子宮内フローラ検査が痛い!と言われる原因と対処法を専門医に聞いてきた
子宮内の菌環境を調べる「子宮内フローラ検査」は、不妊治療クリニックや大学病院などの医療機関で導入が進んでおり、2022年6月には厚生労働省から先進医療にも認定されています。
一方で、不妊治療を行う患者様からは
「なぜ子宮内フローラ検査が大切なのか」
「子宮内フローラ検査の検体採取は痛いの?」
という声をいただくことがあります。
そこで、今回は銀座こうのとりレディースクリニック院長の嶋田秀仁医師に
◇子宮内フローラ検査が大切な理由
◇子宮内フローラ検査の検体採取時に痛みを感じる要因
◇痛みをほぼ感じない子宮内フローラ検査の検体採取方法
◇子宮内フローラと周産期予後
◇子宮内フローラとプレコンセプションケア
などについて、伺いました。
目次
【Varinosメモ】子宮内フローラ検査とは?
子宮内の菌を網羅的に調べることができる検査です。医療機関で子宮あるいは腟から検体を採取し、そこから細菌のDNAを抽出し、ゲノムテクノロジーを応用した技術により、どの菌がどのくらいの割合で存在するかを調べます。
妊娠・出産においては、子宮内に善玉菌・ラクトバチルスが90%以上か未満かで妊娠率や生児獲得率が大きく異なることがわかっています(下図)。そのため、子宮内フローラ検査により、ラクトバチルスの割合が低く、妊娠・出産に悪影響を及ぼす悪玉菌が存在することが確認できた場合、医師による治療が行われます。
子宮内フローラ検査についての詳細はこちらから。動画でも詳しく解説!
不妊治療において、子宮内フローラ検査が大切な理由とは
―なぜ、不妊治療において、子宮内フローラ検査が大切とお考えか教えてください。
嶋田先生:
不妊治療においては、卵子や胚(受精卵)の質と同じくらい、胚を迎え入れ、赤ちゃんを育てる子宮の環境が重要だからです。
昨今、「腸内フローラ」という言葉は一般的にも良く知られ、その重要性にも関心が集まっています。健康維持の観点から日々の生活の中でビフィズス菌や発酵食品を積極的に摂取する方もいらっしゃると思います。
一方、「子宮内フローラ」については、よくご存じない方も多く、子宮内の菌環境まで意識されている方は少ないと思います。しかし、子宮内の菌環境は着床や妊娠継続、早産などとも関係することがわかってきており、不妊治療を行う医師からすると、子宮内の菌環境(フローラ)を整えるというのは、ホルモン充填や子宮内膜の厚みを出すのと同じくらい妊娠・出産においては大切なことと捉えています。
子宮内フローラ検査が痛いと感じる理由とは
―子宮内フローラ検査の検体採取がとても痛かったという声がSNS等で見受けられます。痛い検査は避けたいと躊躇されている方もいるかもしれません。痛みを感じる要因はどこにあるのでしょうか。
嶋田先生:
まず、子宮内の菌環境を調べる検査はVarinos社の「子宮内フローラ検査」以外にもいくつかあります。たとえば、着床の窓を調べる検査と同時に子宮内の菌環境を調べる検査では、子宮内膜を削り採取するので、痛みがあると思います。
一方、Varinosの子宮内フローラ検査は子宮内腔液という子宮の中にある液を吸引(採取)するだけでよい検査です。検査精度も高くと患者さんにもわかりやすい結果報告書が良い点です。
当クリニックでは、子宮内フローラ検査を行う場合、ユイノブラシという器具を使って検体を採取しています。ブラシといってもゴシゴシ擦るわけではなく、外套(がいとう)という子宮にブラシが到達するまでに腟などの菌が付着しないような役割をする筒状のものを子宮の1番奥に入れ、ブラシの先を少し出して子宮内腔液を吸わせたら終わりです。時間にしたら数秒で終わります。
それでも痛みを感じる主な理由は
1. 子宮の形(向き)
2. 使用する器具
3. その日のコンディション(緊張度合いなど)
などが挙げられます。
【子宮の形】
子宮がまっすぐの方は、おそらくほとんど痛みを感じないのではないかと思います。例えば子宮体がんの検査を受けて痛みを感じなかった方は子宮内フローラ検査の検体採取も痛くないと思います。
反対に、子宮に傾きがあると、器具が触れて痛いと感じる方もいると思います。
【使用する器具】
医療機関によって、使用する器具は異なりますが、柔軟性がなく硬い器具だと、子宮の形によっては、痛みを感じやすいかもしれません。
当クリニックでは、麻酔をかけている採卵時に子宮内フローラ検査を行うので、痛みはほぼ感じないはずですが、子宮内はできるだけ傷つけない方がよいですし、後々の痛みや出血を回避するためにも、超音波で子宮の形をみながら、必要に応じ、もともとはまっすぐな器具(ユイノブラシ)を少し変形させ挿入することもあります。
【その日のコンディション】
緊張で体に力が入ってしまうと、余計痛みを感じやすくなるということもあります。だからと言って、自分でコントロールして力を抜くこともできないと思いますので、コンディションへの対処は難しいかもしれません。
子宮内フローラ検査で感じる痛みはどのくらい?
―痛みの程度は子宮の形などによる個人差や手技の違いなどが大きいと思いますが、どのくらいの痛みを感じる方が多い傾向にあるのでしょうか。
嶋田先生:
麻酔をせずに、子宮内フローラ検査の検体を単体で採取した場合、生理痛くらいの痛みといわれます。ただし、検体採取自体は、数秒で終わりますので、痛かったとしても一瞬だと思います。
もし、すごく痛みを感じたという場合は、子宮内フローラ検査だけではなく、子宮内膜の組織も取らないといけない検査と一緒に行っているという可能性があります。その他、手技によって痛みの程度は多少異なってくると思います。
≪自分できる痛みの回避方法≫
医療機関により、使用する器具や採取方法も異なると思いますが、痛みを感じやすい方などは事前に医師に確認をした上で、痛み止めを飲んでから検査を受けるなど工夫をされても良いかもしれません。
子宮内フローラ検査の痛くない検体採取方法~採卵時に検査を行う+αのメリットとは
―銀座こうのとりレディースクリニックでは、痛みを感じづらいタイミングで子宮内フローラ検査の検体採取をされているということですが、どのタイミングで子宮内フローラ検査を実施されているのでしょうか。
嶋田先生:
子宮内フローラ検査は、先進医療に認定されていることもあり、体外受精にステップアップしてから実施しています。
また、子宮内フローラ検査時に痛みを感じる方もいらっしゃるので、当クリニックでは、麻酔をかけておこなう採卵時に子宮内フローラ検査の検体採取も行っています。
採卵時に子宮内フローラ検査の検体を一緒に採取することは痛みの軽減だけではなく、不妊治療スケジュールの面でもメリットがあります。
子宮内フローラ検査は結果が出るまで3週間ほどかかります。採卵後、受精・培養し凍結した胚を移植する前に、大切な胚(受精卵)を迎え入れる子宮内の菌環境を知ることができます。反対に、子宮内フローラ検査をせずに移植を行い、着床・妊娠しないからと、あとから子宮内フローラ検査を行った結果、子宮内の菌環境が良くなかったとなると、もっと早い段階で早く調べておけばよかったと患者さんも我々も後悔してしまうと思います。
当クリニックでは効率的に不妊治療を行うことを重視していますので、この方法が良いと思っていますし、やはり子宮内フローラ検査の検体を採取していることに気づかないくらい痛みを感じず検査ができるという点で患者さんからの評判も良いです。
子宮内フローラ検査の結果を踏まえた治療法と期間
―胚移植前に、子宮内フローラ検査で菌環境が良くないとわかった場合、どのような流れで治療をされるのでしょうか。
嶋田先生:
まず、子宮内フローラ検査の結果を患者さんに説明します。善玉菌や悪玉菌の割合だけではなく、子宮内の菌環境が着床や妊娠の継続に重要であることをお話します。その上で、すぐに胚移植をするのではなく治療を挟むか、胚移植と並行して治療を行うか相談して決めます。ただ、多くの方が一旦子宮内フローラを良くしてから胚移植を行いたいとおっしゃいます。
治療自体は菌に応じた抗生剤の処方 と次の生理周期まではラクトバチルスの腟剤を入れてもらいます。そのため、治療期間は1か月間ほどです。ラクトフェリンのサプリに関しては患者さんの判断にお任せしており、補完的に摂取されるのは良いと思います。
―治療後、子宮内フローラ検査の再検査は実施されていますか。
嶋田先生:
患者さんの費用負担の面から、基本的には再検査をしたいという方には、2か月後くらいに実施をしています。その結果をみても、改善されている方が多いです。
―子宮内フローラ検査でラクトバチルスの占有率が90%以上だった場合、患者様にはどのようなお話をされていますか。
嶋田先生:
子宮内の菌環境は変化することもありますので、良い状態をキープするように心がけましょうというお話をします。場合によっては、ラクトバチルスのプロバイオティクスを紹介し、2日に1回でもいいので入れておくのもよいですよとお伝えしています。
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子宮内フローラ検査の痛み回避&周産期予後改善の可能性
―子宮内フローラ検査の検体採取を採卵時に行うことは、痛み回避にもつながりますが、妊娠前に子宮内の菌環境を把握しておくことは周産期予後の改善につながることも示唆されています。具体的には、以下のような研究が進んでいます。
●切迫早産と診断され緊急入院され、早産された方は正期産された方に比べ、子宮内フローラ検査でウレアプラズマの検出が多かったという論文
出典:「Vaginal microbiota associated with preterm delivery」
https://cir.nii.ac.jp/crid/1050856995322060160
●不育症患者様(2回以上の流死産を経験された方)で染色体異常のない方を対象に子宮内フローラ検査を行い、その後の転帰を追った研究
出典:「Uterine endometrium microbiota and pregnancy outcome in women with recurrent pregnancy loss」
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35717684/
①子宮内フローラ検査後に妊娠したものの再び流産してしまった方々と正期産となった方々を比べると、流産してしまった群では、ラクトバチルスの占有率が低く、ウレアプラズマが有意に検出された。
②子宮内フローラ検査後に妊娠し早産となった方々は、ラクトバチルスの占有率が低くガードネレラが有意に検出された。
そのほかにも、子宮内フローラと早産の関係についても報告されています。
こういった研究からも、妊娠前に子宮内フローラ検査を行い、子宮内の菌環境が良くなかった場合、治療を行うことで、早産などの予後の改善や原因不明の不育症患者様へ子宮内フローラ検査をされるケースが増えてきています。
周産期予後の改善の観点で子宮内フローラ検査を活用することについて、どのようにお考えでしょうか。
嶋田先生:
良いと思います。妊娠できても子宮内感染等で流産してしまう方が少なからずいます。
また、細菌性腟症が早産の起因になっていることもあります。感染してから抗菌薬を使用し治療するというより、感染症が成立しないようにラクトバチルスを増やすことで子宮や腟を酸性環境にし、防御壁を作っておくことで、悪い菌が入る隙間をなくしていくといった腟や子宮のコンディション維持が大切です。
当クリニックでは、体外受精をされるほとんどの方が子宮内フローラ検査を受けられますが、結果が良くても悪くても、子宮内の菌環境を知ることができてよかったとおっしゃる方が多いです。
不妊治療を卒業していかれるタイミングで妊婦さんからラクトバチルスの腟剤はいつまで使ってよいかを聞かれることが多々ありますが、周産期予後の観点から、出産に向け腟内環境と子宮内環境を良い状態に維持することは非常に重要ですので、妊娠後も使い続けることをお勧めしています。
子宮内フローラ検査を特に受けたほうが良い方とは
―子宮内フローラ検査はどのような方が受けると良いとお考えでしょうか。
嶋田先生:
基本的に体外受精をされる方には勧めていますが、特に子宮内フローラ検査を受けたほうが良いと考えているのは
・一人目を帝王切開で出産された二人目不妊の方
・クラミジアの既往がある方
・普段からオリモノが気になる方
です。
帝王切開もクラミジアも子宮内の菌環境が変わってしまうことがあるからです。それが不妊の要因になっていることがあります。
クラミジアに関しては初期検査で抗体を調べていますが、感染したことに気づいていない方が多く、検査結果を聞くと驚かれる方が大半です。クラミジアは症状があまりでないため、知らないうちに感染し長い間放置していると卵管癒着の原因にもなりますし、炎症を引き起こしている可能性もあるので、初期検査でクラミジアの既往があると分かった場合は、子宮内フローラ検査で菌環境を確認するのが良いと思っています。
▶子宮内フローラ検査を受けることができる提携施設一覧はこちらから
子宮内フローラとプレコンセプションケア
―昨今、性感染症が増えているという報告があります。不妊治療の最前線にいる先生としては、どのように思われますか。
嶋田先生:
「プレコンセプションケア」という観点で、若いうちから妊娠への意識を持っていただきたいです。2023年11月から緊急避妊ピル(アフターピル)が一部の薬局でも一定の条件のもと購入できるようになりましたが、コンドーム使用率の低下による性感染症リスクの拡大なども懸念されています。緊急避妊ピルは将来の妊娠には影響しませんが、性感染症は不妊要因になります。
性交渉の相手がどんな病気や性感染症を持っているかわかりません。腟から感染してしまうと、多くの場合、子宮の中の菌環境も乱れてしまいます。
2022年から不妊治療の保険適用範囲が拡大し、費用面でも多くの方が治療を受けやすい環境になってきていますが、不妊治療は身体的にも精神的にも負担がかかります。
性感染症など防げる不妊要因については、知識があれば回避できる可能性が高くなります。若いころからプレコンセプションケアを意識していただき、赤ちゃんが生まれるまで過ごす子宮を良い環境にしておくことを意識いただきたいです。
とはいえ、腸内フローラや肌と違い、子宮内の菌環境は目に見えず、菌環境が悪くても症状として現れないことも多いのでメンテナンス意識を持つことは難しいかもしれません。
だからこそ、子宮内の菌環境を可視化できる子宮内フローラ検査が重要と考えています。
―嶋田先生、ありがとうございました!
【まとめ】子宮内フローラと痛みの原因と対処法
子宮内フローラ検査と痛みについて、ご理解いただけましたでしょうか?
◇子宮内フローラを調べる検査は複数あり、検査方法が異なること
◇子宮内フローラ検査で痛みを感じる場合の主な原因は
・子宮の形(向き)
・使用する器具
・その日のコンディション(緊張度合いなど)
ということがご理解いただけたかと思います。
麻酔をかけて行う採卵時に子宮内フローラ検査の検体も採取することで痛みを軽減できる方法もあることを記事中でご紹介いたしましたが、検査をどのように行うかについては、各医療機関や医師の方針、患者様それぞれのご状況に応じた治療方針等により異なります。また、本文中で、患者様ご本人でできる痛み対策として、痛み止めを服用する方法に触れていますが、事前に必ず医師にご相談ください。
本記事が
・子宮内フローラ検査を受けて痛いというご経験をされたことのある方
・これから受けようと思っているが痛みについて不安に思われていた方
などのお役に立つ記事になっていれば幸いです。
≪嶋田秀仁(しまだ ひでと)医師プロフィール≫
東京医科大学産科婦人科学教室に入局後、生殖医療班で体外受精を中心とした不妊治療に従事
戸田中央産院、船橋市立医療センター、聖ヨハネ会桜町病院にて臨床経験を積み、東京医大茨城医療センター産婦人科医長に就任
都内有数の不妊治療施設「吉祥寺うすだレディースクリニック」副院長に就任
2017年9月、銀座こうのとりレディースクリニックを開設
・所属学会
日本産科婦人科学会/日本生殖医学会/日本受精着床学会/日本胎盤学会
日本抗加齢医学会
・資格
医学博士/日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医/日本生殖医学会認定 生殖医療専門医/日本抗加齢医学会認定 日本抗加齢医学会専門医
≪「銀座こうのとりレディースクリニック」について≫
クリニック名:銀座こうのとりレディースクリニック
院長:嶋田秀仁 医師
住所:〒 104-0061
東京都中央区銀座1丁目3-9マルイト銀座ビル7F
HP URL:https://ginzakounotori.com/