【専門家に聞く】子宮内フローラ検査で「わかること」と「向き合い方」
こんにちは。
子宮内の菌環境を調べる「子宮内フローラ検査」など、ゲノムテクノロジーを応用した検査の開発・提供をしているVarinos(バリノス)です。
今回のテーマは、「子宮内フローラ検査」です。どんな検査で、どうやって調べて、何がわかるの?という疑問にお答えします。解説してくれるのは、Varinosの子宮内フローラ検査に携わっている臨床検査本部の芦川さんです。
目次
子宮内フローラ検査とはどんな検査なのか?
編集部:
前回は、子宮内フローラと妊娠率の関係について話を聞き、不妊治療をされている方だけではなく、妊娠を希望されているすべての方にとって、子宮内フローラの環境を知ることは大切だとわかりました。
今回はもっと具体的に、どんな検査なのかを教えてください!
子宮内フローラ検査でわかること
芦川さん:
子宮内フローラ検査では、子宮内にいる細菌の存在比がわかります。子宮内の菌環境は善玉菌である乳酸桿菌(にゅうさんかんきん)ラクトバチルスという細菌が90%以上いる状態が望ましいとされています。
しかし、中には細菌性腟症の原因となる細菌など悪玉菌が検出される方もいます。悪玉菌が多いと免疫が活性化され、受精卵まで異物として攻撃されてしまう可能性が指摘されており、実際、子宮内フローラにおけるラクトバチルスの存在比が90%以上の方とそうでない方は妊娠率・生児獲得率が大きく異なるという結果も報告されています。
▼詳細は「【専門家に聞く】子宮内フローラと妊娠率・生児獲得率の関係」をご覧ください。
【専門家に聞く】子宮内フローラと妊娠率・生児獲得率の関係
先ほど「存在比」と言いましたが、善玉菌にも悪玉菌にも様々な種類があるので、検査会社であるVarinosでは、どの細菌がどのくらい存在しているのかを細かく解析し、レポートを医師に提供しています。
編集部:
なるほど!子宮内フローラ検査を受けると、自分の子宮内にどんな細菌がどれくらいの割合でいるのか、その割合から子宮が着床や妊娠に適した環境になっているのかがわかるのですね。
実際、検査はどのようなものなのでしょうか?
子宮内フローラ検査の流れ
芦川さん:
子宮内フローラ検査の流れは、大まかにいうと以下になります。
- ステップ①~医療機関の受診
- ステップ②~医療機関での検体採取
- ステップ③~検査会社での解析
- ステップ④~医療機関で解析レポートを踏まえた治療の実施
(結果に問題がなかった方は不要)
ステップ①~医療機関の受診
まず、子宮内フローラ検査は医療機関で受けていただくことになります。すでに不妊治療などで医療機関に通っていらっしゃる方は、担当医に相談してみてください。
また、まだ不妊治療はこれからでかかりつけ医がない、あるいは妊活を始めるタイミングでご自身の子宮環境を知っておきたいということでしたら、 お近くの医療機関で子宮内フローラ検査を提供している施設がないか確認いただくのが良いと思います。
▼子宮内フローラ検査 実施施設一覧はこちら
ステップ②~医療機関での検体採取
医師が、子宮体がん検査と同様の器具を使い、子宮内膜上の粘液(子宮内腔液)を採取します。採取した検体は、検査会社に送られ、ゲノム解析技術でどういった細菌がいるかを網羅的に調べます。
編集部:
子宮内膜上の粘液を採取するのですね。SNSなどを見ていると「すごく痛い」というコメントが多く、痛い検査というイメージがあったのですが、粘液の採取だとそこまで痛くなさそうですね。
芦川さん:
実は検査会社によって、検体の採取法も異なります。子宮内膜の組織を採取する方式の検査もありますが、Varinosの「子宮内フローラ検査」は、子宮内膜上の粘液だけで精度の高い解析をすることができます。
具体的には、ピペットと呼ばれる細い棒状のものを子宮まで挿入し、その先端で吸引した粘液が検体となります。
先ほど、子宮内膜上の粘液であれば痛くなさそうとおっしゃっていましたが、痛みは個人差があります。そのため、子宮内膜上の粘液の採取であれば痛くないとは言えませんが、検査会社によって検体の採取法が異なるというのは知っておいてもよいかもしれませんね。
ステップ③~検査会社での解析
編集部:先ほど、ゲノム解析技術を用いて、どんな細菌がいるかを解析するとおっしゃっていましたが、以前にも「ゲノムとはなんぞや」を聞かせていただきましたね。
▼詳細は「【専門家に聞く】ゲノムと妊娠の関係」をご覧ください。
【専門家に聞く】ゲノムと妊娠の関係
芦川さん:
そうですね。人間だけではなく、動物や植物、そして細菌も皆「DNA」を持っていて、その「DNA」がもつ遺伝情報を「ゲノム」といい、「ゲノム」により生物の特徴が決まるというお話をしたと思います。
つまり検体中の細菌のDNAを解析すると、ゲノムがわかり、そこからどの細菌なのかを特定することができるのです。
検体がVarinosのラボに届くと、まず検体中の細菌等を壊してDNAだけを抽出します。その後、微量なDNAを増幅させ専用の機器で解析できるようにします。その機器というのが次世代シークエンサーというもので、高速でDNA配列を解読してくれます。それを自社のプログラミングで解析し、その配列から、どのような細菌が子宮内にいるかを判断していきます。
編集部:
思っていた以上に高度な検査なのですね。細菌と聞くと培養して顕微鏡でみるようなものをイメージしていましたが、全く違いますね。
芦川さん:
そうですね、子宮内には超微量の細菌しかいないので、解析するには高度な技術力が求められます。ちなみに、培養による検査ではどんな菌がどれくらいいるかわかりません。ゲノム解析をすること、それが可能になります。
編集部:
ちなみに、冒頭で「Varinosでは、どの細菌がどのくらい存在しているのかを細かく解析し、レポートを医師に提供しています。」と話されていましたが、細かくというのはどういうことでしょうか?
芦川さん:
子宮内の細菌はそもそも超微量とお話しましたが、少ないと解析できなかったり、一定値より少ないとすごく微量ですという報告だけで、その微量の細菌が何なのかのレポートがないケースもあります。それは検査会社の考え方やスタンスの違いだと思います。
Varinosの場合は、存在比としては非常に少ない細菌まで特定しています。それは、存在比が小さいから子宮や妊娠率に影響を与えないという報告はないからです。
不妊治療にあたる医師も、検査を受ける患者さんもできるだけ詳しく状況を把握し、最善の治療をされたいと思われていると思います。だから、Varinosも非常に細かくレポートをあげています。これは業界トップだと自負しています。
編集部:
確かに、検査を受ける方の一番の目的は、着床や妊娠なので、それに向け医師が適切な判断をできるように、できる限り詳細な情報を提供するというのは大事ですね。
ステップ④~医療機関で解析レポートを踏まえた治療の実施
(結果に問題がなかった場合、積極的な治療は不要)
編集部:
検査をしてからどのくらいで医療機関に結果が戻ってくるのでしょうか?
芦川さん:
検体がVarinosに送られてきてから、だいたい3週間くらいで、医療機関にレポートをお送りしています。
編集部:
レポートにはどのようなことが記載されているのですか。
芦川さん:
主に以下を記載しています。
ラクトバチルス率…パーセンテージで存在比を記載
検査結果コメント…どのような細菌が検出されたかなど
菌叢プロファイル…検出された細菌の名称や占有率
編集部:
ラクトバチルスの比率が低かった場合や細菌性腟症の原因となる細菌がいた場合はどうすればよいのでしょうか?
芦川さん:
このレポートから子宮内の菌環境がわかるので、医師が菌環境に応じた治療を行います。抗生剤の投与やサプリメント(ラクトフェリン)の摂取、食生活の改善など、医師がその方に合った治療を提案してくれます。
編集部:
なるほど。そういう意味でも細菌の存在比が少なくても、詳細なレポートをあげ、医師が適切な判断ができるようにすることが大切なのですね!
芦川さん:
そうですね。あとは、子宮内フローラ検査の結果、ラクトバチルスが90%以上で細菌性腟症の原因となる細菌などいなかった場合でも、子宮の菌環境は生活習慣やその他さまざまな理由で変化することがあります。子宮内フローラを良い状態で保つために、食生活やサプリメント(ラクトフェリン)の摂取など、日ごろからどういったことをするとよいか医師に相談するのもよいと思います。
余談~分類学から細菌を知る
芦川さん:
余談ですが、属(ぞく)レベルとか種(しゅ)レベルって聞いたことありますか?
Varinosは細菌の種レベルまで解析できる高度な技術力をもつ検査会社なんです。
編集部:
「属」?「種」?知らないです!一般常識ですか!?(笑)
芦川さん:
いえ、大丈夫です!例えば図鑑などでも魚や虫、花、動物と分けたりしていますよね?これが、分類学の基本です。近いもの同士をまとめていく学問です。
「属」とか「種」というのは、分け方の「細かさ」になります。
分類は、界(>亜界)>門(>亜門)>網(>亜網)>目(>亜目)>科(>亜科)>属(>亜属)>種(>亜種)という階級ごとで分けています。
ヒトとサル、チンパンジーは、手を器用に使い道具を使ったり、社会性のある行動をするなど似ていますよね?でも、馬や牛とは大きく違うので、ヒトやサル、チンパンジーは「サル目(霊長目)」という分類になります。
でも、サルよりチンパンジーの方がヒトに近いので、サルとヒト&チンパンジーは別だよねということで、サル=「サル科」、ヒト&チンパンジー=「ヒト科」と分けています。
これと同じく、菌も似たようなもの同士で分けています。
子宮内フローラの話をするとよく出てくるラクトバチルスやメディアでもよく耳にするビフィズス菌(=ビフィドバクテリウム)は「属」での分類名です。そこからさらに細かく分類したのが「種」ということになります。
「属」や「種」については理解できましたか?
編集部:
そういえば博物館で生命の進化を説明するパネルに、生物の分類が書いてあったような気がします!「属」や「種」というのはすごく細かい分類ということが理解できました!
芦川さん:
通常の子宮内フローラ検査では種レベルまでの解析は行いませんが、属よりも種の方が、性質も細かく分けられているということ、また、「種」は病原性や薬剤抵抗性などにも関わってくるので、わかるのであれば「種」まで見たいという医師も増えてきています。
編集部:
そうなのですね!なんだか今日は少し学生に戻ったような気分になりました。ありがとうございました!
専門家プロフィール
Varinos株式会社 臨床検査本部 臨床検査部長
芦川享大
宇都宮大学大学院 修士(農学)課程修了後、2003年、理化学研究所に入所。遺伝子多型研究センターでの国際HapMapプロジェクトやゲノム医科学研究センターでのオーダーメイド医療実現化プロジェクト、統合生命医科学研究センターでの次世代シークエンサーによる疾患ゲノム解析に従事。2017年Varinos株式会社に入社し、子宮内フローラ検査の開発に携わる。現在は、臨床検査本部 臨床検査部長として同社の研究・開発、検査における責任者を務める。