• TOP
  • > Contents > 医療従事者様向け > ラクトバチルスとラクトフェリンによる子宮頸管のバリア

    Contents

    ラクトバチルスとラクトフェリンによる子宮頸管のバリア

    女性の生殖器は、非常に感染に弱い粘膜組織です。粘膜組織は、喉や鼻腔に代表されるように、風邪などの簡単な感染で炎症を引き起こしやすい場所なのです。

    病原体からヒトを保護するため、腟内の細菌たち、ヒト由来の様々なタンパク質によって、生殖器の防御バリアが形作られています。

    特に腟内のラクトバチルスおよびラクトフェリンは、腟環境を健康に維持する重要な物質です。

    ラクトバチルスは腟内に多い細菌の種類で、嫌気性および通性嫌気性菌の増殖を防ぎ、健康な腟内細菌叢の恒常性を維持します。ラクトバチルスには、菌同士の栄養素の競合、腟のpHの低下、免疫の調節、および生理活性化合物の産生を行う機能があります。

    一方、鉄結合性タンパク質であるラクトフェリンは、抗菌、抗真菌、抗ウイルスおよび抗寄生虫活性を有する多機能糖タンパク質で、近年、炎症を抑制する重要な調節因子として注目されています。

    ラクトフェリンは、淋菌(Neisseria gonorrheae)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、およびトリコモナス・バギナリス(Trichomonas vaginalis)に感染した女性の下部生殖器粘膜液で多く分泌され、自然免疫および適応免疫応答の両方を促進します。

    なぜラクトフェリンは細菌に対して抗菌効果があるのでしょうか。

    Gardnerellaなどの菌は、生きるために鉄が必要な鉄要求性細菌です。女性の経血には鉄分が豊富になるため、月経のたびに鉄要求性細菌が増殖してしまいます。ラクトフェリンは、Gardnerellaのエサとなる鉄分を奪うことで、細菌を飢餓状態にし、増殖の邪魔をします。

    ラクトフェリンは、特に母乳に多く含まれており、免疫力の弱い新生児を病原菌から守る重要な役割を果たしています。

    腟内でも母乳と同じように、ラクトフェリンが免疫調整因子として作用する可能性が指摘されています。腟内ラクトバチルスが減少し、嫌気性菌が増加しているような、腟内細菌叢が乱れた状態の際には、免疫のバリアとなっている可能性があります。

    さらには、繰り返し再発する炎症や抗生物質耐性菌感染など有効な治療法がない疾患に対して、ラクトバチルスやラクトフェリンの投与が、粘膜免疫の恒常性を回復させる新しい治療戦略として注目されています。

    Role of Lactobacilli and Lactoferrin in the Mucosal Cervicovaginal Defense.

    Valenti P. et al., Front Immunol. 2018 Mar 1;9:376.