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    採卵の痛みはどれくらい?hCG注射や筋肉注射、卵管造影等…不妊治療で感じる痛さの理由や対処法も解説

    採卵の痛みはどれくらい?を解説


    不妊治療の過程において、女性が痛みを伴う治療や検査がいくつかあります。
    その中でも特に、採卵に関わる過程の痛みに対し、不安を感じている方も多くいらっしゃるかと思います。

    そこで、今回は採卵にフォーカスし、
    ・採卵前の注射(皮下注射や筋肉注射)
    ・採卵手技
    ・採卵後の痛み
    について、ファティリティクリニック東京の院長・小田原圭先生にお話を伺いました。

    ファティリティクリニック東京・小田原院長

    執筆者:Varinos編集部

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    採卵当日の流れ

    採卵当日、まずは経腟超音波で排卵していないかを確認します。排卵していないことが確認できたら、採卵のための準備を進めます。

    静脈麻酔を使う場合は、麻酔をしてから腟洗浄を行い、その後、経腟超音波を使用しながら採卵を進めます。

    採卵当日の流れの図解

    採卵に向けた自己注射や採卵後にも痛みを感じることはありますが、まずは採卵当日に行われる検査や採卵の痛みについて解説します。


    *採卵に向けた自己注射や採卵後の痛みについては後述。


    採卵の痛みはどのくらい?

    痛みの感じ方は人それぞれですが、採卵の場合、麻酔の有無や麻酔の種類(静脈麻酔/局所麻酔)によっても痛みの度合いは変わってきます。

    『静脈麻酔を使用している場合、患者さんが痛いと感じることは少ないですが、麻酔中に痛みに対し無意識に体が動いてしまう方はいます。
    無麻酔や局所麻酔で採卵を行い、痛みが強かった場合や痛みに恐怖心がある場合は、無理せず静脈麻酔で採卵を希望する旨、医師と相談されると良いと思います。 (小田原院長)』

    小田原院長


    【独自アンケート】採卵の痛みはどのくらい ?

    Varinos公式SNS(InstagramXLINE)で行ったアンケートで「あなたが採卵で感じた痛みを表すのに最も近い表現を教えてください。」と質問したところ、

    最も多かった回答は『少し痛いが我慢できるくらいだった(40%)』でした。

    次いで、『涙がでるくらい痛かった(26%)』、『ほぼ痛くなかった(26%)』、『気絶するかと思うくらい痛かった(8%)』という結果でした。

    採卵の痛みに関するアンケート結果
    アンケート方法:Varinos公式SNS(Instagram、X、LINE)
    アンケート期間:2024/11/15~11/22日
    回答数:311


    採卵で痛みを感じる原因

    採卵の際に、痛みを感じるのは実際に穿刺して卵子を取るときだけではありません。

    患者さんによっては、経腟超音波や腟洗浄でも痛みを感じる場合があります。

    採卵で痛みを感じる要因


    経腟超音波(エコープローべ)による痛み

    経腟超音波は排卵していないかの確認時と、採卵を行う際に卵胞の位置を確認するために使用します。

    異物が入るため違和感はあっても、痛みを訴える患者さんは比較的少ないと言えます。ただし、

    経腟超音波を押し当てながら確認するため、子宮内膜症や卵巣に癒着がある場合、また卵巣が腟壁から離れた位置にある場合などに、痛みを感じやすくなります。


    腟洗浄による痛み

    穿刺による感染防止や腟分泌物による卵子への影響の観点から、採卵前に生理食塩水など で外陰部と腟内を洗浄します。

    このとき、腟を広げながら洗浄するため、局所麻酔や坐薬を使用して採卵する場合は、痛みや違和感がある場合もあります。

    ただし、静脈麻酔を行い採卵する場合、腟洗浄は麻酔後に行うため、痛みを感じることは少ないです。

    *局所麻酔の場合、腟洗浄後に麻酔を行います。

    『腟が狭い方や腟の開きが硬い方は、腟洗浄でも痛みを感じることがあります。

    その場合、腟を広げるクスコという器具を通常よりも小さいものにし、できるだけ痛みを軽減できるようにしています。(小田原院長)』

    小田原院長


    採卵のための穿刺による痛み

    採卵する際は、経腟超音波で卵巣内の卵胞の位置を確認しながら、経腟超音波についているガイドから針を通し、卵胞液ごと卵子を採取していきます。

    腟壁はもともと痛みを感じにくい部位とされていますが、採卵針により痛点が刺激されることで痛みを感じます。

    採卵の画像


    [関連記事]
    体外受精で考えられる9つのリスクと採卵に伴う3つのリスクとは?


    採卵個数による穿刺回数が多いことによる痛み

    採卵個数が多い場合、穿刺回数も多くなります。

    卵巣を刺す回数が増えると、痛みを感じる回数が増え、また痛みを感じる時間も長くなる可能性があります。

    そのため、採卵個数が多い場合は患者さんの負担を考え、静脈麻酔下での採卵を検討してもいいと言えます。


    痛みには個人差がある

    経腟超音波や腟洗浄、また採卵時の痛みについて解説しましたが、痛みの感じ方は個々人により異なります。

    特に初めて採卵を受ける場合は、不安を感じる方も多いと思いますが、

    不安を抱えこみ過ぎず、採卵に恐怖心がある場合や元々痛みに弱い方は、静脈麻酔での採卵を医師に相談されるのも一つの方法です。

    ただし、採卵個数が少ない場合や患者さんのご事情によっては静脈麻酔での採卵がベストではない場合もあります。


    採卵による痛みを和らげる方法

    採卵時の痛みは、ご自身の工夫で軽減するのは難しく、医療機関の方針や麻酔の使用の有無で大きく変わると言えます。

    採卵時の痛みを和らげる方法


    ①麻酔の使用

    採卵の痛みを和らげる方法の一つが麻酔の使用です。
    麻酔には、静脈麻酔と局所麻酔があります。

    『静脈麻酔を使う場合、経腟超音波で排卵していないことを確認したあと、麻酔を使用し、眠った後に採卵をしていきます。

    そのため、多くの患者さんは穿刺の痛みなどを感じることなく採卵を終えることができます。(小田原院長)』

    小田原院長

    採卵時の麻酔の有無や使用する麻酔の種類は、採卵個数や患者さんのご希望、医療機関の設備などにより選択されます。

    また、麻酔以外に、痛み止めの坐薬を予め使用するという方法もあります。

    [関連リンク]
    採卵時に使用する麻酔の種類と特徴に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
    保険適用での採卵のメリット・デメリット~条件や自由診療との費用比較などを徹底解説!


    ②細い採卵針を使用する

    1.2mmから1.7mm の採卵針もありますが、昨今は、患者様の負担軽減の観点から0.8mmから0.9mmの比較的細い採卵針を使用する医療機関も増えています。

    採卵針の種類の図解

    『一昔前は、採卵針が今よりも太くて硬かったので、穿刺(せんし)も痛かったと思いますし、出血も多かったと思います。

    最近の穿刺針は針の太さがとても細くなっているので、痛みも出血も軽減されています。

    (小田原院長)』

    小田原院長

    採卵後にも痛みを感じることがある?

    麻酔を使用し、できるだけ痛みが少ない状況で採卵しても、「麻酔が切れた後は、やっぱり痛いのでは?」と不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。

    『麻酔が切れた後、採卵後の痛みを感じる方もいらっしゃいますが、

    強い痛みを感じる方は少ないと思います。

    多少痛みがあるという方には、坐薬などの痛み止めを使用していただくこともありますが、

    基本的には痛みは徐々に落ち着いていき、痛みがずっと続くことはほとんどありません。

    (小田原院長)』

    小田原院長

    ただし、採卵後も痛みが持続する場合や痛みが徐々に強くなる場合、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)や卵巣もしくは腹腔内の出血、細菌感染による腹腔内感染症の可能性があります。

    こういった場合は、すぐにかかりつけ医に連絡をし、判断を仰ぎましょう。


    採卵以外にも、不妊治療で痛みを感じることがある検査や投薬

    採卵までのプロセスにおいても、痛みを感じる方が多い検査や薬(注射)があります。
    そこで、今回は、患者さんが痛みについて不安に感じることが多い
    ・卵管造影
    ・排卵誘発剤(皮下注射/筋肉注射)

    について、解説いたします。


    卵管造影検査はなぜ痛い?理由や痛みを和らげる方法とは

    卵管造影検査とは、子宮内から卵管へと造影剤を注入しながら、レントゲン撮影し
    ・卵管の通過性や閉塞・狭窄の有無
    ・子宮の形状や子宮筋腫やポリープの有無
    ・卵管周囲や骨盤内の癒着状態

    などを調べる検査です。

    女性の不妊原因としても卵管因子が多いことはわかっている

    ことから、不妊症の基礎検査として卵管造影検査を実施する医療機関が多い傾向にあります。

    卵管造影検査についての説明図

    [関連記事]
    不妊治療を行う医師に聞く「不妊原因として最も多い『卵管因子』」


    卵管造影検査が痛い理由

    卵管造影検査が痛い理由は、以下の2つの理由が挙げられます。

    ① 卵管造影のためのチューブを子宮の中に挿入する際、子宮頸管を通るときに痛みを感じることがある
    ②卵管が狭窄している場合、造影剤を注入することで卵管内に圧力がかかり、痛みを感じやすくなる

    卵管造影検査で痛みを感じる理由

    『造影剤は、まず子宮の中を通り、それから卵管を通っていきます。

    造影剤が子宮にだけ入っているときは基本的に痛くありません。ただし、

    卵管は細いので、造影剤が通過する際に痛みを感じることがあります。

    特に卵管が狭まっている方(狭窄)は、造影剤で押し広げられることによる痛みを感じやすいと言えます。反対に、卵管の通りが良い方は、痛みが少ないか全く痛くない場合もあります。

    卵管造影剤には、油性と水溶性がありますが、最近は水溶性の造影剤を使用している医療機関が多いのではないでしょうか。油性の造影剤は甲状腺への影響が懸念されるほか、形状も粘度が高いため、卵管を通過するにも時間がかかり痛みを感じやすい、また、痛みを感じる時間が長いと言えます。

    一方、水溶性の造影剤はさらさらしているので、卵管を通過するのに要する時間が短く、痛みも軽減されます。また、油性の造影剤は翌日にもう一回レントゲン撮影し、お腹の中の状態を確認する必要があります。水溶性の造影剤の場合は当日に確認することができるというメリットもあります。

    患者さんの中には、油性の造影剤に対するイメージが強く、痛みを心配される方もいらっしゃいますが、心配されている方ほど、水溶性の造影剤での検査が終わると意外に痛くなかったとおっしゃいます。(小田原院長)』

    小田原院長


    卵管造影による痛みを和らげる方法

    患者さんご自身でできる対策ではありませんが、造影剤が卵管を通過する際に痛みを感じやすくなるため、造影剤をゆっくり入れることで痛みが緩和されることがあります。

    『卵管造影検査をする際は、

    子宮の形や卵管の位置を確認しながら、スピードを調整して造影剤を注入

    していきます。

    患者さんの反応を見て注入のスピードを調整すると、患者さんが痛みを感じることが少なくなっている気がします。

    ただし、

    卵管が狭窄している方はどうしても痛みを感じるかもしれません。

    造影剤を注入している間は多少痛みを感じてしまうかもしれませんが、終わった後の痛みは徐々に改善してきます。

    痛みが強い場合は横になり休んでいただくこともありますが、帰宅できなくなるようなことは基本的にはありません。(小田原院長)』

    卵管造影による痛みを和らげる方法


    採卵と卵管造影検査はどっちが痛い?

    Varinos公式SNS(Instagram、X、LINE)で行ったアンケートで、「 採卵と卵管造影を比較するとどちらが痛かったですか?」と質問したところ、最も多かったのが「採卵(47%)」、次いで「卵管造影(36%)」、「どちらも同じくらい痛かった(9%)」、「どちらも痛くなかった(8%)」という結果でした。

    この結果からも、

    一般的にどちらが痛いということはできず、手技による違いや体の状況などにより、痛みの感じ方には個人差がある

    ことがお分かりいただけると思います。

     採卵と卵管造影の痛みを比較したアンケート結果
    アンケート方法:Varinos公式SNS(Instagram、X、LINE)
    アンケート期間:2024/11/15~11/22日
    回答数:280


    不妊治療の注射は痛い?種類や痛み、対処法を紹介

    体外受精や顕微授精を行う場合、採卵が必要になります。1回の採卵でより多くの卵子を得ようとする場合、内服や注射による投薬を行いながら卵胞をたくさん育てていきます。


    自己注射の種類と目的

    卵巣刺激の方法は複数あり、使用される薬剤(内服や注射)は異なりますが、主に以下3種類のどれか、もしくは組み合わせて使うことが多いと言えます。


    1.hMG/rFSH注射
    卵胞の発育を促すために使用されるhMG/rFSH注射には、いくつか種類がありますが、FSH製剤には自己注射できるペン型の注射があります。

    2.GnRHアンタゴニスト製剤
    GnRHアンタゴニスト製剤は排卵を抑制する目的で、hMG/rFSH注射と併用して使用される薬剤です。GnRHアンタゴニスト製剤には、自己注射できるものがあります。

    3.hCG注射
    卵胞の成熟を促す目的で打つhCG注射には、皮下注射(ご自身で打つことできるもの)と筋肉注射(医療従事者しか打てない)があります。

    不妊治療における自己注射の種類と目的


    [関連リンク]
    卵巣刺激法別に使用される薬剤やプロセス、スケジュールを解説


    自己注射(皮下注射)と医療従事者に打ってもらう筋肉注射、何が違う?

    『皮下注射で行うHCGと筋肉注射で行うhCGがありますが、どちらの注射でも同じように十分に卵胞を成熟させることができると考えています。

    採卵に向けて使用するその他の注射に関しても、筋肉注射でなければいけない薬はほとんどありません。

    筋肉注射のほうが皮下注射よりも素早く体に浸透する(浸透率が高い)という意味でのメリットはあります。

    ただし、卵胞の発育を促す注射の場合、卵巣刺激方法によって使用する日数は異なりますが、何日も継続して打つ必要があります。毎日病院に通うのは患者さんの負担も大きいためその点では皮下注射(自己注射)のメリットが大きいと考えています。(小田原院長 )』

    小田原院長


    皮下注射と筋肉注射、どちらが痛い?

    Varinos公式SNS(Instagram、X、LINE)でのアンケートで、「体外受精で行う注射の痛みについて教えてください。」と質問したところ、「皮下注射は痛くないが筋肉注射は痛い(44%)」、「皮下注射も筋肉注射も痛い(36%)」、「皮下注射も筋肉注射も痛くない(18%)」、「皮下注射は痛いが筋肉注射は痛くない(2%)」という結果でした。

    体外受精で行う注射の痛みに関するアンケート結果
    アンケート方法:Varinos公式SNS(Instagram、X、LINE)
    アンケート期間:2024/11/15~11/22日
    回答数:265

    この結果から筋肉注射は比較的痛いと感じる方が多い(約80%)ことがわかります。一方、皮下注射は約60%の方が痛くないと回答しています。

    筋肉注射は、皮膚に対して直角に近い角度で注射針を刺し、筋層と呼ばれる深い部分に薬液を注入するため、皮下注射よりも痛みを感じやすいと言えます。一方、皮下注射はお腹など、比較的脂肪が厚いところをつまみながら打つため、筋肉注射に比べると痛み度合いは軽いと言えます。

    皮下注射が痛いと感じる方と痛くない方の違いは、「脂肪の厚さ」のほか、「慣れ」もあると思います。

    最初は皮下注射に対し不安を感じる方も多いですが、 ほとんどの方が問題なくご自身で皮下注射を打てるようになります。(小田原院長)』

    小田原院長


    採卵の痛みはどのくらい?についてのまとめ

    採卵フォーカスし、「採卵前の注射(皮下注射や筋肉注射)」や「採卵手技」、「採卵後の痛み」についてご紹介しました。痛みの感じ方については個人差がありますが、なぜ痛みを感じるのか、また痛みに対しどのような対策が可能か、参考にしていただければ幸いです。

    ・痛みの感じ方は人それぞれだが、採卵の場合は、麻酔の有無や麻酔の種類(静脈麻酔/局所麻酔)によっても痛みの度合いが変わる。
    ・採卵時には「経腟超音波(エコープローべ)による痛み」や「腟洗浄による痛み」、「採卵のための穿刺による痛み」を感じる可能性がある。
    ・採卵時の痛みを軽減する方法としては、麻酔や坐薬の仕様や細い採卵針を使用するといった方法がある。
    ・採卵の際の麻酔が切れた後、痛みを感じる方もいるが、基本的には痛みは徐々に落ち着いていき、痛みがずっと続くことはほとんどない。
    ・採卵までのプロセスにおいて、卵管造影や排卵誘発剤(皮下注射/筋肉注射)でも痛みを感じることがある。
    ・卵管造影検査が痛いと感じる主な理由は、「卵管造影のためのチューブを子宮の中に挿入する際、子宮頸管を通るときに痛みを感じることがある」、「卵管が狭窄している場合、造影剤を注入することで卵管内に圧力がかかり、痛みを感じやすくなる」の2つが考えられる。
    ・皮下注射が痛いと感じる方と痛くない方の違いは、「脂肪の厚さ」や「慣れ」が挙げられる。


    この記事の監修医

    ファティリティクリニック東京
    小田原 圭 院長

    2013年3月 昭和大学医学部卒業
    2015年4月 昭和大学医学部産婦人科学講座 入局
    2021年3月 昭和大学 博士(医学)取得
    2021年4月-2024年3月 
    昭和大学医学部産婦人科学講座 助教
    聖マリアンナ医科大学病院 生殖医療センター 助教
    (留学2022年4月-2023年3月)
    2024年4月 ファティリティクリニック東京

    [所属学会]
    日本産科婦人科学会
    日本生殖医学会
    日本人類遺伝学会
    日本産婦人科遺伝診療学会 代議員(2023,2024)
    日本がん・生殖医療学会
    日本受精着床学会
    日本卵子学会
    日本再生医療学会

    [資格]
    日本専門医機構認定産婦人科専門医
    日本生殖医学会 生殖医療専門医
    臨床遺伝専門医

    ファティリティクリニック東京・小田原院長

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