「不妊治療はどんどん太る」はホント?妊活中の適正体重とは?
妊活、特に体外受精や顕微授精などの不妊治療を始めてからどんどん太ると感じている女性もいらっしゃるようです。
女性にとって、自分の意図しない見た目の変化は、精神的な苦痛にもつながります。
そこで、今回は、三軒茶屋ARTレディースクリニック院長の坂口健一朗医師に
◇不妊治療によりどんどん太る可能性があるのか
◇不妊治療を行う上での適正体重
などについて、伺いました。
目次
「不妊治療=太る」というわけではない
体外受精(顕微授精)を行う場合、採卵や胚移植というステップが欠かせません。
これらの過程では、排卵誘発剤やエストラーナテープなどホルモンに影響する薬を使用します。このことが体重増加に影響しているのではないかと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、不妊治療に使用する薬が直接的に体重増加を促すことはないと言われています。
▼体外受精における採卵や排卵誘発の詳細はこちら
不妊治療による“一過性”の体重増加やむくみは起こる可能性あり
不妊治療に使用する薬を使い続けることで、どんどん太るということはないと言えますが、
治療の過程で一時的に体重の増加やむくみを感じる可能性はあります。
太ったと感じる一過性の症状①採卵後のお腹の張り
排卵誘発剤を用いた不妊治療を行い、
10個以上採卵できた場合やエストロゲンの値が高くなると、卵巣の腫大や腹腔内に腹水が溜まることでお腹の張りを感じることがあります。
基本的には、生理がくるとお腹の張りや違和感は、ほぼ改善されると言えます。
ただし、症状には軽度から重度まであり、重度の場合は腹痛や呼吸困難が生じることもあります。異常を感じた場合は、すぐにかかりつけ医を受診するようにしましょう。症状が重い場合、治療や入院が必要になる場合もあります。
太ったと感じる一過性の症状②胚移植を行うホルモン補充周期でのウトロゲスタン投与によるむくみ
ウトロゲスタンとは黄体ホルモンのことです。子宮内膜に作用し受精卵が着床しやすい環境にするために使用します。ウトロゲスタンの副作用の一つとして、手足のむくみやお腹が張るなどの症状があります。
手足のむくみやしびれ、頭痛、息切れ、胸の痛みなどの症がある場合は、血栓症の可能性もあるため、かかりつけ医を受診するようにしましょう。
『採卵後に体重が増えた、スカートが入らなくなったという話を患者さんから聞くことはありますが、それは一過性のものと言えます。
太ったというのが、体重が増加したのか、それともむくみ等により見た目が太ったと感じるのかにもよりますが、
採卵後や胚移植を行うホルモン補充周期でエストロゲンやプロゲステロンの投与をはじめると、体が水分を蓄えようとしたり、食欲が増すことがあるため、その時はどうしてもむくみや体重の増加が気になるということもあるかもしれません。
基本的にこれらは一過性の症状ですが、ホルモン剤の使用を続けている場合、むくみは継続する可能性があります。(坂口院長)』
不妊治療のストレスによる体重の増加
一次的な体重の増加やむくみではなく、不妊治療を始めてからどんどん太ってしまっているという場合、それは不妊治療のストレスなどによる副次的な影響も考えられます。
不妊治療により、精神的な負荷を感じる方は少なくありません。
ストレスを感じた際に通常よりも多く食べてしまう傾向にある方は、不妊治療による恒常的なストレスで食べる量が増え、結果、徐々に体重が増加してしまっている可能性があります。
ストレスを解消することは大切なことですが、過食により目に見えて太ってしまうと、それがさらにストレスになってしまうこともあります。また、
太りすぎは妊娠・出産の観点でもリスクが伴います。
定期的に体重を確認し、食べる内容や量を見直すようにすると良いでしょう。
【アンケート結果】不妊治療により、太るかどうかは個人差がある
VarinosのInstagramやX、LINEを用い、不妊治療や妊活に取り組まれている方に、「体外受精を始めてから、太ったと感じますか?」というアンケートを実施しました。
その結果、「太った(48%)」、「変わらない(50%)」、「痩せた(2%)」となり、アンケートからも、
一概に体外受精により太る傾向にあるとは言えず、個人差があることがわかります。
妊活/不妊治療中に意識したい、適切な体形とは
妊娠や出産においては、太りすぎも痩せすぎも良くないと言われています。
妊娠・出産におけるBMIの適正範囲
BMI(Body Mass Index)は、体重と身長から算出される体格指数です。
日本肥満学会では、BMIが22を適正体重(標準体重)とし、25以上が肥満、18.5未満を低体重と分類しています。
『妊活や不妊治療中においては、BMIが18から22~3の範囲になるよう体重を管理されると良いでしょう。(坂口院長)』
BMIの算出方法
BMIは、以下の計算式で求めることができます。
注意点としては、身長はm(メートル)で計算するということです。
BMI = 体重(kg)÷{身長(m)×身長(m)}
例えば、身長158cm、体重50kgの場合、計算式は以下となります。
50kg÷{1.58m×1.58m}=20.0
つまり、BMIは20となります。
BMIと妊娠転帰に関する研究
米国で体外受精を受ける女性のBMI値と妊娠結果の関連性について調べた『Extremities of body mass index and their association with pregnancy outcomes in women undergoing in vitro fertilization in the United States 』という研究があります。
この研究では、標準体重の女性、その中でも
特にBMI値19.0 kg/m2~22.9 kg/m2の女性の妊娠率が高い
という結果でした。
また、標準体重の女性と比較すると
・[低体重の女性]移植1回あたりの妊娠率と出産率が低下、低出生体重と早産のリスク増加
・[肥満女性]移植1回あたりの妊娠率と出産率が低下、低出生体重と早産のリスク増加、流産リスクの増加
という傾向があることが示されています。
特にBMI値が40.0 kg/m2以上では、妊娠率が38.8%まで低下していることからも、妊娠・出産を希望される場合は、適正体重に近づけるよう、日々の食生活や生活習慣を見直されるのが良いでしょう。
太りすぎによる妊娠・出産のリスク
肥満は、生理不順や排卵障害の原因になることもあります。つまり
肥満は不妊症となるリスク
と言えます。
肥満には、皮下脂肪型と内臓脂肪型があります。これらはBMIで測ることはできませんが、内臓脂肪が増えるとアディポネクチンというホルモンの分泌量が減少することで、卵巣の皮が分厚くなり
・卵子がうまく育たない
・排卵しにくくなる
といったこともわかってきています。
さらに肥満は不妊だけではなく、妊娠した後の周産期合併症(妊娠高血圧症候群、脂質異常症、妊娠糖尿病リスクの増加)などのリスクが高まることもわかっています。
また出産時も帝王切開になる確率が高まるなど様々なリスクがあります。
『100キロくらい体重がある肥満体型の方でも、普通に妊娠・出産できる方もいます。妊娠・出産において、太りすぎによるリスクはありますが、誰にでも当てはまるというわけではありません。ただし、BMI値が高く、妊娠したいけどなかなか妊娠できないという場合は、不妊の一因になっている可能性があるため、BMI値を意識した取り組みをされるとよいでしょう。(坂口院長)』
痩せすぎによる妊娠・出産のリスク
痩せすぎは、排卵障害の原因になる可能性があります。さらに妊娠中も切迫早産や胎児発育不全、貧血などのリスクが高まり、赤ちゃんが低出生体重児となる割合も高まります。
また、痩せすぎている場合、栄養が足りていないケースが多いと言えます。
妊娠中にお母さんの栄養が足りないと、胎内の赤ちゃんは少ない栄養でも成長できるように倹約遺伝子が働き始めることがわかっています。そうすると、生まれた後に栄養を多くとると、肥満や糖尿病、高血圧、心筋梗塞を発症するリスクが高まると言われています。
お母さんの健康状態は、生まれてくる子どもの健康にも影響する可能性があるため、妊娠・出産を考える女性は、健康的な体づくりを意識する必要があります。
妊活/不妊治療中は、週2~3回のウォーキングが◎
妊活や不妊治療中に体重の増加やむくみが気になる場合の対策として、
ウォーキングが有効
と言えます。
『
週2~3回、30分ぐらいウォーキングをされると良いでしょう。
有酸素運動により、体重の減少やミトコンドリアの活性にもつながります。また、パートナーと一緒にウォーキングできれば、コミュニケーションを取るよいきっかけにもなると思います。(坂口院長)』
有酸素運動によりミトコンドリアを増やすメリット
ミトコンドリアは細胞の活動に必要なエネルギーを産生してくれる存在であり、ミトコンドリアの減少や活力の低下は、細胞の老化につながります。
妊活・不妊治療においては、受精にもエネルギーが必要なため、ミトコンドリアを活性させることは大切です。
また、女性の場合、年齢と共に卵子が老化し、不妊治療の結果にも大きく影響することがわかっています。
ミトコンドリアの機能が低下すると、卵子のエネルギー供給が不足し、卵子の老化が進むリスクが高まる
と言われており、このことからも
ミトコンドリアの活性を維持することが、卵子の質を保つ上で重要
と考えられています。
ミトコンドリアの増加や活性化には有酸素運動が有効であるため、週2~3回、30分程度のウォーキングはダイエット目的以外にもメリットがあると言えます。
▼ミトコンドリアが機能するために大切なコエンザイムQ10とは?
妊活/不妊治療中のストレス解消方法
妊活や不妊治療中の多くの方が、ストレスを感じていらっしゃいます。ストレスが蓄積すると、不妊治療の結果にも支障をきたす可能性があります。
ご自身なりのストレス解消法やパートナーとの対話によりストレスが軽減されることもあるかもしれませんが、治療に関するストレスは、医師とコミュニケーションをとることも大切です。
『不妊治療によるストレスは、妊娠・出産に向け、ご自身の治療が順調に進んでいるのか不安になるときに感じやすくなると思います。そのため、治療に関しての不安は、ため込まず、医師に質問いただくのが良いと思います。私も、診察後には必ず「質問はないですか」と聞くようにしています。
その場では聞きづらいことがあれば、メモなどで渡していただいてもかまいませんし、後日気になることがあれば、電話で聞いていただければと思います。
例えば、妊娠判定後に出血があったら心配でたまらないと思います。そういった際は、次の診察を待つ必要はありません。電話で症状などを伺えれば、今すぐ来た方がよいのかの判断ができます。
ストレスは積み重ねないことが大切です。小さいストレスも積み重ねると大きくなり、心が折れてしまうこともあります。
医師に聞いていただけば、質問にはお答えできますし、不安を軽減できることもあると思います。(坂口院長)』
不妊治療はどんどん太る?のまとめ
・不妊治療により、太るかどうかは個人差がある
・不妊治療(体外受精)では、排卵誘発剤やエストラーナテープなどホルモンに影響する薬を使用するが、これらの薬が体重増加の直接的な原因とは言えない
・採卵後や胚移植を行うホルモン補充周期でエストロゲンやプロゲステロンの投与をはじめると、体が水分を蓄えようとしたり、食欲が増すことがあるため、むくみや体重の増加が気になるということもあるかもしれないが、基本的にこれらは一過性の症状。ただし、ホルモン剤の使用を続けている場合、むくみは継続する可能性がある
・不妊治療(体外受精)を始めてから太ったと感じる場合、不妊治療そのものではなく、不妊治療によるストレスなどが原因となっている可能性がある
・週2~3回、30分程度の運動は、ダイエットや卵子の質などにも影響するミトコンドリア活性の観点でも良いといえる
この記事の監修者
三軒茶屋ARTレディースクリニック
坂口健一朗 院長
1999年 防衛医大卒業
1999年 防衛医科大学病院勤務
2005年 九州大学付属病院勤務
2006年 九州医療センター勤務
2006年 松山赤十字病院勤務
2009年 矢崎病院勤務
2012年 カリヨンレディースクリニック勤務
2015年 木場公園クリニック勤務
2017年 リプロダクションクリニック東京勤務
[資格]
日本産婦人科学会専門医
日本生殖医学会認定 生殖医療専門医
日本産婦人科内視鏡学会技術認定医
[主な所属学会]
日本産婦人科学会
日本生殖医学会
日本産科婦人科内視鏡学会
日本受精着床学会
アメリカ生殖医学会
ヨーロッパ生殖医学会