※この記事は2024年2月14日に、妊活研究会でVarinos代表の桜庭が講演させていただいた際のレポートです。
目次
子宮内フローラとは、多種多様な菌の集まり
腸内フローラという言葉を聞いたことがある方もいるかもしれませんが、「フローラ(flora)」とは「お花畑」という意味です。菌がたくさん集まっている様子がお花畑のように見えることから、このように呼ばれています。
そして、子宮の中の多種多様な菌の集まりのことを子宮内フローラと言います。
一言で菌と言っても、悪い菌(=悪玉菌)と良い菌(=善玉菌)、良いとも悪いとも言えない菌(=日和見菌)に分けることができます。
名前の通り、悪玉菌は何か悪さをする菌、善玉菌は良い仕事をしてくれる菌、日和見菌は悪玉菌あるいは善玉菌の多い方に味方をする菌です。
これらの菌の割合で菌環境が変わってきます。
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子宮内フローラが注目されるようになった背景
PGT-A(着床前ゲノム検査)をご存じでしょうか?
胚(受精卵)の染色体異常を調べることができる検査です。胚に染色体異常があると高い確率で流産をしてしまうことがわかっています。PGT-Aで胚に染色体異常がない卵を移植することで、流産率が低下し妊娠率が向上しますが、それでも妊娠率は60~70%です。どんなに良い胚を移植しても100%にはならないのです。
裏を返せば、30~40%は胚によるものではなく、子宮側に原因があるのだろう医師らも考えていました。ただ、以前はそれを調べる方法がありませんでした。
それが2015年から2016年にかけて状況が大きく変わりました。
まず、2015年にアメリカの研究グループが、それまで無菌と言われていた子宮にも菌が存在することを突き止めました。以前の培養法では検出できなかった菌がゲノム解析技術を使うことにより検出できるようになったのです。
そして2016年、スペインのチームが菌環境により妊娠率や生児獲得率が大きく違うという発表をしました。これはとても注目を集めました。我々Varinosもこの研究結果に注目し、菌環境を精度高く解析できる検査を誕生させられれば、不妊症で悩む方々のお役に立てるのではないかと動き出し、2017年に世界で初めて子宮内フローラ検査の独自開発・実用化に成功しました。
子宮内フローラによって妊娠率・生児獲得率はどのくらい違うのか
子宮内フローラにおいて重要なのは、ラクトバチルスという乳酸菌です。ラクトバチルスが90%以上の群と90%未満の群で分けた研究結果が下記です。
妊娠率をみると、ラクトバチルスが90%以上の群は70.6%に対し、90%未満の群は33.3%という結果でした。倍近く異なることがお分かりいただけると思います。
それだけではありません。
生児獲得率においては90%以上と未満の群で、それぞれ58.8%と6.7%と約8.7倍も異なるという結果が出ています。
▶「3分でわかる!子宮内フローラ動画」もご用意しています。動画視聴はこちらからご覧いただけます。
なぜ、ラクトバチルスが多いと妊娠・出産に良いのか?
ラクトバチルスには、悪玉菌の増殖を抑える働きがあります。
ラクトバチルスは乳酸桿菌(かんきん)のため、乳酸を作ります。そして乳酸により子宮内や腟内は酸性環境になります。酸性環境においては悪玉菌が増えづらいため、ラクトバチルスが多いほど悪玉菌は少なくなります。
反対に、ラクトバチルスが少ないと悪玉菌が増えやすくなってしまうと言えます。そして、子宮の中で悪玉菌が増えてしまうと悪玉菌を排除しようと、免疫が活性化されます。
本来なら良いことのように思いますが、少し困ったことが起きます。
胚はお母さんの体からすると他人、つまり異物とみなされます。そうすると、胚までも免疫細胞の攻撃対象になってしまうのです。
そのため、子宮の中には悪い菌がいないほうが良く、良い菌を増やした方が良いのです。
早産とも関係する細菌性腟症
細菌性腟症という言葉をご存じでしょうか。
健常な女性の腟内では、ラクトバチルスが75〜90%おり、自浄作用により雑菌の侵入を防いでいます。つまり、ラクトバチルスがバリア機能を果たしてくれるのです。
それが、何かしらの要因でラクトバチルス以外の悪玉菌が増えてしまうと、細菌性腟症を引き起こしてしまいます。そして、妊娠初期における細菌性腟症は流早産のリスクファクターの一つという報告があります。そのため、最近、細菌性腟症は可能な限り妊娠前に治療したほうが良いと言われるようになってきています。
妊娠や出産にとって良くないとされる菌についてもご紹介します。
[早産・流産に関係する菌]
・ウレアプラズマ
・マイコプラズマ
[細菌性腟症に関係する菌]
・ガードネレラ
・プレボテーラ
・ストレプトコッカス
・アトポピウム
様々な研究からわかる、子宮内フローラと流早産の関係
いくつか論文や研究を紹介します。
Lactobacillusが多い女性は人工授精成功率が約2倍増
まず、左上のグラフでは、人工授精でもラクトバチルスが多い方が約2倍、成功率が高いことが示されています。
27週未満の早産の約7割が病原性細菌に感染
右上のグラフでは、27週未満の早産の約7割は悪玉菌に感染していたというデータです。
早産は正期産と比較してUreaplasmaに約3倍感染
そして、左下のグラフは、早産と正期産を比べると早産群にウレアプラズマという悪玉菌が多くみられるということを示しています。
1,000g未満の早産の約6割がUreaplasmaに感染
右下のグラフは赤ちゃんが1,000g未満の早産となった約6割がウレアプラズマに感染していたというデータです。
こういったことからも、子宮内の菌環境は、妊活や不妊治療時だけではなく、出産まで大切であるということがわかってきています。
切迫流産に関する論文
次に、神戸大から出ている切迫早産に関する論文もご紹介します。
この研究では切迫早産となった方を最終的に早産となった群と正期産だった群にわけています。
そして、この研究から
・最終的に、早産になった群では、ウレアプラズマが多かった
・最終的に、正期産だった群のほうがラクトバチルスの量が多い
ことがわかっています。
生まれた群と早流産で生存できなかった群に分けた研究
同じく神戸大の研究で、生まれた群と早流産で生存できなかった群に分けた研究もあります。こちらも早流産で生存できなかった群ではウレアプラズマが多く検出され、生まれた群ではラクトバチルスが多かったことを示しています。
ご紹介した子宮内フローラと早流産の関係については、ごく最近、分かってきたことですが、このような論文からもラクトバチルスが重要であることがお分かりいただけると思います。
さらに最近では、子宮内フローラと慢性子宮内膜炎や子宮内膜症、子宮頸がん、あるいは性感染症についての研究発表もされはじめています。子宮内フローラは不妊症だけではなく、女性の健康とも関わっているということが分かりつつあるのです。
妊活研究会での講演レポート(前半)はいかがでしたでしょうか?
後半は「子宮内フローラは改善できる?」というテーマで
・子宮内フローラ検査で何がわかるのか?
-検査の流れ
-どのような方に受けていただきたいか
・子宮内フローラに応じた治療法
-ラクトバチルスが少ない場合
-治療した方がよい特定の悪玉菌が検出された場合
-ラクトバチルスが全くいない場合
・治療に関する論文紹介
・子宮内フローラが乱れる要因
・ラクトフェリンはなぜ子宮内フローラに大切か
等についてご紹介しています。
ぜひ、あわせてご覧ください。
https://varinos.com/contents/ninkatsukenkyukai240214-2
講演者
Varinos株式会社
創業者 代表取締役CEO
桜庭 喜行
埼玉大学大学院で遺伝学を専攻。博士取得後、理化学研究所ゲノム科学総合研究センターでのゲノム関連国家プロジェクトや、米国セントジュード小児病院にて、がん関連遺伝子の基礎研究に携わる。その後、日本に初めて母体血から胎児の染色体異常を調べるNIPTと呼ばれる「新型出生前診断」を導入したほか、医療機関や研究機関に対し、NIPTやPGT-Aと呼ばれる着床前診断などの技術営業を経て、2017年2月にゲノム技術による臨床検査サービスの開発と提供を行うVarinos株式会社を設立。同年、子宮内の細菌を調べる「子宮内フローラ検査」を世界で初めて実用化するなど、生殖医療分野の検査に精通。