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    甲状腺ホルモン異常で不妊・流産リスクは高まる?原因と検査・治療法をわかりやすく解説

    甲状腺ホルモン異常で不妊・流産リスクは高まる?原因と検査・治療法をわかりやすく解説


    元々、甲状腺ホルモン異常がある中で妊娠・出産を目指す方も、不妊治療の初期検査で甲状腺ホルモン異常を指摘された方も「不妊や流産のリスクが高まるのでは…」と不安に思われるのではないでしょうか。

    実際、甲状腺ホルモンは、排卵や妊娠の維持に関わる妊娠・出産に重要な存在です。

    甲状腺ホルモン異常とは、甲状腺ホルモンが多すぎる状態あるいは少なすぎる状態、または関連する数値に異常がある状態を指します。

    今回は、甲状腺ホルモンと不妊や流産との関係、また考えられる原因や治療について、Kobaレディースクリニック院長・加藤徹医師にお話をうかがいました。


    <この記事のポイント>
    ・甲状腺ホルモンは排卵・着床・胎児の発育など妊娠の全段階に深く影響する

    ・(潜在性)甲状腺機能低下症では、自覚症状がない場合も多い

    ・適切に薬(チラージンや抗甲状腺薬)で数値をコントロールすれば十分妊娠・出産を目指せる


    監修医:Kobaレディースクリニック 加藤徹 院長

    執筆者:Varinos編集部

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    甲状腺ホルモンとは?妊娠・出産における重要な役割

    甲状腺ホルモンは、月経周期の安定や正常な排卵だけでなく、子宮内膜の環境維持や妊娠初期の胎児の発育など、妊娠と出産に深く関わっています。

    不妊治療のスクリーニング(初期検査)で必ずと言っていいほど甲状腺機能が確認されるのは、このように不妊や流産へおよぼす影響範囲が非常に広いためです。


    甲状腺ホルモンの働きと種類(TSH, FT3, FT4)

    甲状腺ホルモンの働きと種類の図解


    甲状腺は首の前側にある小さな臓器で、体の代謝を調整するホルモンを分泌しています。

    不妊治療の血液検査では、主に「FT3」「FT4」「TSH」という項目を確認します。

    FT3(遊離トリヨードサイロニン)とFT4(遊離サイロキシン)は、甲状腺から直接分泌されるホルモンです。体温の維持、脈拍、エネルギー消費など、全身の働き(体の「回転速度」)を整える役割を担っています。多すぎれば代謝が上がりすぎて動悸や汗が出やすくなり、少なすぎれば体の動きが鈍くなり倦怠感や冷えに繋がります。

    一方、TSH(甲状腺刺激ホルモン)は甲状腺からではなく、脳下垂体から分泌されるホルモンです。甲状腺に対して「ホルモンを出しなさい」「今は十分」と指令を送る役割を持ちます。

    そのため、甲状腺ホルモン(FT3/FT4)が不足すると脳は「もっと出せ」と強く命令するためTSHは高くなり、逆に甲状腺ホルモンが十分(あるいは過剰)だとTSHは低くなります。不妊治療では、この指令役であるTSHの値も注視します。


    なぜ妊娠に重要?排卵・着床・胎児の発育との関係

    甲状腺ホルモンは、

    妊娠が成立してから無事に出産に至るまでの「すべての段階」に影響

    します。

    まず影響するのは「排卵」です。甲状腺機能が低下・亢進すると卵巣の動きが鈍くなり、無排卵や月経周期の乱れを引き起こします。

    甲状腺ホルモンの排卵への影響

    次に重要なのが子宮内膜への影響(着床)です。子宮内膜は、受精卵を迎えて育てる大切な存在です。甲状腺ホルモンが不足あるいは過剰になると内膜が成熟しにくくなり、受精卵が着床しにくい(不妊)、着床しても維持できない(不育症・流産)といったリスクにつながります。

    甲状腺ホルモンの着床への影響

    さらに、妊娠成立後の胎児の発育にも欠かせません。妊娠初期(〜12週前後)の赤ちゃんは自分で甲状腺ホルモンを作ることができず、脳や神経系を健やかに発達させるためにお母さんの甲状腺ホルモンを頼りにしています。

    甲状腺ホルモンの胎児への影響

    このように、甲状腺ホルモンは「排卵・着床・赤ちゃんの成長」というすべてのプロセスにおいて重要な鍵を握っています。


    甲状腺ホルモン異常の種類

    甲状腺ホルモン異常は、主に「甲状腺機能低下症」、「甲状腺機能亢進症(こうしんしょう)」、「潜在性甲状腺機能低下症」の3つに分けることができます。


    甲状腺機能低下症(橋本病など)

    甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンが不足する状態です。体の冷えやむくみ、体重増加、だるさ、月経不順/月経量が多くなる、便秘、抜け毛、記憶力低下、集中力欠如などの症状が現れることがあります。代表的な原因としては橋本病が知られています。


    甲状腺機能低下症の解説


    『甲状腺機能低下症の場合、何かしら症状がある方もいますが、主だった自覚症状がなく、不妊治療の初期検査で判明する方も多いです。

    甲状腺の機能が低下すると、甲状腺ホルモンを分泌させようとして、脳の視床下部からTRH(TSH放出ホルモン)が多く分泌されます。このTRHはプロラクチンの産生を促す作用も持っているため、TRHが増加すると血中のプロラクチン値も高くなり、「高プロラクチン血症」という状態を引き起こします。

    高プロラクチン血症は排卵障害を招き、不妊や流産につながることがあります。

    また、

    甲状腺ホルモンそのものが不足していること自体も、流産リスクを高める要因となります。

    (加藤先生)』


    もう一つ重要なのが黄体機能不全です。黄体は排卵後にでき、プロゲステロン(黄体ホルモン)を分泌して子宮内膜を妊娠維持に適した状態に保ちます。

    甲状腺ホルモン異常があると、この黄体機能が十分に働かず、受精卵が着床しても妊娠が維持されにくくなることがあります。

    初期流産との関連が問題になるのはこのためです。


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    甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)

    甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰な状態です。代表的なのがバセドウ病で、代謝が過度に高まり、全身が常にアクセルを踏んだような状態になります。動悸、手の震え、発汗、体重減少、疲れやすさ、不眠、眼球突出などの症状が出やすく、自覚症状から不妊治療前に診断されているケースが多く見られます。

    甲状腺機能亢進症の解説

    妊娠との関係では、まず月経異常や排卵障害が問題になります。

    ホルモンのバランスが乱れることで、月経周期が不順になり、排卵しない周期が増えてしまいます。月経が来ていても、毎回きちんと排卵しているとは限りません。体調不良が強い時期は、不妊治療そのものを継続するのも難しくなります。


    不妊治療で指摘されやすい「潜在性甲状腺機能低下症」とは

    潜在性甲状腺機能低下症は、血中の甲状腺ホルモンが正常範囲にあるものの、TSH(甲状腺刺激ホルモン)だけが高い状態を指します。自覚症状はほとんどありません。

    『潜在性甲状腺機能低下症は、不妊治療を進める中で見つかるケースが多いと言えます。TSHが高いということは、体が甲状腺を必死に刺激しているサインであり、妊娠の可能性や維持を高めるために甲状腺ホルモンを薬で補った方が良い場合もあります。

    ただし、TSHは体調やストレスなどで「たまたま一時的に高くなる」ケースもあるため、見極めが重要です。TSHが非常に高く、将来的に橋本病へ移行するリスクがあるような数値の場合は、甲状腺専門医にも診てもらい治療方針を判断します。なお、明らかな「甲状腺機能低下症」の場合は流産リスクが高まるため、必ず甲状腺ホルモン剤を補う治療を行います。(加藤先生)』


    不妊治療における甲状腺ホルモン異常の検査と診断

    『甲状腺ホルモン異常については、「TSH」「FT4」「FT3」の3つを血液検査で測定することで診断します。甲状腺ホルモンは妊娠・出産に非常に重要なため、多くの不妊治療クリニックで初期検査(スクリーニング)項目として測定されています。(加藤先生)』

    血液検査では、実際に体内で働く甲状腺ホルモン(FT4・FT3)の量と、脳からの指令役であるTSHの値を総合的に判断します。

    甲状腺機能のわずかな変化は、まず脳からの指示である「TSH」に敏感に現れます。そのため不妊治療においては、TSHの値が非常に重視されます。なお、一般的な健康診断の基準値内であっても、妊娠を希望する場合はより厳密な管理(TSH 2.5 µIU/mL以下を目標とするなど)が推奨されることがあります。*

    ただし、TSHが高めでもFT4が正常範囲に保たれている場合は「潜在性甲状腺機能低下症」として扱われるなど、数値の組み合わせによって対応は異なります。

    *公益社団法人 日本産婦人科医会「甲状腺機能と妊娠」


    診断の流れと専門医(内分泌内科)との連携

    血液検査でTSHやFT4などに異常が見つかった場合、数値や自覚症状に応じて原因疾患(橋本病やバセドウ病など)を特定するための追加検査が行われます。

    代表的なのが、自分の免疫が甲状腺を攻撃していないかを調べる「抗TPO抗体」や「抗Tg抗体」「TRAb」などの自己抗体検査です。また、必要に応じて甲状腺の超音波(エコー)検査を実施し、甲状腺の大きさや炎症の有無、結節(しこり)がないかを確認します。

    甲状腺ホルモン剤による細かな数値調整や専門的な診断が必要な場合は、内分泌内科や甲状腺専門医と密に連携しながら治療を進めていくのが一般的です。


    甲状腺ホルモン異常の治療法|妊娠・出産を目指すために

    甲状腺ホルモン異常が見つかっても、決して「妊娠を目指せなくなる」わけではありません。大切なのは、異常のタイプを正しく見極め、妊娠前から数値を適切な範囲へ整えることです。

    治療の基本的な考え方は「不足していれば補う」「多すぎる場合は抑える」となります。

    『甲状腺ホルモンの低下が不妊や流産の原因となっている場合、

    甲状腺ホルモンを適切に補うことで妊娠・出産は十分可能です。

    一方、甲状腺ホルモンが過多(亢進症)の場合は、まず抗甲状腺薬を服用してホルモン値を正常範囲にコントロールします。薬でのコントロールが難しい場合は甲状腺の手術(全摘術など)が検討されることもあります。全摘した場合は甲状腺ホルモンが作られなくなるため、今度はホルモン補充を行っていきます。(加藤先生)』


    機能低下症・潜在性機能低下症の治療:甲状腺ホルモン補充療法

    甲状腺機能低下症の場合、足りない甲状腺ホルモンを補う治療が中心になります。一般的に使われるのは「レボチロキシンナトリウム(商品名:チラージンSなど)」という内服薬です。体内で不足しているホルモンを補い、TSHやFT4の値を妊娠に適した範囲へ整えていきます。

    チラージンSは長年使われている非常に安全性の高いお薬で、副作用が少なく、妊娠中や授乳中も安心して飲み続けることができます。甲状腺ホルモンは赤ちゃんの脳や神経の発達にも不可欠なため、妊娠が判明したからといって自己判断で服用を中止してはいけません。

    なお、妊娠すると体内の必要量が増えることが多いため、妊娠判明後も定期的に血液検査を行い、服用量を細かく調整していきます。


    機能亢進症の治療:抗甲状腺薬とその他の選択肢

    甲状腺機能亢進症では、過剰に出ている甲状腺ホルモンを抑える治療を行います。治療の中心は「抗甲状腺薬」の内服です。

    妊娠を希望されている方や妊娠中の方の場合は、母体への治療効果はもちろん、赤ちゃんの安全性に十分配慮しながらお薬の種類や量を厳密に調整します。妊娠前、妊娠初期、妊娠中期以降といった「時期」に合わせて適した抗甲状腺薬を選択・切り替えながらコントロールしていくのが一般的です。

    薬で数値をしっかりコントロールできるケースが多い一方、数値の乱れが大きい場合や薬の副作用が出る場合などには、妊娠前に手術(甲状腺全摘術・亜全摘術など)が検討されることもあります。


    治療はいつから?不妊治療との両立について

    甲状腺機能の異常が見つかった場合は、その時点から治療や経過観察を開始します。基本的にはまず甲状腺ホルモンの数値を安定させ、そのうえでタイミング法や人工授粉、体外受精などの不妊治療を進めていきます。

    ただし、甲状腺の治療と不妊治療を完全に分けて「甲状腺が治るまで不妊治療をストップする」必要はありません。ホルモン補充療法などは不妊治療と並行して行えることが多く、軽度の異常であれば、甲状腺の薬を飲み始めて数値の改善を確認しながら、スムーズに不妊治療を継続していくことが可能です。


    甲状腺ホルモン異常と不妊に関するよくある質問

    甲状腺ホルモン異常に関して多くあがる疑問や不安について、加藤先生にお答えいただきました。

    Q1. 甲状腺ホルモンの薬はいつまで飲み続ける必要がありますか?

    原因となっている病気によって異なりますが、妊娠・授乳中であっても自己判断で薬をやめず、医師の指示に従って服用を続けることが大切です。特に妊娠初期のお母さんの甲状腺ホルモンは、赤ちゃんの脳や神経の発達に欠かせないため、適切なコントロールが継続して求められます。

    お薬をいつまで飲むかは、病気が「一時的なもの」か「慢性的なもの」かによって分かれます。

    機能低下症:橋本病などの慢性的な原因が多い場合は、長期あるいは生涯にわたって補充を続けることが一般的です。

    機能亢進症:薬によって数値がしっかり安定し、「寛解(かんかい)」という状態になれば、医師の判断で薬を減量・中止できる場合もあります。

    いずれの場合も、出産の有無にかかわらず長期間の服用が必要な方もいれば、状態が落ち着いて休薬できる方もいます。自己判断で服用をストップするのが最も危険ですので、必ず主治医と相談しながら継続していきましょう。

    Q2. 食生活で気をつけることはありますか?(ヨウ素など)

    ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料になる重要な栄養素ですが、摂りすぎても不足しても甲状腺機能に影響を与えます。

    特に注意が必要なのは、昆布を使った濃い出汁を日常的に飲む、昆布そのものを毎日大量に食べる、ヨウ素を多く含む健康食品を摂るといった過剰摂取です。ヨウ素を摂りすぎると、かえって甲状腺ホルモンの合成が抑えられてしまい、機能低下を招くことがあります。

    ただし、一般的な和食に含まれる範囲の海藻類(わかめや海苔、通常の味噌汁など)まで過度に怖がって避ける必要はありません。

    なお、注意したいのが「妊活・妊娠用サプリメント」です。海外製や一部の妊活サプリにはヨウ素が配合されていることがあり、普段の食事と合わさることで知らず知らずのうちに過剰摂取になってしまうケースがあります。不妊治療中や甲状腺の数値を指摘されている方は、サプリメントの併用について必ず医師や薬剤師に相談するようにしましょう。

    Q3. 甲状腺の病気は遺伝しますか?

    橋本病やバセドウ病といった甲状腺疾患は、「病気そのものが直接遺伝する」というよりも、発症しやすい「体質(免疫の特性)」に遺伝的な要因が関わっていると考えられています。そのため、ご家族に甲状腺疾患の方がいるからといって、必ずしもご自身まで発症するわけではありません。

    ただし、体質的なリスクに加えて、過度なストレスや出産、環境の変化などが引き金となって発症することがあります。

    母親や姉妹など血縁のあるご家族に甲状腺疾患の既往がある場合は、自覚症状がなくても妊娠を考え始めたタイミングで一度スクリーニング検査(血液検査)を受けておくと安心です。


    甲状腺ホルモン異常のまとめ

    ◆甲状腺ホルモンは排卵・着床・胎児の発育など妊娠と出産の全段階において重要な役割を担っている

    ◆甲状腺機能低下症や潜在性機能低下症は自覚症状がない場合も多く、不妊治療初期の血液検査で見つかりやすい

    ◆甲状腺ホルモン異常は排卵障害や黄体機能不全を引き起こし不妊や流産のリスクにつながる可能性がある

    ◆不妊治療の初期段階で行う血液検査(TSH・FT3・FT4)により、早期に状態を把握することが大切

    ◆チラージンや抗甲状腺薬などで適切に数値をコントロールすれば、十分に妊娠・出産を目指せる


    この記事の監修医

    Kobaレディースクリニック
    加藤 徹 院長

    平成20年3月 兵庫医科大学卒業
    平成20年4月 医師免許取得
    平成22年4月 兵庫医科大学 産科婦人科
    平成22年7月 大阪府 府中病院 産科婦人科
    平成25年4月 兵庫医科大学病院ささやま医療センター 産婦人科
    平成30年3月 兵庫医科大学大学院卒業
    平成31年4月 兵庫医科大学病院 周産期医療センター長
    令和2年4月 兵庫医科大学病院 産科婦人科 講師
    令和2年10月 兵庫医科大学病院 産科婦人科 医局長
    令和4年4月 kobaレディースクリニック 副院長
    令和6年6月~ kobaレディースクリニック 院長 兼 理事長

    [所属学会]
    日本産科婦人科学会
    日本生殖医学会
    日本受精着床学会
    日本エンドメトリオーシス学会

    [資格]
    医学博士
    母体保護法指定医
    一般社団法人 日本専門医機構 産婦人科専門医 / 産婦人科指導医
    一般社団法人 日本生殖医学会認定 生殖医療専門医 / 生殖医療指導医

    監修医:Kobaレディースクリニック 加藤徹 院長

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