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    抗リン脂質抗体症候群とは?なぜ不育症・流産の原因に?検査の目安と治療を解説【医師監修】

    抗リン脂質抗体症候群。なぜ不育症・流産の原因に?


    流産や死産を経験し、不育症の検査で「抗リン脂質抗体症候群」という病名を聞くと、
    「なぜ自分の体が赤ちゃんの成長を邪魔してしまうのか」
    「無事に出産できるのだろうか」
    と強い不安や戸惑いを感じてしまうかもしれません。

    しかし、抗リン脂質抗体症候群は適切な治療を行うことで約7〜8割の方が無事に出産までたどり着けるとされています。

    本記事では、抗リン脂質抗体症候群が流産を引き起こす仕組みや診断基準、アスピリンやヘパリンを用いた治療法、日常の注意点まで、英ウィメンズクリニック さんのみやクリニック 副院長・岡本 恵理医師にお話を伺いました。

    <この記事のポイント>
    • 適切な治療を行えば約7〜8割が出産に至る: 診断されても過度に不安に思う必要はなく、適切な抗凝固療法で無事出産を迎えられる可能性が高い
    • 流産2回以上などの既往がある方が検査対象: 生化学的流産3回以上や10週以降の死産などの既往がある方に血液検査を実施する
    • 12週間以上の間隔を空けた再検査で確定診断: 一時的な抗体検出を除外するため、約3ヶ月空けて2回陽性であることを確認する
    • アスピリンとヘパリンの併用療法が基本: 妊娠前から妊娠中・分娩直前まで、主治医の管理のもと計画的に薬を投与・注射する

    英ウィメンズクリニック さんのみやクリニック副院長 岡本恵理 医師

    執筆者:Varinos編集部

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    抗リン脂質抗体症候群(APS)とは

    抗リン脂質抗体症候群の解説

    抗リン脂質抗体症候群(APS:Antiphospholipid Syndrome)とは、本来は細菌やウイルスなどの外敵から身体を守るはずの「免疫システム」が誤作動を起こし、自身の細胞膜に含まれる「リン脂質」に対する自己抗体(抗リン脂質抗体)を作ってしまう自己免疫疾患の一種です。

    血液中にこの抗体が存在すると、血管内で血栓(血のかたまり)ができやすくなるほか、妊娠時に胎盤の形成が阻害されることがあります。

    女性に多く見られる疾患であり、若年性の動脈硬化症や脳梗塞などの血管病変を引き起こすリスクとなるほか、

    産婦人科領域では「不育症(流産や死産を繰り返す状態)」の代表的なリスク因子として知られています。

    なお、

    妊娠していない日常生活においては自覚症状がほとんどないため、不妊治療や流産後の検査で初めて判明するケースが多い

    と言えます。


    なぜ流産や不育症に関連するのか

    これまで「子宮や胎盤の細い血管に血栓(血の固まり)が詰まり、赤ちゃんへ栄養や酸素が届かなくなるため」という血流障害の側面が主に強調されていました。
    しかし近年の研究により、それだけにとどまらない新たなメカニズムについても示唆されています。

    『最近では抗リン脂質抗体がトロフォブラストという胎盤になる細胞に直接作用し、胎盤が子宮の中に正常に根を張る過程を邪魔すると言われています。同時に補体(抗体の働きを助けて病原体を攻撃・排除する、血液中のタンパク質のグループ)や炎症反応、血液凝固も活性化するため、初期流産から胎盤機能不全まで起こり得ます。ただ、着床障害の原因になるかどうかについてはまだはっきりとはわかっていません。(岡本先生)』

    胎盤形成(トロフォブラスト)への直接的な影響:

    受精卵が着床すると、将来胎盤になる「トロフォブラスト(絨毛芽細胞)」という細胞が子宮内膜へ根を張るように伸びていきます。抗リン脂質抗体はこのトロフォブラストに直接作用し、正常な根張りを邪魔してしまいます。

    補体や炎症反応、血液凝固の活性化:

    抗体が細胞に結合することで、体内での補体の活性化や炎症反応、血液凝固が同時に引き起こされます。

    これらの作用が重なることで、

    妊娠初期の流産から、妊娠中~後期の胎盤機能不全、子宮内胎児死亡、重症の妊娠高血圧症候群などを引き起こす要因となります。


    抗体ができる原因

    「自分の日頃のストレスや生活が原因で抗体ができてしまったのではないか」とご自分を責めてしまう方もいらっしゃいますが、決してそのようなことはありません。
    抗リン脂質抗体ができる背景には、体質や身体的な要因が関係しています。

    自己免疫疾患との関連・遺伝的素因:

    全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患を持っている方は、抗リン脂質抗体も作られやすい傾向があります。自己免疫反応を起こしやすい遺伝的な体質が多少なりとも関与していると考えられています。


    身体的ストレス(感染症など):

    ウイルスや細菌などの感染症にかかった際、身体的なストレスが引き金となって免疫異常が引き起こされるケースが報告されています。

    『全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患のある方はリン脂質に対する抗体もできやすいことがわかっています。自己免疫疾患は遺伝的に自己免疫反応を起こしやすい方がなりやすいですので、遺伝も多少は関与します。また、感染などの身体的ストレスが原因となることも言われています。なお、心理的ストレスが原因になることはありません。(岡本先生)』


    抗リン脂質抗体症候群の検査方法と診断基準

    抗リン脂質抗体症候群に関する検査は、初期スクリーニングとして、誰にでも行われる検査ではありません。

    検査対象となるのは、以下の既往がある方です。
    ・生化学的流産を3回以上繰り返している方
    ・2回以上流産をされた方
    ・妊娠10週以降で子宮内胎児死亡となった方
    など

    抗リン脂質抗体症候群の検査対象となる方


    精密な血液検査による抗体の測定

    不妊治療クリニックや不育症外来で行われる抗リン脂質抗体症候群の検査は、血液検査のみで調べることができます。
    採血によって、血液中に以下のような代表的な「抗リン脂質抗体」が存在するかどうか、またその抗体価(量)を測定します。

    ループスアンチコアグラント(LA): 血液が固まるプロセスを阻害・異常化させる抗体
    抗カルジオリピン抗体(aCL IgG / IgM): 細胞膜のリン脂質成分(カルジオリピン)に対する抗体
    抗β2グリコプロテインI(β2GPI)抗体(aβ2GPI IgG / IgM): リン脂質と結合するタンパク質に対する抗体

    これらの抗体が高値を示す、あるいは血液凝固時間の延長が見られる場合に「抗体陽性」と判定されます。


    12週間以上の間隔を空けた再検査と確定診断

    抗リン脂質抗体症候群の国際的な診断基準(分類基準)において最も重要なルールのひとつが、

    「12週間(約3ヶ月)以上の間隔を空けて2回以上検査を行い、ともに陽性であること」です。

    風邪などの感染症や体調の変化によって、一時的に抗体が検出されてしまうケース(一過性陽性)があります。一時的な変化なのか、それとも体質として抗体が持続的に作られ続けているのかを区別するために、12週間以上の十分な期間を空けた再確認が必須とされています。

    具体的には、以下の両方を満たした場合に抗リン脂質抗体症候群と確定診断されます。

    抗リン脂質抗体症候群の確定診断について

    1.臨床症状(いずれか1つ以上):

    o 妊娠合併症(妊娠10週未満の3回以上の連続流産、妊娠10週以降の正常胎児の死産、重症の妊娠高血圧症候群や早産など)
    o 動脈または静脈の血栓症既往

    2.検査所見(いずれか1つ以上):

    o 上記の抗リン脂質抗体のいずれかが、12週間以上の間隔を空けた2回の採血検査でともに陽性

    ただし、「低力価(数値が少しだけ高い)」や「流産が2回」というグレーゾーンであっても、リスクがあると判断されれば低用量アスピリン療法などの治療が行われることもあります。


    不育症状以外の自覚症状について

    「血栓症や持病がないのに、本当に抗リン脂質抗体症候群なのだろうか」と不思議に思う方も多いかもしれません。

    実際、不妊治療や妊活の過程でこの病気が判明する方の多くは、日常生活において手足の痺れや頭痛、全身の痛みといった不育症状以外の自覚症状を全く感じていないことがほとんどです。

    普段の生活では血液循環に大きな問題が生じていなくても、妊娠という「胎盤が形成され、血液が固まりやすくなる特別な生理状態」を迎えることで初めて症状(流産など)として表面化するという特徴があります。


    抗リン脂質抗体症候群と診断された場合の治療法

    抗リン脂質抗体症候群と診断された場合でも、妊娠・出産を諦める必要はありません。適切な抗凝固療法(血液をサラサラにする治療)を行うことで、血栓や胎盤形成の障害を防ぎ、妊娠を継続させることが可能とされています。

    基本となる治療法:アスピリン・ヘパリンの併用療法

    抗リン脂質抗体症候群の不育症治療において、

    世界的に標準治療(第一選択)として確立しているのが、「低用量アスピリン療法」と「ヘパリン皮下注射療法」の併用療法です。

    低用量アスピリン(抗血小板薬)/内服薬:
    血小板が集まって血栓を作るのを防ぎ、血液の流れを良くする薬


    ヘパリン(抗凝固薬)/注射薬:
    血液を固める酵素の働きを強力に抑える。通常は患者様ご自身で自宅にて注射を行う「自己注射(ヘパリンカルシウム皮下注射)」の形をとる

    この2つの薬を組み合わせることで、抗体が引き起こす胎盤(トロフォブラスト)の障害や血栓形成を防ぐことができます。


    薬の投与期間(妊娠前から分娩まで)

    投薬期間は、「妊娠前の不妊治療期間」から「出産直前(場合によっては産後)」まで長期にわたって計画的に行われます。

    抗リン脂質抗体症候群の治療方法

    <妊娠前(不妊治療中)>
    アスピリンは、妊娠前からの服用開始が望ましいとされています。受精卵が着床する前から血液の状態を整えておきます。

    <妊娠成立後(妊娠判明直後)>
    妊娠検査薬で陽性が確認できたら、直ちにヘパリン(自己注射)の治療を開始します。なお、出産の際に出血が多くなるリスクを防ぐため、主治医の管理のもとで分娩前にタイミングを見極めて薬をストップします。

    『アスピリンは妊娠前からの投与が望ましいとされています。添付文書(薬の説明書)では分娩前 12 週の投与は禁忌となっているため、妊娠27 週末までとしていますが、産婦人科診療ガイドラインでは、妊娠 28 週以降はその必要性を血栓の有無、検査値、既往産科異常の内容、重症度や発症時期、各施設の状況により十分検討した上で、妊娠 36 週まで投与する事が推奨されています(推奨度 B)。
    また、ヘパリン治療は妊娠判明後直ちに開始します。終了時期は、既往産科合併症の重症度と発症時期や各施設の状況によって決めますが、妊娠 36 週または分娩前までの投与を基本とし、産後の抗凝固療法も考慮するとされています。(岡本先生)』


    日常生活での注意点

    アスピリンやヘパリンといった「血液をサラサラにする薬」を服用・注射している期間は、通常よりも「出血が止まりにくくなる」という副作用が生じます。
    そのため、日常生活では怪我や出血につながるような行動を控え、安全に過ごすことが大切です。

    日常生活での注意:
    歯みがきは柔らかいブラシを使う、カミソリでの髭剃りやムダ毛処理は電気シェーバーにする、転倒やケガの危険がある激しい運動は避けるなど、怪我を防ぐ工夫を行いましょう。

    医療機関での配慮:
    歯科治療や皮膚科での小手術、内視鏡検査などを受ける際は、必ず「抗凝固薬(アスピリン・ヘパリン)を使用中であること」を医師に伝えてください。


    抗リン脂質抗体症候群に関するよくある質問(FAQ)

    抗リン脂質抗体症候群に関して、患者様が不安や疑問に思う点について、岡本先生に回答いただきました。

    Q1.抗リン脂質抗体症候群と診断されても、無事に出産までたどり着ける可能性は高いですか?

    適切に治療すれば、およそ7~8割の方が出産に至ります。
    過度に悲観せず、主治医のもとで適切な治療を継続することが大切です。

    Q2. 「不育症」だけでなく、初期の「着床障害(体外受精の不成立)」の原因にもなりますか?

    理論上は胎盤が子宮の中に正常に根を張る過程を邪魔するので着床不全の原因にもなりえますが、まだエビデンスはありません。

    Q3. 抗リン脂質抗体は、食事や生活習慣の見直しで減らしたり改善したりできますか?

    食事や生活習慣を変えることで抗リン脂質抗体そのものを消す方法は、現在のところ分かっていません。ただし、抗体を持っている人が実際に血栓症などを起こすかどうかには、喫煙、肥満、高血圧、糖尿病、運動不足なども影響します。そのため、健康的な食事、適度な運動、禁煙、体重や血圧の管理はとても重要です。

    抗リン脂質抗体症候群のまとめ

    今回は、不育症の代表的なリスク因子である「抗リン脂質抗体症候群(APS)」について解説しました。

    抗リン脂質抗体症候群とは:本来は体を守るはずの免疫システムが誤作動を起こし、自身の細胞膜にあるリン脂質を攻撃する抗体を作ってしまう自己免疫疾患の一種です。

    約7〜8割が無事に出産に至る:適切な治療(抗凝固療法)を行うことで、約7〜8割の方が無事に出産までたどり着けるとされています。

    抗体ができる主な原因:全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患の素因や、感染症などの身体的ストレスが引き金となることがあり、心理的ストレスが原因ではありません。

    確定診断のルール:一時的な抗体の上昇を除外するため、12週間(約3ヶ月)以上の間隔を空けて2回以上検査を行い、ともに陽性であることで確定診断されます。

    不育症以外の自覚症状はほぼない:妊娠していない日常生活では自覚症状がない方が多く、不妊治療や流産後の検査で初めて判明するケースがほとんどです。

    治療の基本は2剤の併用療法:「低用量アスピリン(内服薬)」と「ヘパリン皮下注射」を組み合わせた併用療法が、世界的な標準治療として確立されています。

    流産を経験した後に病名を告げられると強い不安を抱きがちですが、抗リン脂質抗体症候群は「原因が特定でき、有効な治療法が存在する疾患」です。適切な検査と治療計画のもと、主治医と相談しながら前向きに治療を進めていきましょう。

    この記事の監修医

    英ウィメンズクリニック
    さんのみやクリニック 副院長
    岡本 恵理 医師

    1998年 大阪市立大学医学部卒業 卒業
    大学卒業後、大阪市立大学医学部附属病院 産婦人科へ臨床研修医として勤務後、大阪市立住吉市民病院 産婦人科に勤務
    2004年:大阪市立大学大学院 医学研究科卒業
    大学院卒業後、大阪府済生会千里病院 産婦人科にて勤務
    2007年1月:英ウィメンズクリニック勤務
    2012年8月:内視鏡部門副部長
    2013年6月:妊孕(にんよう)能温存部門部長に就任                                                           2020年12月:英ウィメンズクリニック 副院長に就任。

    [資格・役員]
    医学博士(大阪市立大学)
    日本産科婦人科学会専門医
    母体保護法指定医
    臨床遺伝専門医制度委員会 臨床遺伝専門医
    日本生殖医学会 生殖医療指導医

    [所属学会]
    日本産科婦人科学会
    日本生殖医学会
    日本受精着床学会
    日本IVF学会
    日本がん・生殖医療学会
    日本人類遺伝学会
    日本産科婦人科遺伝診療学会

    英ウィメンズクリニック さんのみやクリニック 副院長
岡本 恵理 医師

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