異所性妊娠(子宮外妊娠)とは?再発率や治療法・片側切除後の妊娠可能性を解説【医師監修】

妊娠反応で陽性が出た喜びも束の間、医師から「異所性妊娠(子宮外妊娠)」の可能性を告げられると、ショックや戸惑いを感じてしまう方は少なくありません。
「子宮の中に受精卵が着床していないとはどういうこと?妊娠は継続できないの?」
「体外受精(IVF)で子宮に直接戻したのに、なぜ子宮外妊娠になってしまうの?」
など、様々な不安や疑問が出てくると思います。
異所性妊娠は放置すると母体の生命に関わるため、正しい理解と早期対応が不可欠です。
また適切な治療を受けることで、再び妊娠・出産を目指すことも可能と言えます。
本記事では、異所性妊娠が起きる仕組みや原因、検査方法、治療法、そして次の妊活再開まで、英ウィメンズクリニック さんのみやクリニック 副院長・岡本 恵理医師に話を伺いました。
<この記事のポイント>
・体外受精(IVF)でもリスクはゼロにならない: 胚移植後、着床するまでに数時間から24時間ほどかかり、子宮の収縮運動(蠕動運動)によって胚が卵管内へ流されて着床してしまうことがある
・破裂前は「ほぼ無症状」: 卵管などが破裂して出血するまでは自覚症状がないことがほとんどのため、妊娠の可能性があり月経のような出血が見られた場合でも必ず妊娠検査薬で確認することが重要
・治療法は状態や希望に応じて選択: 腹腔鏡手術(切除術・温存術)、薬物療法(MTX)、待機療法がある

目次
異所性妊娠(子宮外妊娠)とは?

通常、卵管で精子と出会って受精した受精卵(胚)は、卵管を通って子宮へと運ばれ、「子宮内膜」に着床して成長します。
これに対し、受精卵が何らかの理由で
子宮内膜以外の場所に着床してしまう状態を「異所性妊娠(子宮外妊娠)」
と呼びます。
異所性妊娠(子宮外妊娠)発生部位
子宮以外の場所では胎盤や胎児が正常に育つことができず、放置すると妊娠組織の増大に伴って母体の臓器(卵管など)が破裂し、大出血を引き起こし生命に関わる危険な状態となるため、早期の発見と適切な処置が不可欠です。
妊娠全体の1%程度に発生し、
発生部位の95%以上は「卵管(卵管妊娠)」
ですが、稀に子宮頸管、卵巣、過去の帝王切開瘢痕部などに着床するケースもあります。
体外受精(IVF・ICSI)でも異所性妊娠は起こる?
「体外受精や顕微授精なら、医師が子宮内膜に直接受精卵を戻すのだから、異所性妊娠のリスクはないはず」と考えられがちです。
しかし、体外受精や顕微授精であっても異所性妊娠のリスクを完全になくすことはできません。
『体外受精や顕微授精であっても異所性妊娠は起こります。移植した胚(受精卵)は着床するまでに子宮以外の場所に移動することがあるからです。移植した胚が胚盤胞まで育っていたとしても、そこから着床までには数時間から24時間要します。その間に子宮の蠕動運動や収縮によって胚が移植液ともに卵管口方向に流れて卵管内に入ってしまうとそこで着床してしまうことがあります(岡本先生)』

頻度は胚移植して妊娠した症例の1〜3%、症例の90%は卵管因子や既往に異所性妊娠がある人とされています。なお、異所性妊娠発生率に関して、卵管因子を有する場合は7.0%、卵管因子を有しない場合は0.6%と差があることも報告されています。*
異所性妊娠が起きる主な原因
米国産婦人科医会(ACOG)によると、異所性妊娠の約半数には明らかなリスク因子が見られないとされていますが、「卵管の構造や動き(輸送機能)の異常」が関係しているケースが多いと言えます。*
なお、卵管の構造や動きに影響を与える要因としては、以下が挙げられます。
クラミジアなどの性感染症・骨盤内炎症性疾患(PID)の既往:
クラミジアなどに感染して卵管炎や骨盤内感染を起こすと、卵管内部の癒着や線毛(受精卵を運ぶ毛)がダメージを受け、異所性妊娠のリスクが約3倍に跳ね上がります。
過去の異所性妊娠の経験:
一度異所性妊娠を経験すると、次回妊娠時の再発率は約10%近くに上昇します。
子宮内膜症や腹部・骨盤内の手術歴:
過去の卵管手術、帝王切開、盲腸(虫垂炎)などの手術、あるいは子宮内膜症によって卵管周囲に癒着が生じ、卵管の動きが妨げられることで発生しやすくなります。
喫煙:
タバコに含まれるニコチンなどの影響により、卵管の自律的な運動(壁の収縮や線毛運動)が変化し、胚を子宮へ運ぶ機能が低下すると言われています。
子宮内避妊器具(IUD)使用中の妊娠:
IUD自体が異所性妊娠を引き起こすわけではありませんが、IUDによって子宮内での着床が防がれているため、万が一妊娠が成立してしまった場合には子宮外妊娠である確率が高くなります。
*出典:米国産婦人科医会(ACOG)ガイドライン
異所性妊娠の症状と早期発見のための検査方法
異所性妊娠は、発見が遅れると卵管破裂などによる腹腔内大出血を引き起こす危険があるため、早期発見が非常に重要です。しかし、初期の段階では自覚症状が現れにくいため注意が必要です。
初期症状とセルフチェックの注意点

異所性妊娠は、初期段階で明確な症状が出ることはほとんどありません。
破裂前は「ほぼ無症状」: 異所性妊娠であっても、卵管などが破裂して腹腔内に出血するまでは無症状で経過することがほとんどです。
進行した場合に現れる症状:
進行に伴い、片側の強烈な下腹部痛、持続する不正出血(少量の茶褐色のおりもの〜生理のような出血)、つわりなどの妊娠初期症状が現れることがあります。
破裂時の緊急症状:
卵管が破裂すると、激痛とともに大量出血が起こり、貧血、めまい、ショック状態(意識障害)に陥ります。この場合は緊急手術が必要です。
『異所性妊娠は卵管等が破裂して出血するまで無症状のことがほとんどです。そのため、妊娠の可能性があるときは月経と思われる出血があっても必ず妊娠検査薬で陰性であることを確認することが大切です(岡本先生)』

クリニックでの診断・検査プロセス
異所性妊娠の確定診断は、「子宮内に胎嚢(赤ちゃんの袋)が見えない」ということだけでは判断できません。
複数の検査を組み合わせて慎重に診断が進められます。
血中・尿中hCG値の測定:
妊娠すると分泌される「hCGホルモン」の値を測定します。正常妊娠に比べてhCG値の伸びが緩やかである場合、異所性妊娠や流産の可能性が疑われます。
経腟超音波(エコー)検査:
卵管妊娠の場合、経腟超音波検査によって確認できれば診断がつきます。
子宮内掻爬(そうは)術とhCGの経過観察:
超音波検査で子宮内にも子宮外にも胎嚢が確認できない場合(妊娠部位不明確)、子宮内膜を採取(掻爬)してもhCG値が下がらないことを確認して異所性妊娠と診断することがあります。
『確定診断は子宮内に胎嚢が見えないだけではできません。最も多い卵管妊娠は経膣超音波検査で診断がつくことが多いです。経腟超音波で見えない場合、子宮内掻爬をしてもhCG値が下がらないことで異所性妊娠の診断はつきますが、部位は特定できません(岡本先生)』

異所性妊娠と診断された場合の治療法(手術・薬物療法・待機療法)
異所性妊娠と診断された場合、患者様の全身状態(出血や破裂の有無)、hCG値、妊娠部位、将来の妊娠希望などを総合的に考慮して治療法を慎重に決定します。
主な治療選択肢には「手術療法」「薬物療法」「待機療法」の3つがあります。

『海外のガイドラインではhCGが1,500未満であれば薬物療法、1,500以上~5,000未満なら手術療法もしくは薬物療法のどちらかを提案し、5,000以上の場合は手術を第一選択とされていますが、日本では特に決まっていません。(岡本先生)』
治療法の選択基準と特徴
腹腔鏡手術(手術療法):
母体の安全を確保するための最も確実な治療法です。お腹に小さな穴を開けて内視鏡で行う「腹腔鏡手術」が主流です。
卵管切除術:
着床している卵管ごと摘出する方法です。体外受精での妊娠を目指す場合や、再発リスクを抑えるために両側卵管切除を選択することもあります。
卵管切開術(温存手術):
卵管を切開して妊娠組織のみを除去し、卵管を残す方法です。

『自然妊娠で異所性妊娠となった場合には、ご本人の希望で卵管温存を希望された場合には未破裂で腫瘤計が5 cm未満かつhCG が10,000以下、胎児心拍数がなく、初回の異所性妊娠という条件を満たせば卵管切開術を行うというのが日本のガイドラインで推奨されています。ただし、卵管を切除しても温存しても、術後の妊娠率はかわらないというデータもあります。
なお、体外受精治療で異所性妊娠となった場合は、卵管妊娠であれば両側卵管切除術を行うこともあります。卵管を残しておいても次の異所性妊娠のリスクが上がるためです。(岡本先生)』

薬物療法(メトトレキサート:MTX):
抗がん剤の一種であるメトトレキサートを投与し、妊娠組織の細胞増殖を抑えて吸収させる治療法です。
『薬物療法の適応を考える際は、全身状態が安定していること、胎児の心拍がないこと、hCGが低い、腫瘤が小さい、未破裂、確実なフォローアップが可能という条件を重視しています(岡本先生)』

待機療法:
特別な治療を行わず、厳重な管理のもとでhCG値が自然に低下・妊娠組織が消退するのを待つ方法です。
『待機療法を選択する際の目安は、腫瘤が3cm未満で胎児心拍がなく、hCG1,500未満の場合が推奨されています(岡本先生)』

異所性妊娠の治療後、次の妊娠に向けて
治療を終えた後、「いつから不妊治療や妊活を再開できるのか」「また異所性妊娠になってしまうのではないか」という不安を抱く方も多くいらっしゃいます。
治療再開のタイミング
次の妊娠に向けた治療や妊活の再開は、
血液中のhCG値が感度以下(陰性化)になることが最低条件
となります。
『通常は治療後1-2か月で陰性化します(岡本先生)』
次の妊娠方法(体外受精の推奨など)
再開にあたっては、残った卵管の状態を確認するために「子宮卵管造影(HSG)検査」などを行い、医師と方針を決定します。
片側の卵管を切除した場合でも、残った卵管が正常であれば自然妊娠の可能性は十分にあります。
『異所性妊娠の再発リスクや妊娠に至るまでの期間を考慮し、片側の卵管を切除された患者さんには体外受精(ART)をお勧めすることが多いです(岡本先生)』

異所性妊娠に関するよくある質問(FAQ)
異所性妊娠に関して多い疑問や不安ついて、岡本先生に回答いただきました。
Q1. 過去に異所性妊娠を経験した場合、次回も繰り返す(再発する)リスクは高くなりますか?
高くなります。再発率は10%程度といわれています。*
これは、もともと卵管の通過性や線毛(受精卵を運ぶ毛)の動きに問題(卵管障害)があるケースが多いためと考えられています。
*出典:産婦人科診療ガイドライン―産科編2023 CQ203
Q2. 手術で片方の卵管を切除した場合でも、自然妊娠や不妊治療での妊娠・出産は可能ですか?
卵管が1本になると妊娠する力が単純に半分になるわけではありません。残っている卵管は反対側の卵巣から排卵された卵子も取り込むことがあり、実際、片側卵管切除後に自然妊娠した人の約3分の1は、卵管のない側の卵巣から排卵していました。片側卵管切除後に約55〜65%が2〜3年以内に自然子宮内妊娠したというデータもあります。*
ただし、体外受精をする方が妊娠への期間は短縮できます。
Q3. 体外受精(IVF)を行えば、異所性妊娠のリスクを完全にゼロにすることはできますか?
できません。両側卵管を切除すればかなりリスクは下がりますが、それでも頸管妊娠や間質部妊娠などのリスクは残ります。
異所性妊娠(子宮外妊娠)のまとめ
今回は、早期発見と適切な対応が母体の安全と次の妊活において極めて重要となる「異所性妊娠(子宮外妊娠)」について解説しました。
・異所性妊娠とは: 受精卵が子宮内膜以外の場所(95%以上は卵管)に着床してしまう状態で、全妊娠の約1%程度に発生します。受精卵が育つにつれて臓器が破裂し、大出血を引き起こす危険があるため早期の発見と処置が不可欠です。
・体外受精でもリスクはゼロではない: 子宮に直接胚を戻しても、着床までに数時間〜24時間ほど要する間に子宮の蠕動運動や収縮によって卵管側へ流され、着床してしまうことがあります。
・主な原因と破裂前の無症状: 過去のクラミジア感染、骨盤内の手術歴、子宮内膜症、喫煙などによる「卵管の構造や輸送機能の異常」が関係することが多いとされています。また、破裂して腹腔内に出血するまでは自覚症状がほとんどないため、妊娠の可能性があって出血が見られた場合でも妊娠検査薬で確認することが大切です。
・状態や希望に合わせた3つの治療法: 全身状態、hCG値、妊娠部位、将来の妊娠希望などを総合的に考慮し、腹腔鏡手術(卵管切除術・卵管切開術)、薬物療法(メトトレキサート)、待機療法の中から選択されます。
・次の妊娠に向けて: hCG値が陰性化(通常1〜2か月)した後に再開を検討します。片側の卵管を切除した場合でも自然妊娠の可能性は残されていますが、再発リスクや妊娠までの期間を短縮することを考慮し、体外受精をおすすめすることが多くなります。
異所性妊娠を経験すると深いショックや不安を抱えてしまいますが、適切な治療と経過観察を行うことで、再び妊娠・出産を目指すことができます。まずは母体の安全と身体の回復を最優先に、主治医と相談しながら次のステップへと進めていきましょう。
この記事の監修医
英ウィメンズクリニック
さんのみやクリニック 副院長
岡本 恵理 医師
1998年 大阪市立大学医学部卒業 卒業
大学卒業後、大阪市立大学医学部附属病院 産婦人科へ臨床研修医として勤務後、大阪市立住吉市民病院 産婦人科に勤務
2004年:大阪市立大学大学院 医学研究科卒業
大学院卒業後、大阪府済生会千里病院 産婦人科にて勤務
2007年1月:英ウィメンズクリニック勤務
2012年8月:内視鏡部門副部長
2013年6月:妊孕(にんよう)能温存部門部長に就任 2020年12月:英ウィメンズクリニック 副院長に就任。
[資格・役員]
医学博士(大阪市立大学)
日本産科婦人科学会専門医
母体保護法指定医
臨床遺伝専門医制度委員会 臨床遺伝専門医
日本生殖医学会 生殖医療指導医
[所属学会]
日本産科婦人科学会
日本生殖医学会
日本受精着床学会
日本IVF学会
日本がん・生殖医療学会
日本人類遺伝学会
日本産科婦人科遺伝診療学会

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