不妊治療の結果を左右する「卵子」。出産を叶えるため、食生活の見直しと有酸素運動で「質」をあきらめない!

保険診療での不妊治療を経て妊娠し、その後12週未満で流産した場合、保険適応回数が1とカウントされます。それ以降に流産した場合、保険適応回数はリセットされるものの、精神的な負担はとても大きいものです。
不妊治療は妊娠することがゴールではなく、赤ちゃんを無事出産することがゴール。
そこで、今回は長く周産期の現場で母子に向き合い、現在は婦人科の診療と不妊治療に取り組まれているヨナハレディースクリニック・院長の濱口元昭 医師に、「無事出産に辿り着くために、不妊治療時からできること/しておくべきこと」について、お話をうかがいました。
目次
黎明期から保険適用まで。不妊治療の「常識」はどう変わってきたか
―濱口先生は昭和60年に産婦人科に入局し、平成6年にヨナハ総合病院(ヨナハレディースの前身)に入職されてからは、妊娠前・不妊治療・周産期・更年期まで、一貫して女性の診察・治療をされてきたとうかがっています。
不妊治療が保険適用となったのは、わずか4年前ですが、不妊治療の長い歴史で見たときに、現在までにどういった変化が起こっていますか。
濱口先生:
新たな検査機器や検査の登場が治療の組み立てに大きく影響してきたと感じています。
例えば、体外受精の黎明期は、初期胚移植で複数個の胚を移植する方法が多く取られていました。それが、新たな技術の登場により、胚盤胞まで評価できるようになったことで、単一胚移植が推奨されるようになりました。
また、2022年4月から体外受精などの不妊治療が保険適用になったことでの変化もあります。それが
「胚移植の回数制限」
です。患者さんの年齢によっては良好胚であったとしても生産率が落ちてしまうため、2個胚移植を検討するようになってきています。
不妊治療のスタートは「健康状態」の見直しから。それが卵の質や出産に至れるかにもつながる
―不妊治療を行っても、着床しない方や着床しても流産してしまう方もいらっしゃると思います。原因により治療方法は様々かと思いますが、先生が治療を進める上で重視していることを教えてください。
濱口先生:
最終的に赤ちゃんを抱けるかどうかは「女性の健康」によるところが大きいのではないかと思っています。
例えば、原始卵胞から成熟卵胞となり排卵するまで約6ヶ月かかりますが、その間の生理周期が整っているかどうかは、卵子の質にも影響を与えるのではないかと考えています。体外受精(顕微授精)の場合は、生理が来てからの2週間で卵胞を育てる際のテクニックにより、多少卵子の質に差は出てくるかもしれませんが、それまでの影響の方が大きいのではないかと思っています。
また、着床不全や初期流産の原因として、胚の染色体異常があります。女性の年齢が高まるとともに胚に染色体異常がある確率は高まりますが、卵子の質がよければ染色体異常の確率も下がるのではないかと思います。そういった意味では、卵が育つ過程を見直すことで、卵子の質は変えられる可能性があるかもしれません。
これはエビデンスに基づく話しではありませんが、昨今注目を集める「プレコンセプションケア*」に通じる話です。
このように、卵子の質が悪いと受精テクニックを駆使してもいい結果は得られないため、昔から「女性の健康」を重視した治療を行っています。
*プレコンセプションケアとは:
妊娠前(Pre-conception)+健康管理(Care)。
男女が若いうちから性や健康に関する正しい知識を持ち、将来の妊娠・出産を含めたライフデザイン(将来計画)を将来の健康を考え、自分たちの心身の健康と生活習慣に向き合うこと。
ホモシステインって何?栄養不足が卵子の質や着床率にも影響するとはどういうこと?
―「女性の健康」とは幅広いですが、具体的にどういった点に注目されるのでしょうか。
濱口先生:
当院の特長は、ご自身で妊活に取り組んでもなかなか上手くいかない方や一般不妊治療(タイミング法・人工授精)で通院し始める方が多いことです。
そのため、初診時は血液検査による全身スクリーニングを行い、患者さんのからだの状態を把握するようにしています。
この段階で、病気と診断されるまでには至っていなくても(未病)、
糖尿病や甲状腺の機能に注意が必要な値が出る方も多い
です。また、
コレステロールやPLR(血小板リンパ球比:身体の炎症や免疫状態を示す指標)も調べており、これらの値が高いと卵子の質や着床率にも影響
します。
さらに血液検査で栄養状態の確認もしています。
中でも
・銅
・亜鉛
・葉酸
・ホモシステイン
・ビタミンD
の値は特に重要だと思っています。
亜鉛
近年、亜鉛が欠乏している女性が増えています。亜鉛は、エストロゲンやプロゲステロンといった排卵や着床に関係する女性ホルモンの働きを高めるほか、胎児の成長にも欠かせないため、妊活中や妊娠中に大切な栄養素です。
例えば、朝ごはんをパン食から和食(具だくさん味噌汁、ひもの、卵焼き、のりなど)にするだけでも亜鉛を多く摂取できます。
ホモシステイン/葉酸
ホモシステインは血管や脳に悪影響を及ぼす「悪玉アミノ酸」です。この値が高くなると血管内皮細胞を損傷して動脈硬化や血栓症を引き起こすだけでなく、
卵子の質の低下や受精障害につながる可能性も
あります。また、妊娠合併症のリスクを高めることも示唆されています。
ホモシステインを無害なメチオニンに変換(分解)する過程で不可欠になるのが葉酸です。近頃は、妊活中から葉酸サプリを飲んでいる方が増えていますが、
葉酸の血中濃度を測り満たされていても、日本人は遺伝的に葉酸回路が上手く回らない人も多く、ホモシステインが蓄積しているケースもあります。
そのため、葉酸の血中濃度だけではなく、ホモシステインの値も調べています。
ホモシステイン値が高かった場合、市販の葉酸サプリメントは多くでも800μgしか入っていないため、フォリアミン5mgという葉酸を補給する医療用医薬品を処方し、同じく葉酸回路を回すのに必要なB2・B12と一緒にまずは3か月間服用いただきます。
3か月後の検査でホモシステインの値が正常範囲となれば、市販の葉酸サプリメントに切り替えるといった治療を2022年頃から行っています。
なお、
ホモシステイン値が高いと、女性ホルモンが低下する40歳以降(特に50歳前後)で、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まります。
妊娠・出産の観点だけではなく、ご自身のからだの状況を把握しておくことが大切です。
このように栄養面においても調べ、
不妊治療を始める6か月前には良い状態にしておくというのが基本方針
で、体外受精に移行する際には、これら栄養面の問題もクリアしてから行うのが当院の特長でもあります。
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子宮内の「菌環境」を整え流産を防ぐ。20〜30代の妊娠率向上にもつながった細菌検査
―血液検査以外で、全ての患者さんに実施されている検査などはありますか。
濱口先生:
腟内フローラを調べる「細菌培養同定検査」は、平成10年頃より全例に対し行っています。その後、ゲノム解析技術で菌のDNAから細菌を網羅的に調べる子宮内フローラ検査も登場(2017年)したので、2022年から2023年にかけ、腟内と子宮内の菌叢(菌環境)の関係について独自に調べました。
その結果、腟内フローラからラクトバチルスが検出されない患者さんは、子宮内フローラの異常が多く認められることがわかりました。
腟内フローラは結果が1週間でわかるため、2024年からは
・腟内フローラを調べ、ガードネレラやストレプトコッカスなど良くない菌が検出された場合
・ラクトバチルスがいないとわかった場合
は、子宮内フローラ検査をする前に治療を始めています。
その結果、
人工授精の累積妊娠率でみた場合、2016年からの累積妊娠率と2024年の妊娠率を比較すると4%程度向上しています。
なお、子宮内フローラ検査に関しては、23年より体外受精を行う方には子宮内フローラ検査を実施し、合格してから治療を進めるようにしています。
その結果、
20代~30代前半に関しては流産率が低下し、出生率が上がっています。
保険適用の影響などもあり、22~24年にかけては前年の結果を踏まえ、胚移植の方法や使用する薬を変えているため、同じ条件下の結果ではありませんが、20代~30代前半は子宮内の細菌による慢性的な炎症をなくすだけでも目に見えて流産率が下がるという意味で、子宮内フローラ検査は有効と考えています。
一方、30代後半から40代の流産率に大きな変化がなかった理由としては、胚の染色体異常による流産の割合が多くなるからと言えます。
では、子宮内フローラ検査は必要ないかというとそうではありません。
特に35歳以上の方の場合、妊娠後に流産や早産してしまう原因をできる限り排除するという意味で必要な検査と考えています。
「卵子のケア」を日常に。肌や髪をお手入れするように、体の内側を整える
―年齢による回数制限がある現行の保険制度下で不妊治療を行う上で、患者様に知っておいてほしいこと、お伝えしたいことをお聞かせください。
濱口先生:
タイミング法や人工授精で上手くいかず、体外受精や顕微授精に移行したとしても、卵の質が良くないと妊娠・出産に至るのは難しくなります。
血管病変があると、血管が傷み、卵巣や卵にも良くない影響を及ぼします。また、
血管病変は子宮内膜症やチョコレート嚢胞にもつながり、これらは放置してしまうと、卵子の質が悪くなり、数も減ってしまいます。
しかし、子宮内膜症(チョコレート嚢胞)があるからと、自然妊娠が望めないというわけではありません。
当院は不妊治療だけではなく、婦人科の診療も行っているため、生理痛がひどくて来院され、検査で子宮内膜症(チョコレート嚢胞)が発覚する方も多くいます。
例えば、20代の独身の方で子宮内膜症のステージ3と診断された方でも、2年間ディナゲストを服用し、結婚してから妊活を考え始めたタイミングで精子の状態を確認し、問題なかったため1年間ご自身で妊活に取り組んでもらったところ、自然妊娠することができています。
同様に子宮内膜症やチョコレート嚢胞を独身のうちから治療したケースでは、35%くらいの方が自然妊娠に至っています。
当院にいらっしゃる患者さんたちには、独身のうちからライフプランについてお話をしており、結婚して子どもを考え始めたら、すぐに精子を見せにくるよう伝えています。精子の状態が問題なければタイミング法で妊活に取り組んでもらい、精子の状態が悪ければ、すぐに体外受精と伝えているため、子宮内膜症やチョコレート嚢胞を患っていても、妊娠・出産に至る方は多くいます。
このように、妊娠・出産においては、卵がとても重要になってくるため、
バランスが取れた食事と有酸素運動を心がけ、肌や髪の毛をケアするのと同じように卵のケアも意識
していただきたいと思います。
特に40歳以降はホルモンバランスが乱れる時期です。からだのメンテナンスがより重要となります。40歳から43歳未満の方の不妊治療の保険適用回数は3回です。少ない回数で出産を目指すには、まず女性自身がからだを整えてから挑むことが大切です。いずれ出産したいと思っている方は不妊治療を始めてからではなく、その前からご自身の栄養状態やからだの状態に目を向けるようにしてください。
―不妊治療の技術は日進月歩で、様々な検査技術や治療方法が出てきますが、そもそも体の中で良い卵子が作られないと、どんな医療をもってしても妊娠・出産に至るのは難しくなるということが改めてよくわかりました。
肌や髪は目に見えるので、「あれ?ちょっと年齢を感じるようになってきたかも…」と思ったら、すぐにケアしなくては!と思えますが、卵子は目に見えない。だからこそ、日々の食生活や有酸素運動を意識し、できるだけ卵子の質が保たれる状態にしておかなくてはいけないのですね。
濱口先生、ありがとうございました!
今回お話を伺った医師
ヨナハレディースクリニック
院長 濱口 元昭 医師
1990年 三重大学大学院医学研究科 卒業
1985年 三重大学附属病院産婦人科
1994年 医療法人尚徳会ヨナハ総合病院 産婦人科医師/不妊センター長
1997年 医療法人尚徳会星見ヶ丘レディースクリニック 院長
2011年 医療法人尚徳会ヨナハ産婦人科小児科病院 院長
2021年 社会医療法人尚徳会ヨナハレディースクリニック 院長
[主な資格]
日本専門医機構産婦人科専門医
母体保護法指定医
[所属学会]
日本産科婦人科学会
日本生殖医学会

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