不妊治療で使う薬を目的別に完全解説|種類・使い方・副作用を医師がわかりやすく説明

不妊治療では、卵子を育てる薬・排卵を起こす薬・排卵を抑制する薬・受精卵の着床に適した環境を作るための薬など、目的に応じてさまざまな薬が使われます。しかし、実際に治療を進める中で「どの薬が何のために使われているのか分かりにくい」と感じる方も多いはずです。
そこで今回は、はやしARTクリニック半蔵門 院長・林 裕子先生に不妊治療でよく使われる薬の目的や様々な種類がある排卵誘発剤やホルモン補充剤からどのように薬を選択するのかといった使い分けについてもうかがいました。
*いま処方されている薬の「役割」が一目でわかる構成になっています。目次で薬を使用するシーンや気になる薬の成分名(=一般名)名前をタップいただくと、その部分に遷移します。文中では、販売名(いわゆる商品名)も記載しています。
*すべての薬を網羅しているわけではありません。
*記事に記載している情報は2026年1月末時点のものです。薬の販売状況や保険適用に関しては変更となる可能性があります。
*患者様向けにわかりやすく説明するため、厳密な薬理作用や生理学的な機序とは異なる内容が含まれます。
*副作用について、「頻度不明」とされているものは記載していませんが、副作用が起こる可能性がないということではありません。
*不妊治療で使用する薬の選定や使用方法は治療内容や医療機関により異なることがあります。本記事はあくまで参考としていただき、治療に関して不安や疑問がある場合は自己判断せず、必ず主治医と相談してください。
目次
不妊治療でよく使う薬を目的別に「6つ」に分類
不妊治療で使用される薬は多岐にわたりますが、今回はよく使用される薬をその目的別に整理し、大きく6つに分類しました。

①卵子(卵胞)を育てる薬
②排卵を起こす薬|排卵惹起(トリガー)
③排卵誘発を助ける薬|排卵誘発の際に併用
④排卵を抑える薬
⑤着床に適した環境にするため卵胞ホルモンを補う薬
⑥着床に適した環境にするため黄体ホルモンを補う薬
なお、
排卵誘発には、「卵子(卵胞)を育てる」という意味と「育った卵子(卵胞)の促す」という2つの意味があります。
今回はわかりやすくするため、
卵子(卵胞)を育てることを「排卵誘発」、そして育った卵子(卵胞)の排卵を促すことを「排卵惹起」
としています。
また、同じ薬でも異なる目的で使用されることもあるため、その点は注意が必要です。今回は、目的別によく使われる薬をご紹介するため、同じ薬を重複して紹介していることもあります。
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体外受精における「卵巣刺激法」別、使用する薬とタイミング解説(スケジュールが一目でわかるスケジュール付き)
① 卵子(卵胞)を育てる薬|排卵誘発
卵子(卵胞)を育てる薬には「経口薬」と「注射薬」の2種類があります。
『卵子(卵胞)を育てるのに大切なのが、FSH(卵胞刺激ホルモン)です。
経口薬は“自分の中からでるFSHを増やす”、注射薬は“直接FSHを投与する”
と思っていただくとわかりやすいかもしれません。(林先生)』

それぞれのメリットやデメリット、不妊治療の際に選択されることが多い薬に関して、以下で紹介します。
経口の排卵誘発剤(一般名:クロミフェンクエン酸塩、レトロゾール)
経口の排卵誘発剤には、大きく2つのタイプがあります。

ひとつは、
脳(視床下部・下垂体)のエストロゲン受容体をブロックすることで「エストロゲンが不足している」と錯覚させ、FSH(卵胞刺激ホルモン)の分泌を促すクロミフェン製剤
(一般名:クロミフェンクエン酸塩/販売名:クロミッド錠50mg)です。
もうひとつは、もともと閉経後乳がんの治療薬として使用されていた、
卵巣や脂肪組織でのエストロゲン合成を抑えるアロマターゼ阻害薬
(一般名:レトロゾール/販売名:フェマーラ錠2.5mgなど)で、
エストロゲンが低下することで視床下部・下垂体がFSHを分泌しやすくなります。
どちらもFSH分泌を高めて卵胞の発育を促す点は同じですが、作用機序が異なるため、子宮内膜の厚さや頸管粘液への影響、副作用の出方が異なります。
また、経口薬のメリットは、比較的低コストであることや通院頻度の軽減、また注射薬に比べて卵巣に急激な刺激を与えないため、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクが低いという点です。
クロミフェンクエン酸塩(クロミフェン製剤)
●薬の販売名
クロミッド錠50mg
●どんな薬?
クロミフェンクエン酸塩は、エストロゲン受容体を遮断することで、視床下部・下垂体におけるエストロゲンの負のフィードバックを弱め、FSH分泌を増やし、その結果、卵巣内の卵胞が育ちやすくなります。
●不妊治療で使用される目的/役割は?
主な目的は 卵胞を育てること(発育卵胞数の増加)と排卵を起こすこと(排卵率の向上) です。
特に以下のケースで選択されます。
・自然排卵が不規則、起こりにくい方(PCOS:多嚢胞性卵巣症候群など)
・タイミング法や人工授精(AIH)での妊娠率を上げたい場合
●使用のタイミング/方法
通常は月経3~5日目から1日1~2錠を5日間内服します。
内服を開始すると卵胞が発育するため、超音波検査で卵胞の育ちを確認しながら治療のタイミングを合わせます。
●主な副作用
以下に症状を一部抜粋しています。()内は頻度。
発疹(5%以上又は頻度不明)
ほてり・頭痛、食欲不振、情緒不安定、霧視等の視覚症状(0.1〜5%未満)
など
また、連続的に使用すると子宮内膜が薄くなることがあり、妊娠しにくくなるケースがあります。この場合、注射薬やアロマターゼ阻害剤(レトロゾールなど)への切り替えが検討されます。
●考慮すべき点
・子宮内膜の発育が抑制され、排卵期の頸管粘液が減少することがあります。
・年齢やAMH(卵巣予備能)によって反応は大きく異なります。
・エストロゲン依存性の悪性腫瘍(乳癌、子宮内膜癌など)やその疑いのある方は、腫瘍の悪化や顕性化を促すことがあるため使用できません。
・卵巣腫瘍やPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)を原因としない卵巣の腫大のある方は、卵巣が過剰に刺激されることで更に卵巣を腫大させるおそれがあるため使用できません。
レトロゾール(アロマターゼ阻害剤)
●薬の販売名
フェマーラ錠2.5mg など
*一般名(有効成分の名前)である「レトロゾール」は、ジェネリック医薬品の名称としても使われています。
●どんな薬?
有効成分レトロゾールを含むアロマターゼ阻害剤です。本来は閉経後のホルモン受容体陽性乳がんの治療薬として使用されますが、不妊治療では卵胞(卵子)を育てる排卵誘発剤として少量で使用されます。
体内でエストロゲン(卵胞ホルモン)をつくる酵素「アロマターゼ」を抑えることで、一時的に卵巣や脂肪組織からつくられるエストロゲン量を低下させる作用があります。
●不妊治療で使用される目的/役割は?
エストロゲンが下がると、脳(視床下部・下垂体)は「エストロゲンが足りない」と判断し、FSH(卵胞刺激ホルモン)を多く分泌します。このFSHの上昇によって卵巣内の卵胞を育て、排卵を促す目的で使用されます。
特に以下のケースで選択されます。
・PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)における排卵誘発
・原因不明不妊における排卵誘発の治療
クロミフェンクエン酸塩:脳の受容体に働きかけ、“エストロゲンが少ない”と錯覚させることでFSH分泌を促す
レトロゾール:エストロゲンの合成そのものを抑え、間接的にFSH分泌と卵胞発育を促す
☞レトロゾールは、子宮内膜が薄くなりにくい、頸管粘液への影響が少ないといった点がクロミフェンクエン酸塩とは異なります。クロミフェンクエン酸塩は、発育卵胞数が増える傾向にあるとも言われており、不妊治療の方法や医師の治療方針によっては、最初からレトロゾールが選択されることもあります。
●使用のタイミング/方法
一般的には、月経周期の3日目から5日間連続して内服します。
排卵は内服開始から5〜10日後に起こることが多いため、医師は超音波検査で卵胞の大きさやホルモン値を確認しながら治療のタイミングを調整します。
●副作用/考慮すべき点
以下に症状を一部抜粋しています。()内は頻度。
・頭痛、ほてり(5%以上)
・倦怠感、吐き気、むくみ(5%未満)
など
なお、乳がん治療時とは異なり、不妊治療では少量を短期間で使用するため、全身への影響は小さいと考えられています。
レトロゾールが効かない場合、考えられる原因は?
『レトロゾールを使用するのは、正常にFSHやLH(黄体形成ホルモン)が分泌されている前提となります。
そのため、FSHやLH値以外に卵子(卵胞)が育たない原因がないか調べる必要があります。例えば、甲状腺機能異常や高プロラクチン血症、耐糖能異常がないかなどです。(林先生)』

注射の排卵誘発剤(一般名:ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン、フォリトロピンベータ(遺伝子組換え)、ホリトロピン デルタ(遺伝子組換え)、ホリトロピン アルファ(遺伝子組換え)、精製下垂体性性腺刺激ホルモン))
注射薬には「hMG製剤」と「FSH製剤」があります。
hMG製剤は「卵胞刺激ホルモン(FSH)」と「黄体形成ホルモン(LH)」が含まれており、FSH製剤は卵胞刺激ホルモン(FSH)のみが含まれています。

代表的なhMG製剤・FSH製剤の一般名(成分)は以下です。
<hMG製剤>
ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン
<FSH製剤>
FSHはrFSH(rは「recombinant」の頭文字で
遺伝子組換え型
を意味)・uFSH(uは「urinary」の頭文字で
尿由来
を意味)にわけることができます。
rFSH:
フォリトロピンベータ(遺伝子組換え)
ホリトロピン デルタ(遺伝子組換え)
ホリトロピン アルファ(遺伝子組換え)
uFSH:
精製下垂体性性腺刺激ホルモン
●不妊治療で使用される目的/役割は?
注射薬の排卵誘発剤は卵胞をより確実かつ効率的に育てるために使用されます。
特に以下のようなケースで使用されることが多いと言えます。
・経口排卵誘発剤で効果が弱い、排卵しにくい場合
・体外受精(顕微授精)に際し、より多くの卵胞を育てたい場合
注射の排卵誘発剤は、経口薬よりも強力に卵胞を刺激できる点が特徴
で、体外受精(IVF)や高度な排卵誘発が必要なケースで使用されます。
一方で、注射薬は自宅での自己注射や通院による注射管理が必要で、経口薬に比べて身体的・心理的負担が大きくなります。また、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクが高まりますが、患者さんの状態に合わせた適切な量を投与する分には、リスクはそこまで高くないとされています。
『hMGとFSHどちらを選択するかは、患者さんの状況に応じて判断します。例えばPCOS(多嚢胞卵巣症候群)の方など、そもそもLH値が高い場合はFSHを、卵胞は基本的にFSHにより発育しますが、その方のLH値から必要と判断した方にはhMGを選択するなどです。このほかにも様々な要素を加味した上で決定します。(林先生)』

ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン(hMG製剤)
●薬の販売名
HMG注射用75単位「F」
HMG注射用150単位「F」
HMG注用75単位「あすか」
HMG注用150単位「あすか」
●どんな薬?
FSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)が含まれており、卵巣に直接作用して卵胞の発育を促します。
医師の管理指導のもと自己注射(皮下注射)も可能とされています。
フォリトロピンベータ、ホリトロピン デルタ、ホリトロピン アルファ(rFSH製剤)
●薬の販売名
フォリトロピンベータ(遺伝子組換え):
フォリスチム注300IUカートリッジ
フォリスチム注600IUカートリッジ
フォリスチム注900IUカートリッジ
ホリトロピン デルタ(遺伝子組換え):
レコベル皮下注12μgペン
レコベル皮下注36μgペン
レコベル皮下注72μgペン
ホリトロピン アルファ(遺伝子組換え):
ゴナールエフ皮下注ペン150
ゴナールエフ皮下注ペン300
ゴナールエフ皮下注ペン450
など
●どんな薬?
-フォリスチム
rFSHを有効成分とする注射タイプの排卵誘発剤です。遺伝子組換え技術によってFSHのみを高純度で製造しているため、FSH量を正確にコントロールできるのが特徴です。卵胞発育の反応を細かく調整しやすく、体外受精(顕微授精)などで特に求められる“緻密な卵胞の発育管理”に適しています。
なお、フォリスチムは自己注射できるカートリッジ型のフォリスチム注射液専用のフォリスチムペンもあり、細かな投与量の調整がしやすいと言えます。
[参考サイト]
フォリスチム 患者向医薬品ガイド
・副作用/考慮すべき点
以下に症状を一部抜粋しています。()内は頻度。
卵巣過剰刺激症候群(4.7%)など
卵巣腫大、下腹部痛、下腹部緊迫感、腹水、胸水、呼吸困難を伴う卵巣過剰刺激症候群があらわれることがあり、卵巣破裂、卵巣茎捻転、脳梗塞、肺塞栓を含む血栓塞栓症、肺水腫、腎不全等が認められることもあるとされています。
-レコベル
ヒトの細胞を元に作られるrFSHを有効成分とする排卵誘発剤です。
ペンタイプの自己注射薬として提供されており、患者さんが自宅で安全に注射できる利便性があります。
AMH(卵巣予備能)の値と体重から、患者さんに合わせた投与量を設定することで、多くの卵子を育てつつ、副作用を起こしにくくします。
FSHのみを高純度で含むため、余分なホルモンや不純物の影響が少なく、卵胞発育をシンプルにコントロールしたいケースで選ばれることが多い薬と言えます。
[参考サイト]
レコベル®皮下注射ペンを使用される方へ
・副作用/考慮すべき点
以下に症状を一部抜粋しています。()内は頻度。
卵巣過剰刺激症候群(10.6%)など
卵巣腫大、下腹部痛、下腹部緊迫感、腹水、胸水、呼吸困難を伴う卵巣過剰刺激症候群があらわれることがあり、卵巣破裂、卵巣茎捻転、脳梗塞、肺塞栓を含む血栓塞栓症、肺水腫、腎不全等が認められることもあるとされています。
-ゴナールエフ
rFSHを有効成分とする排卵誘発剤で、純度の高いFSHを一定量投与できる点が特徴です。卵胞の発育を安定してコントロールしやすいため、特に体外受精(顕微授精)周期で広く使用されています。
ペン型の自己注射デバイスで、自己注射に慣れていない患者さんでも使いやすい仕様になっています。
ゴナールエフ皮下注射ペンは、世界で広く使用されているrFSH製剤です。
・副作用/考慮すべき点
以下に症状を一部抜粋しています。()内は頻度。
卵巣過剰刺激症候群(7.0%)など
卵巣腫大、下腹部痛、下腹部緊迫感、腹水、胸水、呼吸困難を伴う卵巣過剰刺激症候群があらわれることがあり、卵巣破裂、卵巣茎捻転、脳梗塞、肺塞栓を含む血栓塞栓症、肺水腫、腎不全等が認められることもあるとされています。
ゴナールエフの副作用はいつから?
『ゴナールエフによる直接的な副作用はほとんどないと考えています。たとえば、注射後、皮下出血は起こる可能性はありますが、それは針を刺すことによるものです。また、ゴナールエフにより卵子(卵胞)がたくさん育ってくると、卵巣が脹れてくることがあります。その際におなかが張る感じや痛みを感じることはあるかもしれません。エストロゲン値も高くなり、採卵前から黄体ホルモンも分泌されるため、生理前のような胸が張るといった症状を訴える患者さんもいますが、これらはゴナールエフにより卵子(卵胞)が発育していることによる症状です。これらの症状はゴナーフエフだけではなく、ほかのFSH製剤やhMG製剤でも同じことが言えます。(林先生)』

精製下垂体性性腺刺激ホルモン(uFSH製剤)
●薬の販売名
フォリルモンP注75
フォリルモンP注150
uFSH注用75単位「あすか」
uFSH注用150単位「あすか」
●どんな薬?
ヒト閉経後の女性の尿から抽出・精製して作られた、FSH(卵胞刺激ホルモン)のみを含む uFSH 製剤です。
排卵誘発や体外受精(顕微授精)で複数の卵胞を発育させる目的で使用されます。
rFSH(遺伝子組換え製剤)と比べると、成分の均一性にややばらつきがあると言われていますが、その分費用が抑えられる点がメリットと言えます。
なお、ペンタイプではなく、薬を溶解して注射器で投与するタイプの薬剤です。
[参考サイト]
uFSH注用「あすか」患者向医薬品ガイド
hMGやFSH注射薬はどのようなときに使用する?
『自然に卵子(卵胞)が育つ方でも、卵の育ちがゆっくりな周期に単発でhMGやFSH注射を打つことがあります。また、ペンタイプの注射薬は基本的に、毎日打つ必要がある体外受精(顕微授精)での卵巣刺激(低刺激も高刺激でも)の際に使用します。ただし、一般不妊治療でもクロミッドやレトロゾールで卵子(卵胞)が発育しない場合、ペンタイプのFSHを毎日打っていただく方もいます。
体外受精(顕微授精)の場合は、最初からFSHを多めに投与することでたくさんの卵子(卵胞)を育てますが、FSH漸増法(ぜんぞうほう)と言う少しずつFSHの量を増やすことで卵子(卵胞)の育つ数を減らすこともできます。このように同じ薬でも目的により使い方が異なります。
(林先生)』

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② 排卵を起こす薬|排卵惹起(トリガー)
排卵惹起(トリガー)は、育てた卵胞を確実に排卵させるために使用される薬のことです。

代表的な薬の一般名は以下です。
<hCG製剤(注射薬)>
コリオゴナドトロピン アルファ(遺伝子組換え)
注射用ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン
<GnRHアゴニスト製剤(点鼻薬)>
・ブセレリン酢酸塩
hCGは排卵を起こすのに必要なLHと似た働きをするhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を投与するのに対し、GnRHは下垂体に作用して自身のLH分泌を促します。
『GnRH点鼻薬に比べ、hCGは注射で確実に投与できるというメリットがあります。卵巣刺激により卵子(卵胞)がたくさん育った状態で使用するとOHSS(卵巣過剰刺激症候群)を発症するリスクがあるため、その場合は点鼻薬を選択することもあります。なお、一般不妊治療においてもhCG注射を使うこともあります。(林先生)』
hCG製剤/注射薬(一般名:コリオゴナドトロピン アルファ、注射用ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)
●薬の販売名
コリオゴナドトロピン アルファ(遺伝子組換え):
オビドレル皮下注シリンジ250μg
注射用ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン:
注射用HCG5,000単位「F」
注射用HCG10,000単位「F」
●どんな薬?
hCG注射は、卵胞を最終的に成熟させ、排卵を促すための引き金(トリガー)となる薬です。
体外受精(顕微授精)において、育った卵子(卵胞)を採卵可能な状態にするために欠かせないステップです。hCGは体内でLHに似た働きをするため、排卵のタイミングを正確にコントロールできます。
-オビドレル
遺伝子組換えヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)を有効成分としています。最初から針付きの注射器に薬が充填されており、キャップを外すだけで自己注射(皮下注射)可能な注射薬です。
-注射用HCG5,000単位「F」/注射用HCG10,000単位「F」
妊婦の尿から抽出・精製されたヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)です。医師の管理指導のもと自己注射可能とされています。
●使用のタイミング
卵胞が十分に発育したタイミング(通常18〜20mm程度)で皮下注射または筋肉注射で投与されます。投与から約36時間後以降に排卵が起こるため、採卵や人工授精のタイミングを医師が正確に設定できます。
●副作用
オビドレルに関して、以下に症状を一部抜粋しています。()内は頻度。
卵巣過剰刺激症候群(14.8%)
卵巣腫大、下腹部痛、下腹部緊迫感、腹水、胸水、呼吸困難を伴う卵巣過剰刺激症候群があらわれることがあり、卵巣破裂、卵巣茎捻転、脳梗塞、肺塞栓を含む血栓塞栓症、肺水腫、腎不全等が認められることもあるとされています。
注射部位紅斑(5%以上)
など
●不妊治療で使用される目的/役割は?
卵胞の成熟を促し排卵を誘発するために使用されます。体外受精(IVF)や人工授精(AIH)では、育った卵胞を採卵可能な状態にするための「トリガー」として欠かせない存在です。
タイミング法や人工授精(AIH)では排卵日のコントロールに、また体外受精(顕微授精)では採卵前のトリガーとして用いられます。
[関連記事]
採卵の痛みはどれくらい?hCG注射や卵管造影など不妊治療の痛みも徹底比較
GnRHアゴニスト製剤/点鼻薬(一般名:ブセレリン酢酸塩)
●薬の販売名
ブセレリン点鼻液0.15%「F」
など
●どんな薬?
体外受精(顕微授精)でGnRHアゴニスト製剤(点鼻薬)をトリガーとして使用する場合は、卵子を最終的に成熟させ、採卵に適した状態にすることを目的に使用されます。
*GnRHアゴニスト製剤の点鼻薬は排卵抑制としてもつかわれることがあります。(後述)
●使用方法
卵子(卵胞)が十分に発育した段階でGnRHアゴニスト製剤を点鼻すると、脳の下垂体が刺激され、LH値が急激に増える「LHサージ」が起こることで、卵子の成熟が進み、36時間前後で排卵します。
自然の排卵でも同じようにLHサージが起きて排卵が進むため、GnRHアゴニストのトリガーは「体の仕組みに近い形で最終成熟を促す方法」と言えます。
さらに、GnRHアゴニスト製剤はhCG注射より作用持続時間が短いため、卵巣への刺激が比較的軽く、特に卵巣反応が強い患者さん(PCOS・AMHが高い方・多数の卵胞が育った刺激周期)で使用されることが多いと言えます。同じトリガーに用いられるhCG製剤(注射)は刺激が長く続くため、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクが高まることがありますが、GnRHアゴニスト製剤ではそのリスクを低減できます。
●副作用
以下に症状を一部抜粋しています。()内は頻度。
ほてり、頭痛(3%以上)
帯下、乳房緊満、食欲亢進、嘔気・嘔吐、鼻炎(0.1~3%未満)
など
『注射薬と違い、点鼻薬は少量のため、患者さんご自身も本当に点鼻できたのか不安になる方もいらっしゃいます。また上手く点鼻できていないと採卵できなくなってしまうため、右左1回ずつ、2時間後にもう一回という形で点鼻してもらうようにしています。(林先生)』

③ 排卵誘発を助ける薬|インスリン抵抗性改善(PCOS併用)

一般名:メトホルミン塩酸塩
●薬の販売名
メトグルコ錠250mg
メトグルコ錠500mg
など
●どんな薬?
メトホルミン塩酸塩を有効成分とする経口薬で、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)における排卵誘発、多嚢胞性卵巣症候群の生殖補助医療における調節卵巣刺激で併用されることのある薬です( ただし、肥満、耐糖能異常、又はインスリン抵抗性のいずれかを呈する患者に限る)。
●使用方法
他の排卵誘発薬との併用で、通常、メトホルミン塩酸塩として500mgの1日1回経口投与より開始します。患者さんの忍容性を確認しながら増量し、1日投与量として1,500mgを超えない範囲で、1日2~3回に分割して経口投与します。
●副作用/考慮すべき点
―メトグルコ
以下に症状を一部抜粋しています。()内は頻度。
下痢(40.5%)、悪心(15.4%)、食欲不振(11.8%)、腹痛(11.5%)
など
④ 排卵を抑える薬|卵巣刺激コントロール
体外受精(顕微授精)において、
卵子(卵胞)をたくさん育てる際は、成熟する前に排卵しないように、LHサージを抑える排卵抑制剤を使います。

『通常、1個の成熟卵胞から分泌されるエストラジオールは約150~300pg/mL程度で、自然周期ではこの値が一定時間持続することでLHサージが誘発されます。
一方で、
卵巣刺激により複数の卵胞が発育すると、個々の卵胞が未成熟であっても、それぞれの卵胞から分泌されるエストラジオールの“総量”は高値となります。脳は何個の卵胞が育っているかはわからないため、エストラジオールが高値になると成熟する前であってもLHサージを起こし排卵してしまい、結果、採卵できなくなってしまいます。
そのため、体外受精などで多数の卵胞を育てる場合はLHサージを抑える薬も併用しながら進めていきます。(林先生)』

代表的なものには以下があります。
<GnRHアンタゴニスト製剤>
セトロレリクス酢酸塩
ガニレリクス酢酸塩
<GnRHアゴニスト製剤>
ブセレリン酢酸塩
ナファレリン酢酸塩水和物
卵巣刺激方法や患者さんの卵巣反応に応じて、アンタゴニスト製剤を使うか、アゴニスト製剤を使うかは医師が適切に判断します。
GnRHアンタゴニスト製剤/注射薬(一般名:セトロレリクス酢酸塩、ガニレリクス酢酸塩)
●薬の販売名
セトロレリクス酢酸塩:
セトロタイド注射用0.25mg
ガニレリクス酢酸塩:
ガニレスト皮下注0.25mgシリンジ
●どんな薬?
GnRHアンタゴニスト製剤は、卵子(卵胞)がある程度育ってきた段階(通常は刺激開始後 5〜6日目前後)から使用することで、脳から出るLH(黄体形成ホルモン)の分泌をすぐに抑え、早期排卵(LHサージ)を防ぐ薬です。
注射薬は即効性があり、投与したその日から抑制が働くため、卵胞の発育を確認しながら「いつから使うか」を柔軟に調整できます。
これにより、必要以上に卵胞が育ちすぎて起こるOHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスク管理にも有用とされています。
ただし、使い始めが遅いと排卵してしまうため開始タイミングの見極めが大事になります。
-セトロタイド
医師の管理指導のもと自己注射可能な皮下注射薬です。セトロタイドを注射用水で溶かしてから使用します。
-ガニレスト
医師の管理指導のもと自己注射可能な皮下注射薬です。注射器の中にあらかじめ薬液が入っており、すぐに打つことができます。
●副作用
以下に症状を一部抜粋しています。()内は頻度。
-セトロタイド
注射部位のそう痒感、発赤、熱感(5%以上)
頭痛、ほてり、性器出血、悪心、下痢(0.1%~5%未満)
など
-ガニレスト
悪心、注射部位紅斑(0.3~0.5%未満)
頭痛、腹部膨満、疲労、倦怠感(0.1~0.3%未満)
など
GnRHアゴニスト製剤/点鼻薬(一般名:ブセレリン酢酸塩、ナファレリン酢酸塩水和物)
●薬の販売名
ブセレリン酢酸塩:
ブセレリン点鼻液0.15%「F」など
ナファレリン酢酸塩水和物:
ナサニール点鼻液0.2%
●どんな薬?
GnRHアゴニスト製剤(点鼻薬)は、脳(下垂体)を一時的に刺激して、体の中からLHという排卵に必要なホルモンを出させる薬です。
この作用を利用して、卵子を最終的に成熟させる「トリガー」として使うことがあります。
ただし、すでにこの薬を長く使っている場合は、逆にホルモンが出にくくなるため、トリガーとしては使えません。
この特性を利用したのが、ロング法やショート法などの卵巣刺激法で、前周期からアゴニストを使い始め、しっかり排卵を抑制した状態で刺激を始めます。
なお、アゴニスト製剤で排卵をしっかり抑えている場合は、排卵の合図(トリガー)としてhCGという注射しか使えません。
hCGは卵巣を強く刺激するため、人によっては卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高くなることがあります。
●副作用
以下に症状を一部抜粋しています。()内は頻度。
-ブセレリン
ほてり、頭痛(3%以上)
帯下、乳房緊満、食欲亢進、嘔気・嘔吐、鼻炎(0.1~3%未満)
など
-ナサニール
ほてり、頭痛(5%以上)
帯下、乳房緊満、食欲減退、嘔吐、鼻炎(0.1~5%未満)
など
⑤卵胞ホルモンを補う薬|受精卵の着床に適した子宮内膜の環境を作る
卵胞ホルモンを補う薬は、不妊治療において受精卵の着床に適した子宮内膜の環境を整えるため、排卵誘発や採卵後の黄体期、体外受精(顕微授精)における胚移植前などで用いられます。
エストロゲンにより子宮内膜の厚さが十分に整うことで胚移植の着床率や妊娠率の向上が期待されます。

代表的な製剤の一般名は以下です。
<経口薬>
エストラジオール
<貼り薬>
エストラジオール
<塗り薬>
エストラジオール
経口剤は内服することで全身に作用し、子宮内膜の増殖を促します。貼付剤や塗布剤は経皮吸収により局所的かつ安定した血中エストロゲン濃度を維持できる点が特徴です。患者さんの体質や治療方針、希望に応じて医師が投与経路を選択します。
経口薬(一般名:エストラジオール)
●薬の販売名
ジュリナ錠0.5mg
●どんな薬?
エストラジオールを有効成分としたエストロゲン(卵胞ホルモン)を補うための経口薬です。エストラジオールは、体の中で自然に作られるエストロゲンと同じ成分で、「天然型卵胞ホルモン製剤」に分類されます。そのため体になじみやすく、子宮内膜を整える・ホルモンバランスを補うなどの作用が期待できます。
●使用方法
凍結融解胚移植におけるホルモン補充周期の場合、1日0.5〜4.5mgを目安に服用しますが、実際の量は治療内容や子宮内膜の状態に応じて医師が調整します。なお、一定の期間以降は黄体ホルモン剤との併用が必要です。
●副作用/考慮すべき点
以下に症状を一部抜粋しています。()内は頻度。
性器分泌物、乳房不快感(5%以上)
腹痛、性器出血、腹部膨満、乳頭痛、乳房痛(1~5%未満)
など
まれに血栓症や肝機能障害のリスクが報告されており、既往歴や体質に応じて医師が服用量や期間を管理します。
貼り薬(一般名:エストラジオール)
●薬の販売名
エストラーナテープ0.36mg
エストラーナテープ0.72mg
●どんな薬?
エストラジオールを皮膚から補う貼り薬です。貼付すると一定の速度でエストロゲンが吸収されるため、血中濃度が安定しやすいという特徴があります。また、経口薬と異なり肝臓を経由しないため、肝臓への負担が比較的少ない点もメリットです。
●使用方法
清潔な皮膚に貼ることで、経皮吸収によりエストロゲンが血中に供給されます。凍結融解胚移植のホルモン補充周期(HRT周期)では、通常、下腹部または臀部に貼付し、2日ごとに貼り替えます。子宮内膜が十分な厚さになった時点で黄体ホルモン剤の併用を開始し、妊娠初期までエストロゲン補充を継続することが一般的です。貼付部が濡れると端が浮くことがあるため、入浴後などはしっかり乾いた皮膚に貼るようにすると安心です。なお、貼付位置・枚数・期間は医師の指示に従ってください。
●副作用/考慮すべき点
以下に症状を一部抜粋しています。()内は頻度。
一次刺激性の接触皮膚炎(紅斑、そう痒等)、不正出血、消退出血、乳房緊満
感(5%以上)
かぶれ、水疱、色素沈着、帯下、乳房痛、嘔吐、嘔気、下痢、腹部膨満感、便秘(0.1~5%未満)
など
まれに血栓症などの重い副作用が報告されています。経皮吸収型は経口薬に比べて血栓リスクが低いとされていますが、基礎疾患や既往歴によっては注意が必要なため、医師の指示に従って使用してください。
塗り薬(一般名:エストラジオール)
●薬の販売名
ル・エストロジェル0.06%
●どんな薬?
エストラジオールを有効成分とする、皮膚に塗布して使用するジェルタイプのエストロゲン補充薬です。毎日塗るタイプで、皮膚からゆっくり吸収されるため、経口薬に比べて肝臓への負担が少ないとされています。なお、アルコールを基剤としているため、アルコールアレルギーのある方は使用できません。
●使用方法
清潔な皮膚にジェルを塗布すると、エストロゲンが経皮吸収され、血中に安定的に供給されます。
凍結融解胚移植のホルモン補充周期では、通常、2〜10プッシュ(主成分として1.08〜5.40mg)を1日1回、両腕の手首から肩、腹部、大腿部および腰部の広い範囲に塗擦します。入浴後など、肌が清潔で乾いたタイミングで塗布するのが一般的です。
子宮内膜が十分な厚さになったら黄体ホルモン製剤を併用し、妊娠初期まで使用を継続します(具体的な週数は医師の判断によります)。
<注意点>
・顔面、乳房、外陰部、粘膜には塗布しない
・湿疹・傷・皮膚炎がある部位は避ける
・塗布後1時間は洗わない
・塗布直後にアルコールを含む化粧品の使用は避ける
・投与後は手を洗う。また、投与直後は投与部位を他人に触れさせない。
塗布量・部位は、治療内容や体質に応じて医師が指示します。
●副作用
以下に症状を一部抜粋しています。()内は頻度。
腟分泌物(18.3%)
乳房不快感(13.2%)
性器出血、陰部瘙痒症、頭痛(1%以上)
など
まれに血栓症などの重い副作用が報告されています。経皮吸収型は経口薬に比べて血栓リスクが低いとされていますが、基礎疾患や既往歴によっては注意が必要なため、医師の指示に従って使用してください。
⑥ 黄体ホルモンを補う薬|受精卵の着床に適した子宮内膜の環境を作る
黄体ホルモンを補う薬は、不妊治療において受精後の子宮内膜を妊娠しやすい状態に維持し、着床や妊娠の継続をサポートするために使用されます。
体外受精(顕微授精)では、採卵後に黄体機能が低下しやすいため、黄体ホルモン剤の補充はほぼ必須とされ、凍結融解胚移植やホルモン補充周期でも重要な役割を果たします。
黄体ホルモンを補うことで、
・子宮内膜を「着床しやすい状態」に整える
・子宮の収縮を抑え、受精卵が安定しやすい環境をつくる
・妊娠初期のホルモンバランスをサポートする
といった効果が期待されます。

代表的な製剤の一般名は以下です。
<経口薬>
クロルマジノン酢酸エステル
ジドロゲステロン
<腟剤>
プロゲステロン
腟剤は子宮近くから黄体ホルモンを吸収させるため、効率よく必要なホルモン濃度を得やすい点が特徴です。
経口剤(一般名:クロルマジノン酢酸エステル)
●薬の販売名
ルトラール錠2mg
●どんな薬?
クロルマジノン酢酸エステルを有効成分とする黄体ホルモンの経口薬です。
体内のプロゲステロンと同様に、子宮内膜を着床しやすい状態に維持する働きがあります。自然のプロゲステロンそのものではなく「合成黄体ホルモン」(プロゲスチン)であるため、黄体機能を安定的に補助することができます。
●使用方法
一般的には1日2〜3回の内服が多いですが、投与量やタイミングは治療計画によって異なります。
凍結融解胚移植(ホルモン補充周期)では、子宮内膜が十分な厚さに整った時点から内服を開始し、胚移植日まで継続します。その後も、他の黄体ホルモン補充法(腟剤・注射)と併用して黄体支持を行うケースが一般的です。
●副作用/考慮すべき点
以下に症状を一部抜粋しています。()内は頻度。
発疹、食欲不振、腹痛、乳房緊満感、不正出血(5%以上又は頻度不明)
など
また、まれではありますが血栓症のリスク(脳、心、四肢等/0.1%未満)があるとされるため、強い脚の痛み・急な息切れ・突然の頭痛やめまいなどの症状があれば、すぐに受診が必要です。
ルトラールの副作用でイライラすることはある?
『ルトラールは黄体ホルモンのお薬で、黄体ホルモンは気分に影響することがあります。特にPMSがある方では、内服によってイライラや気分の変化を感じることがあります。ただし、すべての方に起こるわけではありません。 (林先生)』

経口剤(一般名:ジドロゲステロン)
●薬の販売名
デュファストン錠5mg
●どんな薬?
ジドロゲステロンを有効成分とする黄体ホルモン作用薬で、経口で服用します。
体内の自然なプロゲステロンに非常に近い作用をもち、子宮内膜を着床・妊娠継続に適した状態へ整える働きがあります。
合成黄体ホルモンの中でも、エストロゲン様作用や男性ホルモン様作用がほとんどない点が特徴です。
●使用方法
体外受精(顕微授精)における黄体ホルモン補充としては、一般的に1回5㎎を1日3回経口投与する方法が多く用いられます。
凍結融解胚移植(ホルモン補充周期)では、卵胞ホルモン剤により子宮内膜が十分な厚さに整った時点から投与を開始し、妊娠12週頃まで継続するのが一般的です。
ただし、医師の判断により、腟剤や注射剤と併用するケースもあります。
腟座薬(一般名:プロゲステロン)
●薬の販売名
ウトロゲスタン腟用カプセル200mg
ルテウム腟用坐剤400mg
ルティナス腟錠100mg
ワンクリノン腟用ゲル90mg
●どんな薬?
-ウトロゲスタン
天然型プロゲステロンと同一成分を補うことができる腟用カプセル型の黄体ホルモン薬です。
腟粘膜から吸収されるため、血中濃度の過度な上昇を避けつつ、子宮周囲に効率よくプロゲステロンを届けられる点が特徴です。
・どのように使う?
通常、1日3回腟内に挿入して使用します。
ホルモン補充周期の凍結融解胚移植では、卵胞ホルモン剤で子宮内膜が整った時期から使用を開始し、妊娠9週頃まで継続するのが一般的です(医師により前後あり)。
<使用のポイント>
就寝前の使用が推奨されることが多い
外出時はナプキンを使用すると安心
・副作用/考慮すべき点
以下に症状を一部抜粋しています。()内は頻度。
浮動性めまい、不正子宮出血、卵巣過剰刺激症候群、外陰腟そう痒症(1~5%未満)
発疹、腹痛(1%未満)
など
ウトロゲスタンはまれに傾眠・浮動性めまいを引き起こすことがあるため、車の運転や危険作業には注意が必要です。
-ルテウム
ウトロゲスタンと同様に天然型プロゲステロン(黄体ホルモン)と同一の成分を補える腟坐薬です。
腟粘膜から吸収されることで、血中濃度の過度な上昇を避けつつ、子宮周囲に効率よくプロゲステロンを届けられる点が特徴です。剤形は扱いやすい紡錘形をしています。
・どのように使う?
一般的には 1日2回、腟内に挿入して使用します。
処方量やスケジュールはクリニックによって異なりますが、採卵日(又はホルモン補充周期下での凍結胚移植ではエストロゲン投与により子宮内膜が十分な厚さになった時点)から最長10週間(又は妊娠12週まで)腟内に投与するとされています。
<使用のポイント>
就寝前の使用が推奨されることが多い
外出時は ナプキンの使用で漏れ対策がしやすい
・副作用/考慮すべき点
以下に症状を一部抜粋しています。()内は頻度。
不正子宮出血、外陰腟そう痒症(5%以上)
外陰部腟カンジダ症、下腹部痛、腹痛(5%未満)
など
ルテウムはまれに傾眠・浮動性めまいを引き起こすことがあるため、車の運転や危険作業には注意が必要です。
-ルティナス
天然型プロゲステロンを補える発泡性腟錠タイプの黄体ホルモン剤です。1錠につき、専用のアプリケーター(挿入器具)が1本付属しており、このアプリケーターを用いて腟の奥へ挿入します。腟から薬剤が吸収されることで、黄体ホルモンが子宮周囲に効率よく届けられるよう設計されています。
・どのように使う?
一般的には 1日2〜3回、腟内に挿入して使用します。
処方量やスケジュールはクリニックによって異なりますが、採卵日(又はホルモン補充周期下での凍結胚移植ではエストロゲン投与により子宮内膜が十分な厚さになった時点)から最長10週間(又は妊娠12週まで)腟内に投与するとされています。
『ルティナスはいつまで使えばよいの?と疑問に思っている方も多いようですが、移植周期が自然周期かホルモン周期かでも異なります。早い場合、妊娠8週で使用を終わりにするケースもあります。(林先生)』

<使用のポイント>
ルティナスは 腟内の水分に反応して発泡し、錠剤が崩れて薬が放出される仕組みです。錠剤は空気中の湿気でも反応しやすいため、使用する直前にシートから取り出す ようにしましょう。
なお、付属アプリケーターは 1回使い捨てです。再使用はしないでください。
・副作用/考慮すべき点
以下に症状を一部抜粋しています。()内は頻度。
頭痛、傾眠、性器出血(1~5%未満)
腹部膨満、下痢、便秘(1%未満)
など
まれに 傾眠・浮動性めまい が起こることがあるため、車の運転や危険作業には注意が必要です。
-ワンクリノン
プロゲステロン(黄体ホルモン)を補うための 経腟投与用・徐放性ゲル剤 です。専用のアプリケーター(注入器)を使い、ゲルを腟内に直接注入します。
ゲル状の薬剤が腟粘膜からゆっくり吸収されることで、子宮周囲に安定的にプロゲステロンを届けられる点が特徴です。
1本ずつ密封包装されており、1日1回の投与でよいという使いやすさもメリットといえます。
・どのように使う?
一般的には 1日1回、専用アプリケーターで腟内に注入します。
毎回新しいアプリケーターを使用するため衛生的で、操作も比較的簡単です。
採卵日(又はホルモン補充周期下での凍結胚移植ではエストロゲン投与により子宮内膜が十分な厚さになった時点)から最長10週間(又は妊娠12週まで)腟内に投与するとされています。
・副作用/考慮すべき点
以下に症状を一部抜粋しています。()内は頻度。
腹痛、腟出血、腟内異物(1~5%未満)
便秘、下痢、外陰部炎、不正子宮出血(1%未満)
など
まれに 傾眠・浮動性めまい が起こることがあるため、車の運転や危険作業には注意が必要です。
「不妊治療でよく使う薬」のまとめ
今回は、不妊治療でよく使われる薬について詳しくご紹介しました。
・不妊治療では、「卵子を育てる薬」、「排卵を起こす薬」、
「排卵誘発を助ける薬」、「排卵を抑える薬」、「卵胞ホルモンを補う薬」、「黄体ホルモンを補う薬」など、目的に応じてさまざまな薬が使われる
・薬を使う目的は同じでも、薬によって作用機序が異なるものもある
・同じ薬でも異なる目的で使われることもある
どの薬を使用するかは、医師が患者さんの状態を踏まえて選択・提案してくれています。今回、不妊治療で使われるすべての薬を網羅しているわけではないので、記載のない薬が処方されることもあると思います。
薬に関してご不明な点や不安な点は、医師に直接ご相談ください。
この記事の監修医
はやしARTクリニック半蔵門
院長 林 裕子 医師
1999年 早稲田大学第一文学部哲学科心理学専修 卒業
2009年 名古屋市立大学医学部 卒業
2015年 名古屋市立大学大学院医学研究科博士課程 卒業
医学部卒業後は同大産科婦人科学教室に入局し、産婦人科診療と不育症研究に従事。
2017年より東邦大学産科婦人科学講座にて生殖医療に携わる。
2024年9月はやしARTクリニック半蔵門を開業。
[所属学会・資格]
医学博士
日本産科婦人科学会専門医、指導医
日本生殖医学会 生殖医療専門医
日本不育症学会 不育症認定医
日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会 臨床遺伝専門医
日本超音波医学会 超音波専門医・指導医
母体保護法指定医

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