総量も計測しています。これは「水の汚れ」を示す指標の一つです。

    このように、「電気の抵抗値」と「TOC」を常に計測して、超純水のクオリティを保っています。

    編集部:
    すごく厳格に管理された水なのですね!これほど、きれいに処理された水は、飲んでもおいしいのですか?

    芦川さん:
    飲んでも問題ないですが、おいしいかはまた別ですね。
    よく「軟水」や「硬水」という水のジャンルを聞くと思います。この二つの違いは「硬度」で、カルシウムやマグネシウムの含有量が異なります。
    話を戻すと、超純水はこういったカルシウムやマグネシウムも排除されているので、水は水ですが、好んで飲むようなものではないですね。笑

    子宮内の超微量な菌を解析する検査だからこそ、随所に細心の注意が必要!

    編集部:
    子宮内の超微量な菌を解析するために、各工程でいくつもの工夫を行っていること、その積み重ねで、業界最高水準の精度で菌を検出できるようになったことは知っていましたが、水一つとっても「使い分け」や「常に品質をチェック」しているとは知りませんでした。

    子宮内フローラの検査の中でも、Varinosの子宮内フローラ検査の判定不能率(限界値)が本当に低いと医療機関から評価される背景には、こういった工夫が髄所にあるからなのですね。

    水についての知識がインプットされたところで、今度飲み比べしてみたいです。利き水。笑

    芦川さん:
    超純水とミネラルウォーターだったら、簡単にわかると思いますよ!

    専門家プロフィール

    Varinos株式会社 臨床検査本部 臨床検査部長
    芦川享大

    宇都宮大学大学院 修士(農学)課程修了後、2003年、理化学研究所に入所。遺伝子多型研究センターでの国際HapMapプロジェクトやゲノム医科学研究センターでのオーダーメイド医療実現化プロジェクト、統合生命医科学研究センターでの次世代シークエンサーによる疾患ゲノム解析に従事。2017年Varinos株式会社に入社し、子宮内フローラ検査の開発に携わる。現在は、臨床検査本部 臨床検査部長として同社の研究・開発、検査における責任者を務める。

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