子宮にとって良い菌・悪い菌
子宮内の菌環境を調べる「子宮内フローラ検査」など、ゲノムテクノロジーを応用した検査の開発・提供をしているVarinos(バリノス)です。
これまでの記事で、妊娠・出産の観点では、「ラクトバチルス」という乳酸菌の一種が子宮の中に90%以上占めていると良い、というお話を繰り返ししてきました。
今回は、子宮にとって良い菌だけではなく、「悪い菌」と「良いとも悪いとも言えない菌」についてもご紹介したいと思います。
子宮にとって「良い菌」=ラクトバチルス
子宮内フローラにとって、現時点で良い菌といわれているのは、「ラクトバチルス」だけです。腸内においては良い菌とされているビフィズス菌も子宮にとって良いかどうかはまだわかっていません。
▼なぜ、ラクトバチルスが大事なのか等は下記の記事でご紹介しています。
子宮にとって悪い菌=悪玉菌
子宮にとって悪い菌というのは一つだけではありません。
また、子宮内フローラ検査により、悪い菌が検出されたとしても、その割合(%)によっては治療等も必要ない、つまり子宮への悪影響は小さいと医師が判断することもあります。
今回、いくつか代表的な「子宮にとって悪い菌」をご紹介しますが、妊娠や出産への影響、治療が必要かどうかは、個々人の状況や医師の判断によって異なりますので、その点だけご理解の上、読み進めていただけると幸いです!
①Gardnerella(ガードネレラ)
腟正常菌叢ですが、過増殖すると乳酸桿菌(ラクトバチルス)が大量に減少し、細菌性膣炎を起こす可能性があります。本菌は性的伝播と関係する病原菌とされ細菌性腟炎を起こす以外、子宮内膜炎、急性卵管炎、羊水感染、不妊症、早産及び新生児敗血症等を引き起こすという報告があります。
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②Escherichia coli(エシェリキア•コーライ)
大腸菌と呼ばれるものです。細菌性腟症や、子宮内膜炎の原因菌とも考えられています。
③Streptococcus(ストレプトコッカス)
レンサ球菌属。細菌性腟症や、子宮内膜炎の原因菌とも考えられています。
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④Mycoplasma genitalium(マイコプラズマ・ジェニタリウム)、Mycoplasma hominis(マイコプラズマ・ホミニス)
性器同士の直接接触を介して伝播する複雑な細菌性感染症の原因菌。この性感染症にかかっている人の多くは無症状ですが、女性では子宮頚管炎に伴う疼痛および不快感、男性では尿道炎を引き起こすとされています。
マイコプラズマに感染したまま放置すると細菌性腟症、子宮頸管炎、骨盤内炎症性疾患、不妊症、妊婦では流早産を起こすこともあり注意が必要です。
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⑤Chlamydia trachomatis(クラミジア・トラコマチス)
性感染症の中でも最も感染者が多く、代表的な性病の一つとされています。
女性の不妊原因として多い「卵管因子」も、クラミジア感染により卵管の癒着を起こすことが原因にもなっていると言われています。
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⑥Ureaplasma(ウレアプラズマ)
ウレアプラズマの感染経路は、主にオーラルセックスやディープキスを含む性交渉です。性器の痛みやかゆみ、おりもの異常、のどの痛みや違和感などの症状が出る場合もありますが、自覚症状はあまりないケースが多いとされます。 ウレアプラズマが悪化してしまうと、子宮頸部の炎症 や 卵巣・子宮などの骨盤内感染を引き起こし不妊症の原因になることもあります。また、早産に影響を及ぼす菌であることも研究で分かってきています。
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⑦Prevotella(プレボテラ)
口腔、腟に生息し呼吸器感染症、性器感染症などに関与することが知られています。
P. bivia、P. disiensは婦人科領域で重要性の高い菌種で、細菌性腟症(BV)に関連する細菌として報告されています。
⑧Atopobium(アトポビウム)
細菌性腟症(BV)に関連する細菌として報告されています。
A.vaginaeは婦人科領域の化膿性感染症で分離されたとの報告があります。
⑨Sneathia(スネシア)
細菌性腟症(BV)、トリコモナス腟炎、HIV感染、早産との関連を示唆する報告があります。
⑩Klebsiella(クレブシエラ)
ヒトの鼻腔、口腔、腸管内の常在菌として知られています。
免疫力の低下した患者において感染症を引き起こす可能性があります。
腟分泌物より K. pneumoniae が検出された重症子宮内膜炎、
卵管骨盤膿瘍の報告もあります。
⑪Neisseria(ナイセリア)
口腔内の常在菌ですが、一部の菌種は尿路感染症、生殖器感染症、直腸肛門炎、結膜炎などを起こす原因菌として知られています。
N. gonorrhoeae は淋病の、N. meningitidis は髄膜炎の原因菌です。
⑫Staphylococcus(スタフィロコッカス)
ヒト腸管内や、環境中に広く存在します。
また尿路感染症、皮膚疾患、化膿性疾患、敗血症、食中毒の原因菌として報告されています。
生殖器感染症により、不妊を引き起こすという報告もあります。
⑬Fusobacterium(フソバクテリウム)
ヒトの口腔、腸管内に存在する常在菌で、歯周病の原因菌や早産の関連菌として知られています。
肝膿瘍、創傷部、尿路感染症などで検出されています。
⑭Clostridium(クロストリジウム)
ヒト腸管内や、環境中に広く存在します。
肝膿瘍、子宮内膜炎や細菌性腟症(BV)などの感染症とも関係しています。
一部の菌種は破傷風など原因菌となります。
⑮Dialister(ディアリスター)
トリコモナス腟炎の患者から検出された報告があります。
D. pneumosintesは腟、口腔内などに常在する菌ですが、子宮留膿腫から検出された報告があります。
⑯Megasphaera(メガスファエラ)
細菌性腟症(BV)、トリコモナス腟炎、HIV感染との関連を示唆する報告があります。
⑰Mobiluncus(モビルンカス)
三日月形の桿菌で運動性を有します。
ヒトの泌尿器、生殖器の常在菌であり、細菌性腟症の患者で優位となることが知られています。
その他の菌
その他の菌については、大きく2つに分けられます。
一つは、子宮にとって良い菌とも悪い菌ともわかっていないものです。
もう一つが、いわゆる「日和見菌」と呼ばれる菌環境次第で立ち位置が変わる菌です。善玉菌が多い菌環境であれば善玉菌のような有益な働きをし、悪玉菌が優位な菌環境だと悪玉菌の味方になるような菌です。
子宮内の菌環境を調べる方法
子宮内の菌は、腸内の菌に比べ超微量です。そのため、精度高く菌を検出するのには非常に高い技術が必要とされます。
我々Varinosが2017年に世界で初めて子宮内の菌環境を調べることのできる「子宮内フローラ検査」を独自開発・実用化して以降(2023年4月末現在に至るまで)、世界的にみてもまだ数社しか実用化には至っていません。
実はそれくらい高度なテクノロジーを要する検査なのです。
Varinosの技術により、子宮内の菌環境を調べる方法は2通りあります。
①医療機関で実施する「子宮内フローラ検査」
②自宅で簡易に検査できる「腟内検体採取式 子宮内フローラCHECK KIT」
それぞれの詳細については、別記事で詳細をご説明しています。
▼日本国内の高度な不妊治療を行う医療機関、累計300施設に導入。また、2022年6月に厚生労働省から先進医療Aに認定された「子宮内フローラ検査(先進医療技術名:子宮内細菌叢検査2)」について
【専門家に聞く】子宮内フローラ検査で「わかること」と「向き合い方」
▼フェムテックとしても注目。腟の菌環境から子宮内の菌環境を予測する「腟内検体採取式 子宮内フローラCHECK KIT」
フェムテックでも注目を集める「腟内検体採取式 子宮内フローラCHECK KIT」
この記事の監修者
Varinos株式会社
創業者 代表取締役CEO
桜庭 喜行
埼玉大学大学院で遺伝学を専攻。博士取得後、理化学研究所ゲノム科学総合研究センターでのゲノム関連国家プロジェクトや、米国セントジュード小児病院にて、がん関連遺伝子の基礎研究に携わる。その後、日本に初めて母体血から胎児の染色体異常を調べるNIPTと呼ばれる「新型出生前診断」を導入したほか、医療機関や研究機関に対し、NIPTやPGT-Aと呼ばれる着床前診断などの技術営業を経て、2017年2月にゲノム技術による臨床検査サービスの開発と提供を行うVarinos株式会社を設立。同年、子宮内の細菌を調べる「子宮内フローラ検査」を世界で初めて実用化するなど、生殖医療分野の検査に精通。