PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)でも妊娠できる?原因から治療まで医師が解説

PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)と診断された方の中には「どういう病気なのかよくわからない」「妊娠への影響が心配」など、不安を感じる方も多いはずです。
PCOSは、月経異常や不妊の原因にもなる排卵障害の一つです。
今回は、Kobaレディースクリニック院長・加藤徹医師に、PCOSの原因や症状、診断、妊娠・出産に向けた治療の考え方についてお話をうかがいました。
<この記事のポイント>
・PCOSは「卵子が育つのに排卵しにくい」排卵障害。妊娠できない病気ではない
・PCOSの必発症状は月経異常
・妊娠希望の有無で治療法は異なり、不妊治療では排卵誘発剤や体外受精などが選択肢になる


目次
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)とは?
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群/たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)は、卵巣の中で小さな卵胞がいくつも育つものの、一つが大きくなれず、排卵が上手くいかなくなる状態を指します。

「PCOSは月経異常や不妊にも関係する排卵障害の一つですが、症状の出方や排卵のしにくさには幅があります。内服薬で比較的スムーズに排卵する方や自然妊娠できる方も多くいらっしゃいます。(加藤先生)」

なお、超音波で卵巣に小さな卵胞が多く見えても、排卵されており月経が規則的なら、PCOSとは診断されない場合もあります。
PCOSは「妊娠できない病気」ではありません
が、妊娠するためには「排卵」が重要なため、排卵しにくい状態を放置すると、妊娠までに時間がかかる一因になります。
[参考記事]
▶「卵胞の成長過程と排卵までの流れ」について以下に記事で詳しく解説しています。
どれくらいの人がPCOSと診断される?PCOSが増えている背景
PCOSは、妊娠可能な年齢の女性のうち、5〜10%程度にみられることがあるとされています。米国では、最も一般的な不妊症の原因とも言われ、珍しい病気ではありません。
「PCOSは比較的年齢が若い女性に多くみられます。最近、当クリニックでもPCOSと診断する女性が増えていますが、PCOSになる女性が増えたというより、不妊治療の保険適用や自治体によるプレコンセプションケアの訴求などで、若い女性の受診が増え、そこでPCOSが見つかるケースが増えたのではないかと感じています(加藤先生)」

PCOSの主な症状とセルフチェックリスト
「PCOSではさまざまな症状が挙げられますが、
必発は『月経異常』
です。「肥満」や「ニキビ」、「多毛」のイメージを持たれる方もいますが、例えば20代の女性でPCOSと診断する方には、やせ型の方が多いと言えます。
PCOSは見た目では判断できません。
(加藤先生)」
重要なサインは「月経異常」
PCOSで必ず現れる症状は「月経異常」です。
ここでいう月経異常は、単に周期が少し前後する程度ではなく、
排卵障害に伴って月経が不規則になる状態
を指します。たとえば「生理が2〜3カ月に1回しか来ない」「月経が長く来ていない」といった場合、なるべく早い段階で医療機関を受診しましょう。PCOSだけではなく、その他の疾患が関わっている場合もあります。
<セルフチェックリスト>
・月経周期が毎回大きくばらつく
・2〜3カ月に1回しか月経が来ないことがある
・月経が来ない期間が長い
・妊娠を希望しているのに排卵日がつかみにくい
・過去から一貫して生理不順がある
月経異常があっても、原因はPCOSだけではありません。甲状腺機能異常や高プロラクチン血症など、ほかのホルモンの問題が関わることもあります。
特に妊娠を希望する場合、上記に一つでも当てはまる場合、医療機関を受診したほうが良いと言えます。

[関連記事]
甲状腺ホルモン異常で不妊・流産リスクは高まる?原因と検査・治療法をわかりやすく解説
高プロラクチン血症でも妊娠できる?原因や薬による治療効果を医師が解説
肥満、ニキビ、多毛は必須ではない
PCOSの症状として肥満、ニキビ、多毛はよく知られた関連症状ですが、これらはPCOSだからと必ず現れる症状ではなく、診断に必須でもありません。
特に、日本人の場合、肥満体系の方は少なく、またニキビや体毛の濃さも体質や遺伝的な影響も受けるため、症状の有無だけでPCOSと診断することはできません。
なぜPCOSになる?原因とは?
PCOSの原因は一つに特定されていませんが、背景には遺伝的要因や生活習慣などが複雑に関係し、排卵に関わるホルモンバランスが乱れることで発症すると考えられています。
ホルモンバランスの乱れが排卵を妨げる
PCOSの場合、血液検査を行うと、
脳の下垂体から分泌されるホルモン「LH(黄体形成ホルモン)」と男性ホルモンの一種である「テストステロン」の値が高い傾向にあります。
本来、排卵は脳と卵巣が連携し、卵胞が一定の大きさに育った段階で起こります。しかし、LH値が高いと卵巣内の環境が排卵に適した状態になりにくくなります。さらに、テストステロンの増加は卵胞の成長を途中で止めてしまうほか、卵巣の表面の膜を厚く硬くしてしまいます。その結果、複数の小さな卵胞がたくさんできる一方で、1個の卵胞がしっかり成熟して排卵するところまで進みにくくなります。
インスリン抵抗性との関連
PCOSには「インスリン抵抗性」という糖の代謝異常も深く関係しています。
インスリンは血糖値を調整するホルモンですが、その効きが悪くなると(インスリン抵抗性)、体はそれを補うためにインスリンを過剰に分泌しようとします。
高インスリン状態になると、卵巣が刺激されて男性ホルモンをより多く作り出すようになり、排卵障害をさらに強めてしまうことがあります。
肥満の場合、このインスリン抵抗性の傾向が強くなることがありますが、やせ型でもこの異常を伴うことはあるため、体型だけでは判断できません。
そのため、PCOSの代表的な症状である月経異常がある場合、不妊治療クリニックなどでは、ホルモン値だけでなく、こうした代謝異常の有無も含めて幅広く検査を行います。
PCOSの診断方法と検査の流れ
PCOSは、診断基準*に沿って判断されます。
具体的には、以下の1〜3の全てを満たすものをPCOSと診断します。
1.月経周期異常
2.多囊胞卵巣 または AMH高値
3.アンドロゲン過剰症 または LH高値
上記の項目は、「問診」、「血液検査(AMH含む)」、「超音波検査」で調べることができます。
*多囊胞性卵巣症候群の診断基準(日本産科婦人科学会生殖・内分泌委員会, 2024)
「実際の診察においては、まず月経異常(生理不順)があることが前提になります。超音波検査も実施しますが、卵巣に小さな卵胞がたくさん見える「ネックレスサイン」があったとしても、排卵があればPCOSではないため、超音波所見だけでPCOSと診断することはありません。また採血は必ず行い、LHやテストステロンなどの値を調べますが、卵巣予備能を調べるAMH(抗ミュラー管ホルモン)は全例ではなく必要と判断したケースにおいて実施しています。これらの検査を総合的にみて診断をします。(加藤先生)」

問診で確認すること
問診では、月経周期や初経からの経過、妊娠希望の有無、体重変化、これまでの治療歴などを確認します。
ここで特に重視されるのが、月経が毎月来ているか、2〜3か月空くことがあるかという点です。
ご本人は「少し不順」といった意識でも、排卵障害を疑う必要があるケースもあります。
医療機関では、月経周期を確認するケースが多いため、なんとなくではなくアプリや手帳などでご自身の正確な月経周期を記録しておくとよいでしょう。
超音波検査では何をみている?
超音波検査では、卵巣の大きさや内部の小卵胞の並び方を見ます。PCOSでは小さな卵胞が卵巣の周辺に並ぶ所見があり、これがネックレスサインと呼ばれます。
ただし、この所見だけでPCOSという結論は出しません。
血液検査で調べる「ホルモン値」
血液検査により、LH(黄体形成ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)、テストステロン(男性ホルモン)などの値を確認します。
なお、不妊治療を行う場合、これらの項目以外にも高プロラクチン血症や甲状腺機能異常など初回血液検査で調べるケースが多いと言えます。
妊娠希望の有無により変わるPCOSの治療法
PCOSの治療は、いま妊娠を希望しているか、PCOSの程度等によっても異なります。
妊娠を希望する場合の治療ステップ
個々人の状況により治療のステップは異なりますが、一般的な流れとしては以下のステップで治療を進めます。

【1】経口排卵誘発剤の使用
第一選択としては、クロミフェン製剤などの経口排卵誘発剤の使用です。卵胞の発育を促し、排卵のきっかけを作る治療です。超音波検査で卵胞の育ち方を確認しながら、排卵の時期を見ていきます。PCOSは卵胞が育ちにくい疾患ではありますが、内服治療で排卵に至る方もいます。
【2】注射の排卵誘発剤の使用
飲み薬の排卵誘発剤で十分な反応が得られない場合は、性腺刺激ホルモン(主にFSH)と呼ばれる注射薬の使用を使用します。FSHで卵胞を育て、hCGという卵胞を最終的に成熟させ、排卵を促すための引き金(トリガー)となる薬を投与します。
ただし、PCOSの場合、卵巣内に多数の卵胞があるため卵巣が過剰に反応しやすくFSH製剤の使用においては「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」への注意が必要です。
[参考記事]
卵を育てる経口薬/注射薬の「排卵誘発剤」にはどのようなものがある?
【3】腹腔鏡下卵巣多孔術
極まれに、卵胞が育ち(排卵を促す)hCG注射を打っても排卵に至らず黄体化未破裂卵胞(LUF)となり卵巣に留まる方がいます。PCOSの場合、卵巣の膜が硬く、卵胞が排出しづらい方もおり、そういった場合、腹腔鏡下卵巣多孔術(ふくくうきょうからんそうたこうじゅつ)という選択肢があがることもあります。
「腹腔鏡下卵巣多孔術を行う場合、全身麻酔をします。からだへの負担もかかりますが、卵巣にも傷をつけることになり卵子が減る原因にもなりえます。そのため、頻繁に実施される治療法ではありません。(加藤先生)」

<腹腔鏡下卵巣多孔術とは?>
卵巣の表面に複数の小さな孔(あな)をあけることで、自然排卵や排卵誘発剤への反応を高めることを目的に行われます。全身麻酔下でへそや下腹部に5〜10mm程度の切開を数か所入れ、腹腔鏡下で両側の卵巣にそれぞれ約10〜20か所ほどの小さな穴をあけます。なお、効果は永久的ではなく、術後約1年前後(個人差あり)とされています。
[関連記事]
黄体化未破裂卵胞(LUF)~医師は気にしないって本当?原因・検査・対処法を解説
体外受精が選択肢になる理由:多胎妊娠リスクの回避
PCOSでは、排卵誘発剤に対して卵巣が強く反応し、一度に複数の卵胞が育つことがあります。卵胞が3個、4個と育った状態で自然妊娠あるいはタイミング法や人工授精を行い妊娠すると、三つ子以上の多胎妊娠につながる場合があります。
多胎妊娠は、早産や母体への負担増加など、妊娠期間中や出産時のリスクが上がります。
一方、体外受精(顕微授精)において、たくさん採卵できることは治療上メリットがあります。そのため、排卵誘発で卵胞数のコントロールが難しい場合には、体外受精が選択されるケースもあります。
妊娠を希望しない場合の治療目的と方法
妊娠を今すぐ考えていない、あるいは子どもを希望していない場合でも、
PCOSを完全に放置してよいということではありません。
排卵が起こらない期間が長いと、黄体ホルモンが十分に働かず、子宮内膜がエストロゲンの影響を強く受け続ける状態になることから、PCOSの女性は、子宮内膜がんを発症するリスクが2.7倍高くなるという報告もあります。*
「初経以降、月経が1年以上来ない方や、数か月単位で月経が来ない方などは、低量ピルあるいは、黄体ホルモン剤を定期的に補い(ホルムストローム療法)、エストロゲンだけが過剰になるという状況を回避したほうがよい場合もあります。(加藤先生)」

*[出典]Dumesic DA, Lobo RA. Cancer risk and PCOS. Steroids, 2013, 78: 782-785.
肥満(BMIが高め)の場合の治療の進め方
PCOSに肥満を伴う場合、減量により排卵の状態が改善し、月経周期が整うきっかけになることもあるため、体重管理が治療の一部になることもあります。

「減量を勧める場合の目的はPCOSのためだけではありません。不妊治療のゴールは、妊娠し、安全に出産することです。BMIが高い場合、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群、分娩時の合併症などのリスクが上がりやすくなるため、減量を優先することもあります。ただし、一概に肥満(BMI)が高いからと減量から始めるのではなく、肝機能や腎機能、糖代謝に問題がなければ、すぐ治療に移行することもあります。(加藤先生)」

PCOSだと妊娠できないは誤解
「PCOS=妊娠できない、自然妊娠できない」ではありません。
「PCOSは排卵障害の一つで、PCOSだから卵の質が悪いということはありません。そのため治療介入により、いかに排卵を起こすかが重要になります。PCOSの程度にもよりますが自然妊娠できるケースもありますし、自然妊娠が難しい場合、体外受精で妊娠を目指すという選択肢もあります。PCOSと診断されても妊娠・出産を諦める必要はありません。(加藤先生)」

PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)に関するよくある質問
PCOSは診断名だけが先に独り歩きしやすく、「治すことができるのか」「妊娠できるのか」と不安を抱きやすい疾患です。ここでは、PCOSに関して多い疑問や不安について、加藤先生にお答えいただきました。
Q1. PCOSは完治しますか?
PCOSの根本的な治療はありません。排卵障害により妊娠が難しくなる疾患ではありますが、適切な治療により、排卵を起こし妊娠を目指すことは可能です。
Q2. PCOSを放置するとどうなりますか?
現時点で妊娠を希望していない場合、必ずしも治療は必要ありませんが、長期間放置するとエストロゲンの影響を受け、将来的に子宮内膜増殖症や子宮体がん、乳がんのリスクにつながる可能性があります。
「初経から月経が来ない」、「月経が数か月以上来ない」といった場合、黄体ホルモンを補い、定期的に月経を起こしたほうが良い場合もあります。
Q3. PCOSの治療に保険は適用されますか?
多くの場合、保険診療の対象になります。たとえば、月経不順に対するホルモン療法や、PCOSに伴う排卵障害への治療は、通常の保険診療で行われることが一般的です。
不妊治療についても、排卵誘発、人工授精、体外受精などが保険適用となるケースがあります。ただし、年齢制限や回数制限、治療内容、使用できる薬剤に制限がある場合もあります。また、自費診療で不妊治療を進める場合、PCOSの治療も自費診療となる可能性があります。
費用面については、あらかじめ医療機関に確認すると良いでしょう。
Q4. PCOSだと流産しやすいですか?
PCOSだから一概に流産率が高いとは言えません。
排卵障害の要因ともなるホルモンバランスの乱れ(テストステロン(男性ホルモン)やLH(黄体化ホルモン)など)やインスリン抵抗性により流産率がやや高くなる傾向があるという研究もあります。その場合、黄体ホルモンやメトホルミンの投与など、適切な治療や妊娠初期の管理を行うことで、流産リスクを低下させることができます。
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)のまとめ
◆PCOSは卵巣内で小卵胞が多く育つものの、排卵が上手く進まない排卵障害の一種で「妊娠できない病気」ではない
◆代表的なサインは「月経異常」であり、肥満や多毛、ニキビなどは必ずあらわれる症状ではない
◆原因にはホルモンバランスと代謝の異常が関わっており、LH(黄体形成ホルモン)や男性ホルモンの高値、インスリン抵抗性などが複雑に影響して排卵を妨げる
◆「月経周期異常」「多嚢胞卵巣またはAMH高値」「アンドロゲン過剰症またはLH高値」の3つをすべて満たす場合、PCOSと診断する
◆治療法は妊娠希望の有無によって選択し、不妊治療では排卵誘発剤や体外受精などが検討されるほか、妊娠を希望しない場合も子宮内膜がんリスク予防のために定期的な排卵・月経管理が必要
この記事の監修医
Kobaレディースクリニック
加藤 徹 院長
平成20年3月 兵庫医科大学卒業
平成20年4月 医師免許取得
平成22年4月 兵庫医科大学 産科婦人科
平成22年7月 大阪府 府中病院 産科婦人科
平成25年4月 兵庫医科大学病院ささやま医療センター 産婦人科
平成30年3月 兵庫医科大学大学院卒業
平成31年4月 兵庫医科大学病院 周産期医療センター長
令和2年4月 兵庫医科大学病院 産科婦人科 講師
令和2年10月 兵庫医科大学病院 産科婦人科 医局長
令和4年4月 kobaレディースクリニック 副院長
令和6年6月~ kobaレディースクリニック 院長 兼 理事長
[所属学会]
日本産科婦人科学会
日本生殖医学会
日本受精着床学会
日本エンドメトリオーシス学会
[資格]
医学博士
母体保護法指定医
一般社団法人 日本専門医機構 産婦人科専門医 / 産婦人科指導医
一般社団法人 日本生殖医学会認定 生殖医療専門医 / 生殖医療指導医

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