胚移植後の症状まとめ~それって妊娠のサイン?注意が必要な兆候?
体外受精(顕微授精)には、いくつもの関門があります。
不妊の原因を調べ、原因がわかれば治療し、採卵するために投薬し、体外で卵子と精子を受精させ培養させる…これらがすべて一回かつ短期間で終わるとは限りません。
▶体外受精(顕微授精)を進める上で知っておきたい卵巣刺激別の治療 プロセス
不妊の原因がわからないこともあれば、思ったほど卵が取れないこともあります。複数の受精卵を培養しても、移植できる胚(受精卵)がほとんどないこともあります。
このように、いくつもの関門を突破し、ようやく胚移植ができるようになります。
だからこそ、胚移植後に着床・妊娠できたかをできるだけ早く知りたいと思う方も多いはずです。
実際、Varinos公式SNS(Instagram 、LINE 、X )でアンケートを行ったところ、約6割の方が、「胚移植後にフライングで妊娠検査薬を使ったことがある」と回答されました。
そこで、今回は、三軒茶屋ARTレディースクリニックの坂口健一朗院長に
◇胚移植後、着床/妊娠したとわかる自覚症状はあるのか
◇実際、患者様では、胚移植後に着床/妊娠しているとどのような症状を訴える方が多いか
を伺いました。
目次
胚が着床するまでの流れと期間
体外受精や顕微授精で得られた胚を子宮に戻すことを、胚移植と言います。
胚が子宮に着床するまでの期間は、どの状態の胚を移植したかにより異なります。
そこで、まずは、受精卵(胚)の発育課程について解説します。
受精卵(胚)の発育課程
発育課程に応じ、受精卵(胚)の呼び方が変化していきます。
[1]受精卵
採卵した卵子に精子が入り込み、正常に融合すると「受精卵」となります。
核が2個確認できると正常に受精したと判断されます。
受精卵ははじめ1細胞ですが、成長と共に細胞分裂が進みます。
分割のスピードは受精卵(胚)により、若干異なります。下記は目安としてお考え下さい。
[2]初期胚(あるいは)分割期胚
培養2日目:4細胞に分割
↓
培養3日目:8細胞に分割
と、倍々に細胞の数が増えていきます。
受精後2~3日培養した胚を「初期胚」あるいは「分割期胚」と呼びます。
[3]桑実胚
培養4日目、8細胞以上になると細胞が融合して一つの塊となり、細胞同士がくっついた状態を「桑実胚(そうじつはい)」と呼びます。
[4]胚盤胞
培養5~6日目に胚盤胞となります。
胚盤胞(Blastocyst)とは、桑実胚からさらに成長し、細胞が将来赤ちゃんになる部分である「内部細胞塊(ICM:inner cell mass)」と、胎盤になる部分「栄養外胚葉(TE:trophectoderm)」、そして細胞のない空間に分かれた状態を言います。
体外受精(顕微授精)において、この段階の胚を移植することを「胚盤胞移植」と言います。
なお、自然妊娠においても、排卵後5~6日の胚盤胞と呼ばれる状態となって子宮内にたどり着くと言われています。
排卵後2~3日目の初期分割期胚を移植するケースもありますが、胚盤胞になるまでに発育が止まってしまう胚もあります。
胚の培養は、基本的に採卵から6日目までとされており、妊娠の確率を高めるために、採卵から5~6日間培養し、順調に発育している胚盤胞を移植するケースが多いと言えます。
初期胚(分割期胚)を移植した場合の着床時期と妊娠判定スケジュール
体外受精(顕微授精)において、2分割から4分割期の初期胚(分割期胚)を胚移植することを初期胚移植と言います。
胚は採卵後2~3日目頃の状態のため、胚移植後4~5日後頃に子宮内膜に着床、その1週間後頃(移植後11~12日後)に妊娠判定というスケジュールになります。
なお、自然妊娠の場合、初期胚(分割期胚)はまだ卵管にいる状態です。
胚盤胞を移植した場合の着床時期と妊娠判定スケジュール
体外受精(顕微授精)において、胚盤胞まで順調に発育した胚を移植することを胚盤胞移植と呼びます。
胚盤胞は、採卵後5~6日頃の状態のため、胚は胚移植後1~2日後に子宮内膜に着床、その1週間後頃(移植後8~9日後)に妊娠判定というスケジュールになります。
なお、自然妊娠の場合、胚盤胞は子宮腔内にいる状態です。
▶胚移植の当日は、仕事は休むべき?安静にする必要はある?ない?
フライングで妊娠検査薬を使用しても、医療機関での妊娠判定まで決めつけない
『最近は、クリニックでの妊娠判定の前に、ご自身で検査される方も増えています。早く知りたいという思いもあるかもしれませんが、一方で陰性だった場合の気持ちの面を考え、予め妊娠検査薬で検査をされてからクリニックにいらっしゃる方もいるのではないかと思います。
ただし、医療機関での妊娠判定日前に妊娠検査薬でフライング検査をされ、陰性だったとしても、hCG値が低いだけで妊娠継続できるケースもあります。そのため、自己判断で医師から処方されている胚の着床をサポートする薬(黄体ホルモンの内服や注射、腟座薬など)を中断してはいけません。また、医療機関で行う妊娠判定のための採血や検査にも、必ず行くようにしてください。(坂口院長)』
胚移植後、着床したとわかる自覚症状はある?
『医学的には、着床したら現れる明確な症状はありません(坂口院長)』ということですが、着床された患者様がどのような症状を訴えることが多いか、また着床した際に出ることがあると言われている症状について、実際どうなのかなどを坂口院長に伺いました。
胚移植後の症状~着床のサイン?注視が必要なサイン?
胚移植後、着床すると中には妊娠超初期の症状を感じる人もいるようです。ただし、全員に同じ症状が現れるわけではありませんし、何も体調の変化を感じないからと言って、妊娠していないわけではありません。
胚移植後の症状の有無だけで、妊娠判定が陽性か陰性かは判断できないということを覚えておきましょう。
その上で、胚移植後、人によっては感じることのある体の変化について、いくつかご紹介します。
生理痛のような痛み、生理がきそうな違和感
『患者様で「生理がきそうな違和感がある」とおっしゃる方はたまにいます。(坂口院長)』
この生理がきそうな違和感や痛みは「着床痛」と言われることもあります。なぜこのような症状が起こるのかわかっていません。
生理前の症状に似ていると感じる方もおり、妊娠が成立しなかったのではないかと不安に思う方もいるようですが、この症状だけで、妊娠の成功・不成功を判断することはできません。
出血
『着床出血については、よく言われていますが、
実際に診察をする上では、着床出血があったという方はほとんどいません。
基本的に、プロゲステロンを投与していると出血は起きません。仮にエストロゲンが下がったとしても、プロゲステロンを投与していれば出血は起きません。出血があると妊娠できなかったんだと思ってしまう方もいますが、出血があったとしても、妊娠判定をするまでは、プロゲステロンの投与を続けてくださいとお話しています。
基本的に、胚移植後に大量の出血が起こることはありません。血液が混じったおりものが出た場合、血液の量が多い、あるいは出血が続くということがあれば医療機関に連絡し、主治医の判断を仰いでください。(坂口院長)』
腰痛
『腰痛や腰の違和感を訴える方もいます。
要因としては、着床・妊娠の過程で、子宮内膜が厚くなることや、子宮収縮を繰り返して大きくなっていくこと
が挙げられます。
なお、移植後数時間あるいは妊娠超初期の一過性の腰痛であれば、多くの場合問題ありませんが、長期にわたりずっと腰痛があるようであれば他の原因が考えられるので、かかりつけ医に相談してください。(坂口院長)』
下腹部痛
胚移植後に、下腹部がチクチク痛むという症状を訴える方もいらっしゃいます。
一つの要因として、子宮収縮による痛みと考えられます
が、あまりにも辛い痛みや継続的な痛みを感じる場合は、かかりつけ医に相談しましょう。
このように、胚移植後の症状として挙げられるものは、注意が必要な症状でもあります。ご自身で判断せず、症状がひどい場合や継続する場合は、かかりつけ医に相談しましょう。
また、妊娠初期の症状や妊娠初期に意識すると良いことなど、下記記事でも詳しくご紹介しています。
胚移植後、いつから陽性反応がでる?妊娠判定日は?
移植する胚の状態によっても変わります。
胚盤胞を移植する場合、胚は採卵後5~6日の状態のため、移植後1~2日で着床し、妊娠判定は、移植してから7~10日後くらいを目安に行う医療機関が多いと言えます。
*妊娠判定のスケジュールは、移植する胚の状態や医療機関により前後します。
『当院では、胚盤胞を移植した場合、胚移植の10日後に、妊娠判定を行っています。患者さんからすると10日後というのは長く感じるかもしれません。7日後に妊娠判定を行う医療機関もありますが、hCGの値が低く、正確に判断できないこともあるので、10日後を目安に来院いただき、血液検査を行い、妊娠判定をしています。(坂口院長)』
胚移植後から妊娠判定までは、期待と同時に不安も大きいと思います。
妊娠判定までに控えたほうが良い行動などもまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
胚移植後の症状に関するまとめ
・胚移植後の着床時期と妊娠判定スケジュールが、どの状態の胚を移植したかにより異なる。胚盤胞を移植した場合、胚は採卵後5~6日頃の状態のため、胚移植後1~2日後に子宮内膜に着床、その1週間後頃(移植後8~9日後)に妊娠判定となる
・胚移植後、着床したら現れる明確な症状はない
・患者様から訴えの多い症状としては、生理痛のような痛みや生理がきそうな違和感、出血、腰痛、下腹部痛などが挙げられる
・胚移植後の症状の有無で、着床や妊娠の成功、不成功を判断することはできない
・胚移植後の症状やご自身で行うフライング検査の結果で、妊娠できていないと判断してはいけない。また、不妊治療クリニックの医師から処方されている薬を中断してはいけない
この記事の監修者
三軒茶屋ARTレディースクリニック
坂口健一朗 院長
1999年 防衛医大卒業
1999年 防衛医科大学病院勤務
2005年 九州大学付属病院勤務
2006年 九州医療センター勤務
2006年 松山赤十字病院勤務
2009年 矢崎病院勤務
2012年 カリヨンレディースクリニック勤務
2015年 木場公園クリニック勤務
2017年 リプロダクションクリニック東京勤務
[資格]
日本産婦人科学会専門医
日本生殖医学会認定 生殖医療専門医
日本産婦人科内視鏡学会技術認定医
[主な所属学会]
日本産婦人科学会
日本生殖医学会
日本産科婦人科内視鏡学会
日本受精着床学会
アメリカ生殖医学会
ヨーロッパ生殖医学会