高プロラクチン血症でも妊娠できる?原因や薬による治療効果を医師が解説

不妊治療を始める際の血液検査でわかることの多い「高プロラクチン血症」。
高プロラクチン血症とは、母乳分泌に関わるプロラクチンというホルモンが必要以上に高くなり、排卵や月経に影響することがある状態です。
「高プロラクチン血症でも妊娠・出産できるの?」「健康上の問題はないの?」と不安に思う方も多いと思います。そこで今回は、Kobaレディースクリニック院長・加藤徹医師に、高プロラクチン血症と不妊症の関係や、原因や症状、妊娠・出産に向けた治療の考え方についてお話をうかがいました。
<この記事のポイント>
・高プロラクチン血症は「授乳期でもないのに母乳を促すホルモンが増える」状態で、排卵障害や黄体機能不全(不妊・流産リスク)の原因になります。
・自覚症状はほとんどなく血液検査で見つかるケースが大半で、薬(ドパミン作動薬など)で比較的容易にコントロールが可能な疾患です。
・背景に「服用中の薬の影響」や「甲状腺機能低下症」が隠れている場合もありますが、原因に応じた適切なアプローチで十分に妊娠・出産を目指せます。


目次
高プロラクチン血症とは?なぜ不妊の原因になるのか
高プロラクチン血症とは、妊娠中あるいは授乳期ではないのに、母乳分泌を促す「プロラクチン(PRL/乳腺刺激ホルモン)」の値が高い状態を言います。
自覚症状がほとんどなく、不妊治療の初期に行われる血液検査で見つかるケースが多いと言えます。
女性では21~40歳に多くみられると言われています。*
プロラクチンはどんなホルモン?
プロラクチンは、脳の下垂体から分泌されるホルモンです。主な役割は乳腺の発達を助け、出産後の母乳分泌を促すことにあります。妊娠・出産後に大切な働きを担うホルモンであり、妊娠中や授乳中に増えるのは自然な反応で、この時期の高値は異常ではありません。授乳中にプロラクチン値が上がると、体は次の妊娠を急がない方向に働き、排卵が抑えられます。産後しばらく月経が戻らない理由のひとつです。

問題になるのは、妊娠していない時期や授乳していない時期に、必要以上に高い状態が続く場合です。
これを高プロラクチン血症と呼びます。
なお、プロラクチンは日内変動があり、緊張や刺激の影響でも数値が上がることがあります。そのため、実際の診療では、1回の採血だけで即断しないこともあります。
なぜ不妊につながるのか
高プロラクチン血症が不妊の原因になりうるのは、排卵の司令系統に影響するからです。排卵は、脳からのホルモン指令と卵巣の反応が連動して起こります。プロラクチン値が高い状態では、この連動が乱れ、排卵しにくくなることがあります。
その結果、排卵障害や着床しない、また流産のリスクを高めることがあります。
①排卵を止めてしまう(排卵障害)
卵胞(卵子の入った袋)を育てるホルモン(FSH)や排卵を促すホルモン(LH)の分泌が抑えられるため、卵胞が育たず、排卵が遅れる、あるいは完全に止まる(無排卵)といった排卵障害を引き起こします。
②着床や妊娠維持への影響(黄体機能不全)
高プロラクチン血症は、排卵だけでなく妊娠維持に関わるホルモン環境にも影響することがあります。排卵後は卵子の入っていた袋が黄体となり、プロゲステロン(黄体ホルモン)が分泌され、子宮内膜を妊娠しやすい状態に保ちます。しかし、プロゲステロンの分泌が弱いと、受精しても着床しにくく妊娠が成立しづらくなります。また黄体は、胎盤が完成する前の妊娠初期に必要なプロゲステロンを補う役割も担っているため、黄体からのプロゲステロンの分泌が弱いと流産のリスクを高めてしまう可能性もあります。

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「値が高い=妊娠できない」ではない
プロラクチン値が高く「高プロラクチン血症」と診断されると、妊娠は難しいのではないかと不安になる方も多いと思います。しかし、
比較的薬でコントロールしやすい疾患
で、不妊治療の初期検査で発見された場合は、その後の方針が立てやすい不妊原因のひとつです。
ただし、高プロラクチン血症の背景に、甲状腺機能異常や薬剤の影響、まれに下垂体の小さな腫瘍などが影響している場合もあります。その場合は、他の治療も並行して行うことになります。
高プロラクチン血症の症状
高プロラクチン血症は、
はっきりした自覚症状がないケースがほとんど
で、不妊治療の初期に行われる血液検査で数値が高く発見されることが多いと言えます。
自覚症状があるケースは少ないものの、以下のような症状が現れることもあります。
月経異常
高プロラクチン血症により、月経周期の乱れや排卵障害(無排卵、無排卵月経など)といった症状が現れることがあります。
『基本的に、高プロラクチン血症であっても自覚症状はほとんどありません。月経異常が現れるほどであれば、数値がかなり高い状態と言えます。(加藤先生)』
乳汁漏出
『乳汁漏出は高プロラクチン血症の症状としてよく紹介される症状ですが、診療している中で、乳汁漏出がある方はほとんどいません。精神疾患合併の方で統合失調症の薬(ドーパミン作動薬)を服用しているとプロラクチン産生を促進することから、乳汁分泌が見られる場合もありますが、それでも多くみられる症状ではありません。(加藤先生)』

頭痛や目の違和感(視野狭窄)
プロラクチン産生下垂体腺腫という脳内の腫瘍が大きくなることで頭痛や視野障害が出ることがあります。視野障害とは、見える範囲が狭くなる、横が見えにくい、物にぶつかりやすいといった状態です。
『数値が極端に高い場合は、下垂体のプロラクチンを出す細胞に腫瘍(マイクロプロラクチノーマ)がある場合もあります。腫瘍というと不安に思われるかもしれませんが、多くの場合、治療を必要としない小さなものです。ただし、プロラクチン値がかなり上がるため、排卵障害や流産のリスクが高まります。こういった場合、内服薬でプロラクチン値を下げる必要があります。なお、視野に影響が出る場合は、かなり重度な高プロラクチン血症と言えます。(加藤先生)』

高プロラクチン血症の原因
高プロラクチン血症の原因は単一とは限りませんが、一時的な生理的上昇、薬剤の影響、脳(下垂体や視床下部)の病気やトラブル、甲状腺機能の問題に大別されます。
『血液検査によりプロラクチン値が高い場合、まず甲状腺機能を確認します。さらに、あまりにもプロラクチン値が高い場合は、薬剤性あるいはプロラクチン産生下垂体腺腫などを疑い、MRIで確認するため他の病院を紹介することもあります。(加藤先生)』
一時的な生理的上昇
プロラクチンは、採血のタイミングや日常生活のちょっとした変化(強いストレスなど)や刺激(乳頭の物理的刺激や激しい運動)によって、値が変動するデリケートなホルモンです。
そのため、診療においても最初の採血で値が高かった場合は、日を改めて採血を行うこともあります。

薬の影響(薬剤性高プロラクチン血症)
プロラクチン値の上昇に影響する主な薬剤としては、以下が挙げられます。
・抗精神病薬
・抗うつ薬
・制吐薬(胃薬、吐き気止め)
・循環器、血圧降下薬
・抗潰瘍薬(胃潰瘍の薬)
・ホルモン剤
など

プロラクチンは、ドパミンによって分泌が抑えられています。しかし、上記の薬にはドパミンの働きをブロックする作用があるため、ブレーキが弱まり、プロラクチン値が上がることがあります。
精神科や心療内科、その他の疾患で通院・治療中の場合は、疾患の治療をする医師(医療機関)と連携し治療にあたる必要があるため、不妊治療を行う医師に服薬内容を正確に伝えるようにしましょう。
脳の病気・トラブル①プロラクチン産生下垂体腺腫
下垂体に良性腫瘍(プロラクチノーマ)ができると、それ自体がプロラクチンを大量に作り出して血液中に放出されます。
画像検査(MRI)で見つかる小さな腫瘍であることが多く、基本的には薬でコントロールすることができます。強い頭痛や視野異常などを伴う大きな病変は別として、不妊治療中に見つかるものの多くは、まず内服治療が検討されます。

脳の病気・トラブル②視床下部機能障害
脳の視床下部は「ドパミン」というブレーキ物質を出して、下垂体がプロラクチンを出しすぎないようにコントロールしています。しかし、視床下部機能障害によりブレーキが上手くかからなくなると、下垂体がプロラクチンを多く出してしまいます。
「障害」という名前がついていますが、脳に腫瘍などの物理的な病気があるわけではありません。その大半は、「強い精神的ストレス」「過度なダイエットによる急激な体重減少」「激しい運動」「昼夜逆転などの生活リズムの乱れ」などが引き金となります。脳のコントロールセンターが一時的に疲れて、正常に働かなくなっている状態を指します。

甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンが不足する(=甲状腺機能低下症)と、体はそれを補おうとして、脳から甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)を多く出します。このTRHは甲状腺を刺激するだけでなく、プロラクチン分泌も促進するため、結果として高プロラクチン血症につながります。

『甲状腺機能低下症そのものも、月経異常や排卵障害、流産リスクの上昇に関わることがあります。(加藤先生)』
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不妊治療における検査と診断の流れ
高プロラクチン血症は、不妊治療の初期段階に行う血液検査で妊娠・出産に重要なホルモン値をまとめて確認する中で見つかることが多いと言えます。
あわせて、不妊治療の初診時に行われる問診(月経周期(月経異常)や体調不良、服用している薬など)の情報も加味し、追加の検査や治療方針を決定します。
プロラクチン値が高値だった場合
血液検査の結果で、血中のプロラクチン濃度が30ng/mLを超えると「高プロラクチン血症」と診断されます。
ただしプロラクチン値は日内変動があるため、1回目の値がやや高くてもすぐに治療を始めるのではなく、日を改めて再度検査を行うこともあります。
なお、血中のプロラクチン濃度が100ng/ml を超える場合や視野が狭くなる(外側が見えにくい)などの視野異常がある、強い頭痛がある場合は、プロラクチノーマ(下垂体腫瘍)の可能性を考え、頭部MRIを実施する場合もあります。*
*出典:2010 年 4 月 23 日開催 第 2 回「産婦人科診療ガイドライン-婦人科外来編」コンセンサスミーティング用資料
高プロラクチン血症と診断された後の不妊治療の進め方
プロラクチン値は「ドパミン作動薬(カベルゴリン(商品名:カバサール))」というお薬で下げることができるため、治療の中心は薬物療法となります。
ただし、数値が少し高い(軽度上昇)だけで排卵や月経に大きな問題がない場合は、すぐに治療は行わず、経過を見守ることもあります。なお、お薬の副作用や他の病気が原因である場合は、まずその原因へのアプローチを優先します。
– 原因がわからない・ストレスなどの場合(視床下部機能障害など)
ドパミン作動薬を服用し、プロラクチン値を正常化させて排卵の回復を図ります。
– 脳の腫瘍(プロラクチン産生下垂体腺腫)の場合
まずはドパミン作動薬による薬物療法を第一に行います。腫瘍が非常に大きい場合や薬が合わない場合は、外科手術や放射線治療が検討されることもあります。
– 服用中のお薬が原因(薬剤性高プロラクチン血症)の場合
現在治療中の病気への影響も考慮しながら、処方医と相談の上で、原因となっている薬剤の中止や種類の変更を検討します。
– 甲状腺の病気(原発性甲状腺機能低下症)の場合
不足している甲状腺ホルモンを補うお薬を服用します。甲状腺のコントロールができると、自然とプロラクチン値も正常化するケースが多いと言えます。
薬を使う期間の目安
『基本的には、妊娠判定まで薬を継続し、妊娠成立後は中断することが多いです。(加藤先生)』

なお、薬の服用期間はプロラクチン値の程度や背景にある原因によっても変わります。自己判断で中止せず、主治医の指示に従うことが重要です。
高プロラクチン血症に関するよくある質問
ここでは、高プロラクチン血症についてよくある質問について、加藤先生にお答えいただきました。
Q1.高プロラクチン血症でも妊娠できますか?
高プロラクチン血症であっても、妊娠を目指すことは十分可能です。特に高プロラクチン血症は薬の服用により値をコントロールしやすい疾患ともいえるため、プロラクチン値の上昇が排卵や着床の妨げになっているかを見極め、必要な治療を行います。
Q2.プロラクチン値が少し高いだけでも治療が必要ですか?
必ずしも必要とは限りません。実際の診療では、数値だけでなく、月経周期、排卵の有無、再検査の結果、服用中の薬、甲状腺機能の状態を合わせて判断します。
Q3.治療薬はいつまで飲む必要がありますか?
妊娠判定の時期まで内服を続けることが多いと言えます。
Q4.薬を飲めばすぐプロラクチン値は正常化しますか?
比較的薬でコントロールしやすいですが、反応の速さには個人差があります。また、原因が薬剤性なのか、甲状腺機能低下症に伴うものか、下垂体の病変が関係するのかで対応も変わります。
Q5.高プロラクチン血症の治療薬(カバサールなど)に副作用はありますか?
お薬の飲み始めに軽い吐き気やだるさを感じる方もいます*。多くの場合は、服用を続けるうちに体が慣れて症状が治まっていきます。どうしても体質に合わない場合は、薬の種類を変えたり、一時的に吐き気止めを併用したりすることもありますので、自己判断で中止せず主治医に相談してください。
高プロラクチン血症のまとめ
◆高プロラクチン血症は授乳期でもないのに母乳分泌を促すホルモンが高くなり排卵障害や黄体機能不全(不妊・流産リスク)の原因となる状態のこと
◆自覚症状はほとんどなく、不妊治療初期の血液検査で見つかるケースが大半で薬(ドパミン作動薬など)でコントロールしやすい疾患である
◆原因には生理的変動のほか服薬中の薬の影響、脳の病気、甲状腺機能低下症などが含まれ、背景に応じた対処が重要
◆治療はドパミン作動薬の服用が中心となり、妊娠判定の時期まで薬を継続してプロラクチン値の正常化を図る
◆適切な診断と原因に応じたアプローチを行うことで十分に妊娠・出産を目指すことができる疾患である
この記事の監修医
Kobaレディースクリニック
加藤 徹 院長
平成20年3月 兵庫医科大学卒業
平成20年4月 医師免許取得
平成22年4月 兵庫医科大学 産科婦人科
平成22年7月 大阪府 府中病院 産科婦人科
平成25年4月 兵庫医科大学病院ささやま医療センター 産婦人科
平成30年3月 兵庫医科大学大学院卒業
平成31年4月 兵庫医科大学病院 周産期医療センター長
令和2年4月 兵庫医科大学病院 産科婦人科 講師
令和2年10月 兵庫医科大学病院 産科婦人科 医局長
令和4年4月 kobaレディースクリニック 副院長
令和6年6月~ kobaレディースクリニック 院長 兼 理事長
[所属学会]
日本産科婦人科学会
日本生殖医学会
日本受精着床学会
日本エンドメトリオーシス学会
[資格]
医学博士
母体保護法指定医
一般社団法人 日本専門医機構 産婦人科専門医 / 産婦人科指導医
一般社団法人 日本生殖医学会認定 生殖医療専門医 / 生殖医療指導医

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