ラクトフェリンによる子宮内フローラの改善効果~論文からみる妊活中の摂取目安量とは
「子宮内フローラ検査」など、検査の開発や提供を行うVarinosは、「研究開発」という側面をもち、医療機関や研究機関などと、子宮内フローラに関する研究やラクトフェリンによる子宮内フローラ改善に関する研究なども自社のみならず、全国の医療機関や企業と共同で多数行っています。
SNS等で
「ラクトフェリンを飲み始めても子宮内フローラへの効果がよくわからない」
という声をよく目にします。確かに、子宮内フローラは良くても悪くても症状として現れることはほとんどないため、菌環境の改善効果はなかなか実感できないかもしれません。
そこで、今回は、ラクトフェリンによる子宮内フローラの改善をテーマとした研究をいくつかご紹介したいと思います。
*本記事で紹介するグラフや図表は、論文に基づきVarinosが改編したものです。
目次
子宮内フローラに応じた適切な治療で、子宮内フローラは改善できる
体外受精を行う患者様に子宮内フローラ検査を行い、子宮内フローラにラクトバチルスが90%以上いる子宮内フローラ正常群(LDM)と90%未満の子宮内フローラ異常群(NLDM)に分け、転帰を追った研究です。
*LDM:Lactobacillus Dominant Microbiota
NLDM:Non Lactobacillus Dominant Microbiota
適切な治療により、ラクトバチルスが90%以上に改善
結果がNLDMで、抗生物質やプレバイオティクス(腸溶性のラクトフェリンサプリメント)/プロバイオティクスを併用し、子宮内フローラの治療を行った方の治療前と後の菌環境が下図です。
青色がラクトバチルスを示しており、適切な治療を行ったことにより、ラクトバチルスが90%以上となっていることがわかります。
抗生物質と腸溶性ラクトフェリンで子宮内フローラが改善した事例
下図のCase1は、子宮内フローラ検査の結果、ラクトバチルスの割合が少なく、悪玉菌であるストレプトコッカスの割合が多かった方です。
子宮内フローラ検査の結果を受け、
アモキシシリン(AMPC)という抗生物質を7日間投与した後、腸溶性ラクトフェリンを1日300mg投与
しています。そして、ラクトフェリンの投与開始から19日後に行った子宮内フローラ検査の結果、
ラクトバチルスの割合が90%以上に改善
していることを示しています。
▼腸溶性のラクトフェリンサプリと非腸溶性のラクトフェリンサプリは、何が違うのか?詳細はこちら
抗菌薬とラクトフェリン、ラクトバチルスで治療~子宮内フローラ改善後に妊娠継続できた事例
下図のCase2は、子宮内フローラ検査の結果、ラクトバチルスはほとんどおらず、(子宮内フローラにとっては良いとも悪いとも言えない)ビフィドバクテリウムや悪玉菌エシェリシアなどが検出された方です。
子宮内フローラ検査の結果に基づき、
レボフロキサシン(LVFX)という抗菌薬を7日間経口投与した後、腸溶性ラクトフェリンを1日300mgとラクトバチルスの腟剤を1日1カプセル投与
しています。腸溶性ラクトフェリンとラクトバチルスの腟剤を開始してから24日後に行った子宮内フローラ検査の結果、
ラクトバチルスが90%以上に改善
しています。
また、
子宮内フローラ改善後の凍結胚盤胞融解移植(FBT)で妊娠継続に成功
していることを示しています。
この研究において、
医師は、妊娠が確認できた後、ラクトバチルスの腟剤は中止していますが、妊娠中も腸溶性ラクトフェリンの摂取は継続するよう勧めています。
一度の治療では改善できず、3回目の子宮内フローラ検査で改善が確認できた事例
下図は、男性因子を伴う原発性不妊症の方で、子宮内フローラ検査を行う以前に4度、凍結胚盤胞融解移植を行っている方です。子宮内フローラ検査を行う7か月前には、早期流産を経験されています。
子宮内フローラ検査の結果、ラクトバチルスはわずかしかおらず、アトポビウムやガードネレラなど悪玉菌の割合が多いことがわかりました。
検査結果に基づき、
レボフロキサシン(LVFX)という抗菌薬を7日間経口投与した後、腸溶性ラクトフェリンを1日300mg投与
しています。
腸溶性ラクトフェリンの摂取開始から20日後に再度子宮内フローラ検査を行いましたが、子宮内フローラは改善されておらず、別の悪玉菌(アエロコッカスやストレプトコッカスなど)が検出されました。
その後、患者はGnRHアンタゴニスト・プロトコールによる採卵(OPU)を受けるため、医療機関の採卵方針に沿い、ドキシサイクリン(DOXY)を1日100mg、7日間投与し、採卵後にはセフジニル(CFDN)を1日300mg、3日間投与しています。
なお、このケースでは、採卵後の月経時には、プロバイオティクス・タンポンを使用しています。
1回目の子宮内フローラ検査から104日目に3回目の子宮内フローラ検査を実施した結果、
ラクトバチルスが90%以上に改善
しています。
また、
子宮内フローラ改善後の凍結胚盤胞融解移植(FBT)で妊娠継続に成功
しており、この研究において、医師は、
妊娠中も腸溶性ラクトフェリンの摂取は継続するよう勧めています。
ラクトバチルスの割合が90%未満だった方に抗菌薬とラクトフェリンの投与を行い、80%の人が改善
次に「Analysis of endometrial microbiota and investigation of pregnancy outcomes in women with recurrent in vitro fertilization treatment failure」という論文をもとにラクトフェリンの子宮内フローラへの有効性についてご紹介したいと思います。
この研究では、生殖補助医療(ART) で良好胚を2 回以上移植しても妊娠継続に至らなかったART反復不成功の29例を対象に子宮内フローラ検査を行い、ラクトバチルスの割合が90%未満だった子宮内フローラ異常群(NLDM)の17例から逸脱症例2 例を除いた15例に対し加療を行っています。
具体的には、抗菌薬(メトロニダゾール400mg/日+ミノサイクリン100mg/日を2週間)の内服とラクトフェリン1日300mgを継続して内服しています。
治療開始から約1 ヶ月後に、再度子宮内フローラ検査を実施したところ、
最終的に12例がラクトバチルス90%以上のLDM となり、3例は治療前よりラクトバチルスの割合が高くなったものの90%未満という結果
でした。
下図は、NLDMであった15症例に対する治療前後ラクトバチルスの割合の変化を示しています。
なお、
NLDMからLDMとなった7 例(58%)で妊娠が成立(2例流産)
という結果となっています。
流早産や難治性の細菌性腟炎既往がある方に腸溶性ラクトフェリンを投与~早産を予防し、出産へ
最後にご紹介するのは、「Effects of lactoferrin in six patients with refractory bacterial
vaginosis」という、ラクトフェリンと早産予防に関する論文です。
実は、Varinosが2017年に子宮内フローラ検査を世界で初めて独自開発・実用化した際、医師たちから
「子宮内フローラが良くなかった場合の治療法もセットで患者様に提案したい」
というお声をいただき、世界中の論文を調べていました。その際、2016年に出版されていたこの論文に出会いました。
この研究では、
ラクトフェリンによる治療を受けた6人の女性(年齢、30〜39歳)のうち、数回の流産または早産の既往があり、難治性の細菌性腟炎を有する5人が正常に出産し、1人は妊娠に至りませんでした。
5名のうち2人は妊娠前にラクトフェリンによる治療を開始し、他の女性は難治性細菌性腟炎と診断された妊娠11週から21週にかけて治療を開始しています。全員、妊娠30週以前の分娩歴を含む早産のハイリスク因子を有していました。
腟における善玉菌ラクトバチルスは、ラクトフェリン投与前には存在しなかったか、あるいは非常に少ないという状況でした。
ラクトフェリンは、腸溶性のものを使用しています。
下の図は、治療経過を追ったものです。
上の2名は腟と経口でラクトフェリンを摂取しています。夕方のシャワーまたは入浴後に腟剤(150mg/日)を投与し、朝食後に経口錠剤(700mg/日)を投与しています。また、下に続く4名は、経口からのみ腸溶性ラクトフェリンを1日700mg摂取しています。
腸溶性ラクトフェリンの投与後、2週間ごとに腟内の細菌叢検査と培養を行っています。
投与1ヵ月後からラクトバチルスが徐々に優勢となり、患者は3ヵ月後頃に妊娠しています。
また、早産に関連する子宮頸管の成熟は起こらず、ラクトバチルスは妊娠中も優勢を維持し、妊娠中は女性にも乳児にも有害事象はありませんでした。
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「不妊治療とラクトフェリン」に関するまとめ
いかがでしたでしょうか?不妊治療や周産期の分野でラクトフェリンの研究は多数行われています。今回は3つの論文を取り上げ、ご紹介させていただきました。
ご自身の治療に、ラクトフェリンを摂り入れるべきかどうか検討される際の参考にしていただければと思います。
市販のラクトフェリンサプリメントには腸溶性と非腸溶性のものがあります。子宮内フローラ改善のためにラクトフェリンを摂り入れる場合は、腸溶性ラクトフェリンが良いとされています。
ラクトフェリンは熱や胃液に弱いため、食べ物からは十分な量を摂取するのが難しい栄養素でもあるので、サプリメントを活用し効率的にラクトフェリンを摂取されると良いでしょう。
この記事の監修者
Varinos株式会社
創業者 代表取締役CEO
桜庭 喜行
埼玉大学大学院で遺伝学を専攻。博士取得後、理化学研究所ゲノム科学総合研究センターでのゲノム関連国家プロジェクトや、米国セントジュード小児病院にて、がん関連遺伝子の基礎研究に携わる。その後、日本に初めて母体血から胎児の染色体異常を調べるNIPTと呼ばれる「新型出生前診断」を導入したほか、医療機関や研究機関に対し、NIPTやPGT-Aと呼ばれる着床前診断などの技術営業を経て、2017年2月にゲノム技術による臨床検査サービスの開発と提供を行うVarinos株式会社を設立。同年、子宮内の細菌を調べる「子宮内フローラ検査」を世界で初めて実用化するなど、生殖医療分野の検査に精通。