妊娠・出産にも大切な子宮内フローラ~細菌の「割合」と「量」の関係とは?/専門家による論文解説

こんにちは。子宮内フローラ検査を提供するVarinos(バリノス)です。
子宮内フローラの第一人者、かつVarinosの創業者でもある桜庭喜行が最新の論文をわかりやすく解説する本企画。
今回は、これまで細菌の「割合」が注目されていた子宮内フローラの「量(細菌の総量)」にフォーカスし、妊娠・出産とどのような関係があるのかを調べた論文をご紹介します。
▶今回ご紹介する論文
出典:Kadogami D, et al. Exploratory evaluation of the bacterial load of uterine microbiota: Potential implications for implantation and treatment response in assisted reproductive technology.Journal of Reproductive Immunology, Vol. 173, 104830, 2026.
(子宮内細菌叢の菌量に関する探索的評価:生殖補助医療における着床および治療反応性への潜在的影響)
目次
妊娠・出産にも影響を与えるとされている「子宮内フローラ」とは?
子宮内フローラとは、子宮の中に存在する細菌の集まりのことです。
2015年よりも前は無菌だと考えられていましたが、研究や技術の発展により、子宮内にも細菌が存在し、妊娠や出産に関わっていることが分かってきました。
ラクトバチルスの割合により妊娠率や出産率に差が生じる
2016年、子宮内の善玉菌である乳酸桿菌ラクトバチルスが90%以上いる群と未満の群では、妊娠率や生児獲得率に差が生じるという発表がされました。(下図)

この研究が、それまで無菌とされていた子宮の菌環境に注目が集まるきっかけとなりました。
その後、2017年にVarinosが世界で初めて子宮内フローラ検査を実用化し、現在では、日本をはじめ様々な国で子宮内の菌環境を調べることができるようになっています。
国内においては、2022年6月に子宮内細菌叢検査2という名称で先進医療技術としても認定されています。この先進医療としての評価を行うために実施された研究(下図)では、ラクトバチルスの割合が少なく治療を行った群と治療を行わなかった群では体外受精における妊娠成功率と妊娠継続率に大きな差が生じることがわかりました。

↓この研究について、以下の記事ではさらに詳しく解説しています。
▶【最新データ】子宮内フローラ「良好」より「異常→治療」の方が妊娠率が高いのはなぜ?
↓先進医療とは何か?は、以下の記事で解説しています。
このように、子宮内フローラにおけるラクトバチルスの割合は妊娠や出産に影響を与えることが様々な研究でわかってきています。
善玉菌「ラクトバチルス菌」の役割とは?
子宮内フローラにおいて善玉菌とされているラクトバチルス。ラクトバチルスが子宮内フローラの大部分を占めることで、子宮内を酸性環境にし、病原菌の侵入や悪玉菌の増殖を防ぐとされています。
反対にラクトバチルスが減り、
悪玉菌が増えると、免疫が活性化され、精子や受精卵も異物として攻撃し、受精・着床できなくなる
ことがあります。また
悪玉菌の中には、流産や早産につながる菌がいる
ことも分かってきており、妊娠・出産においてラクトバチルスの存在は非常に重要と言えます。
“菌の総量”は「妊娠率」ではなく、「菌環境の改善」に影響する?
これまでの研究の多くは、ラクトバチルスがどれくらいの「割合」を占めているかに注目してきましたが、今回ご紹介する研究では、「菌の総量(菌量)」に注目し進められました。
なお、今回解説する研究についての条件等は以下の通りです。(詳細は論文参照)
・反復着床不全(RIF)と診断された女性223名が対象
・ラクトバチルス菌が優位な状態を「LD(Lactobacillus-dominant)」と呼び、その基準を子宮内フローラ全体の80%以上をラクトバチルス菌が占める状態と定義
・LD-1→最初に行った子宮内フローラ検査でラクトバチルスが80%以上だった群
NLD-1→最初に行った子宮内フローラ検査でラクトバチルスが80%未満だった群
LD-2→治療介入しラクトバチルスが80%以上になった群
NLD-2→治療介入してもラクトバチルスが80%未満だった群
LD-T→LD-1とLD-2をあわせた群

この研究で示されたことの中で、特筆すべきは以下の3点です。
1:善玉菌が多い環境は、菌の総量も多い
ラクトバチルス菌が優位なグループ(LD-T)は、そうでないグループ(NLD-2)に比べて、統計的にも明らかに菌の総量が多いことが分かりました。つまり、菌の割合が良い子宮内フローラは「量も豊か」である傾向があったということです。
子宮内フローラにおける菌の割合と菌量の比較
以下の表は、最終的にラクトバチルス菌が優位な状態だった群(LD-T)と、治療を受けても優位にならなかった群(NLD-2)の菌量の中央値を示したものです。
*LD-Tには、最初から優位だった人と、治療によって改善した人の両方が含まれます。
| グループ | 菌量の中央値(コピー/mL) |
| LD-T | 1.2 × 10^7 |
| NLD-2 | 3.1 × 10^6 |
この結果が示すように、LD-Tグループの菌量はNLD-2グループの約4倍であり、この差は統計的に見ても意味のある差(有意差)であると結論付けられています。
2:菌の総量と妊娠率に直接の関係は見られなかった
今回の研究では、
菌の総量が多いか少ないかが、着床率や妊娠継続率に直接影響するという明確な結果は得られませんでした。
ここで大切なのは、これは「全く関係ない」という意味ではなく、「偶然の範囲を超えた、統計的に意味のある差は確認できなかった」ということです。
3:菌量は多すぎてもよくない可能性がある
統計的な優位性を示すことはできないとしつつも、子宮内フローラにも最適な菌量の範囲があるのではないかと推測しています。つまり良い菌環境であっても、菌量が多すぎると慢性炎症に寄与するなどネガティブに働く可能性もあり、今後さらなる研究が必要としています。
では、菌量が直接妊娠率に関わらないのであれば、なぜこの指標が重要なのでしょうか。次の章で解説します。
菌の「総量」は子宮内フローラ治療への反応に影響する?
今回の研究では、子宮内フローラ検査でラクトバチルスが少ない状態(NLD)と診断された場合の標準的な治療プロトコルが用いられました。
1.リセット:まず、抗菌薬(メトロニダゾール)を服用し、子宮内の細菌環境を一度リセット
2.補充:その後、妊娠・出産には特に良いとされるラクトバチルス・クリスパタスを含む腟剤(プロバイオティクス)を使用し、子宮内に善玉菌を補充
この治療により、ラクトバチルスが優位な状態に改善するかについて、治療前の「菌の総量」との関係を調べています。
この治療で改善した群と改善しなかった群を比較したところ、統計的に意味のある差は見られませんでした。しかし、数値上は、もともとの菌量が多かった群の方が、治療後に改善するケースがわずかに多いというデータが得られました。これは今後の研究で検証すべき兆候と捉えられています。
一つの仮説としては、例えば痩せた砂地よりも、豊かな土壌のある場所に新しい花を植える方が根付きやすいのと同じように、もともと菌量が多い子宮は、補充された善玉菌が定着するための土壌ができているのではないかということです。
このように、菌の総量は治療効果を予測する上でのヒントになる可能性があると言え、今後も研究が進められると考えられます。
まとめ:子宮内フローラにおける菌の「割合」と「量」は何に影響する?
今回は、子宮内フローラの「割合」と「総量」の観点から、妊娠・出産にどのような影響がある可能性があるかを解説しました。
ポイント1: 妊娠出産に適した子宮環境には、ラクトバチルスという善玉菌の存在が重要である。
ポイント2: 善玉菌が優位な環境は「菌の総量」も多い傾向がある。
ポイント3: 菌の総量は、現時点では妊娠率の直接的な予測指標ではないが、治療方針を考える上でのヒントになる可能性がある。
子宮内フローラは、「まず知ること」が大切です。知ることで初めて適切な治療・対策を行うことができます。
子宮内フローラ検査について詳しくは→https://varinos.com/services/flora/
この記事の監修者
Varinos株式会社
取締役会長 兼 創業者
桜庭 喜行
埼玉大学大学院で遺伝学を専攻。博士取得後、理化学研究所ゲノム科学総合研究センターでのゲノム 関連国家プロジェクトや、米国セントジュード小児病院にて、がん関連遺伝子の基礎研究に携わる。 その後、日本に初めて母体血から胎児の染色体異常を調べるNIPTと呼ばれる「新型出生前診断」を導入したほか、 NIPTやPGT-Aと呼ばれる着床前診断などの技術営業を経て、2017年2月にゲノム技術による臨床検査サービスの開発と提供を行うVarinos株式会社を設立。 同年、子宮内の細菌を調べる「子宮内フローラ検査」を世界で初めて実用化するなど、生殖医療分野の検査に精通。

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