黄体機能不全と診断されたら?妊娠への影響や原因・ホルモン治療を医師が解説

不妊治療を進める中で、「黄体機能不全」と診断されると「黄体ってそもそも何?」「治すことはできるの?」「治療をすれば無事に妊娠・出産できる?」と不安になってしまうと思います。
今回は、Kobaレディースクリニック院長・加藤徹医師に、黄体機能不全の原因や症状、妊娠への影響、検査や治療の考え方までをうかがいました。
<この記事のポイント>
・黄体機能不全は「排卵後のホルモン不足」で子宮内膜を維持できず、不妊や流産の一因となる状態
・代表的なサインは「高温期が10日未満と短い」「生理前に茶色い不正出血がある」の2つ
・ 根本治療は難しいが、不足した黄体ホルモンを投薬により適切に補充すれば妊娠・出産は十分に可能


目次
黄体機能不全とは?妊娠を支える「黄体」と「黄体ホルモン」の重要な役割
黄体機能不全とは、排卵後にできる黄体から分泌される黄体ホルモンが十分に働かない状態を指します。
子宮内膜を着床や妊娠継続に適した環境に維持できなくなることから、不妊症や不育症の原因の一つとされています。
卵巣の中では、排卵前に卵胞と呼ばれる袋の中で卵子が育ちます。排卵が起き、卵子が飛び出したあとの袋はそのまま消えるのではなく、「黄体」に変化します。この黄体が、妊娠を支えるために重要な黄体ホルモンを分泌します。

黄体ホルモンは、一般にプロゲステロンとも呼ばれ、主な役割は2つです。
一つは、受精卵が着床しやすいように子宮内膜を整え、妊娠を成立させることです。
そして、もう一つは妊娠成立後、胎盤が十分に機能するまでの間、子宮の収縮を抑えて環境を安定させ、妊娠を継続させることです。
『患者さんに黄体機能不全を説明する際、「黄体機能不全ですね」とお伝えすることはあまりなく、「排卵後に出るホルモンが少なく、妊娠や妊娠継続に必要な子宮内膜を保つ力が足りない状態」と説明することが多いです。黄体という言葉に馴染みがなくても、排卵後のホルモン不足と考えるとイメージしやすくなるのではないでしょうか。(加藤先生)』

黄体機能不全の症状とセルフチェックのポイント
黄体機能不全の場合、「高温期が短い」「不正出血がある」といった症状が現れるほか、「不妊や流産」を繰り返してしまうことがあります。これらの症状があるから必ず黄体機能不全というわけではなく、その他の疾患がある場合もあります。セルフチェックにより、少しでも不安な要素がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

『患者さんを診察していて黄体機能不全を疑うのは、「高温期が短い場合」と「不正出血」がある場合です。排卵誘発をして排卵したら10日以上高温期がないと着床できません。また4~5日で不正出血が始まるという場合、黄体機能不全を疑います。つまり、黄体ホルモンが足りないと子宮内膜が維持できずに剥がれ落ち、生理が早く来てしまうため、こういったケースでは黄体ホルモンを補わないと妊娠維持できないということになります。(加藤先生)』

代表的な症状①「高温期が短い」
排卵後、黄体ホルモンの作用で基礎体温が上がり、次の生理まで続きます。この高温期が十分に続かないと、受精卵が着床し、その後も子宮内膜にとどまるための時間が足りなくなります。

毎日基礎体温を測り、排卵後の高温期が10日未満で終わる場合、黄体機能不全が疑われます。
基礎体温を記録するときは、測り方のぶれを減らすことが重要です。睡眠不足、測定時刻のずれ、飲酒などでも体温は変動します。なるべく、同じ条件で測るようにしましょう。
代表的な症状②「不正出血」
とくに気をつけたいのは、排卵後から生理予定日前にかけて少量の出血が出るケースです。
茶色っぽい出血が数日続く、毎周期のように生理前に少し出血する、という場合は、内膜が早めにはがれ始めている可能性があります。
③不妊や流産を繰り返す
不妊や流産を繰り返している場合にも、黄体機能不全が疑われます。
黄体機能不全が問題になるのは、妊娠しにくさや妊娠維持に関わるためです。
黄体ホルモンが不足すると、子宮内膜が受精卵を迎え入れる状態になりにくくなります。その結果、
受精していても着床に至りにくく、不妊の一因になることがあります。
また、妊娠が成立したあとも、初期には黄体ホルモンの働きが欠かせません。胎盤が十分に機能するまでの時期は、黄体から分泌されるホルモンが妊娠維持を支えています。
この時期に必要量を保てないと、出血が起こり、妊娠継続が難しくなる場合があります。
そのため、排卵は確認できるのに妊娠しない、生化学的妊娠(化学流産)を繰り返す、妊娠初期の流産を経験しているといったケースでは、黄体機能の評価が検討されます。ただし、不妊や流産の原因は一つではありません。卵管、卵子、精子、染色体、甲状腺機能、高プロラクチン血症、子宮内膜症など、複数の要因が重なることもあります。
不妊や流産の経験がある場合は、早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。
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黄体機能不全になる主な原因
黄体機能不全の原因について明確なことはわかっていませんが、卵巣機能の低下や卵胞の成熟不良、ホルモンバランスの乱れ(甲状腺機能異常、高プロラクチン血症など)など様々な可能性が考えられます。
卵巣機能の問題
黄体は、排卵したあとの卵胞が変化してできる組織です。つまり、排卵前の卵胞が十分に育っていなければ、排卵後にできる黄体の働きも弱くなりやすいと言えます。
このため、黄体機能不全を考えるときは、黄体そのものだけでなく「その前の卵胞発育が順調だったか」を見る必要もあります。
なお、加齢による卵巣機能の低下も無関係ではありません。年齢とともに卵巣の反応性が落ちると、卵胞の育ち方や排卵後のホルモン分泌に影響が出ることがあります。ただし、年齢だけで黄体機能不全が決まるわけではありません。若い世代でも卵胞発育が安定しない周期はあり、逆に年齢を重ねていても問題なく黄体機能が保たれるケースもあります。
ホルモンバランスの乱れ(高プロラクチン血症・甲状腺機能異常など)
黄体の働きは、卵巣だけで完結しているわけではありません。脳の視床下部や下垂体から出るホルモンと連動しており、そのバランスが崩れると排卵や黄体形成に影響が及びます。代表的なのが高プロラクチン血症と甲状腺機能異常です。
プロラクチンは本来、出産後の授乳に関わるホルモンです。この値が高い状態では排卵が乱れたり、黄体ホルモンの分泌が十分でなくなったりすることがあります。高プロラクチン血症は自覚症状が乏しいことも多く、月経異常がはっきりしないまま血液検査で見つかる場合もあります。
甲状腺ホルモンの異常も見逃せません。甲状腺は代謝を調整する臓器ですが、生殖機能とも関わりが深く、機能低下や機能亢進があると排卵障害や着床環境の乱れにつながることがあります。特に甲状腺機能低下では、月経周期の乱れだけでなく、プロラクチンの上昇を介して黄体機能に影響することがあります。
その他、ストレスや栄養不良、体重の変動、また不妊治療で使用される排卵誘発剤やホルモン療法などで、ホルモンバランスが乱れ、黄体機能不全を引き起こすことがあります。
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子宮内膜症の合併症
『子宮内膜症があるから必ず黄体機能不全になるわけではありませんが、子宮内膜症、特に卵巣にできるチョコレート嚢胞(のうほう)がある方は、黄体機能不全になっているケースが多く見受けられます。(加藤先生)』

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クリニックでの診断と治療法
『黄体機能不全は、採血で調べることができます。黄体ホルモンは、排卵後1週間ほどでピークを迎えるため、患者さんにはその頃に採血にきていただきき、プロゲステロンの値が適切かを確認します。この結果と基礎体温や月経に関する問診等により診断します。(加藤先生)』

黄体機能不全の診断に必要な「血液検査」と「問診」
排卵から約1週間後の高温期に血液検査を行います。ここでは黄体ホルモン、つまりプロゲステロンの値を調べ、排卵後に十分な分泌があるかを確認します。黄体ホルモンは、排卵した直後ではなく数日かけて増えていくため、採血のタイミングがずれると実態より低く見えることがあります。
問診も重要になってきます。月経周期が毎回どのくらいか、排卵後と思われる時期から月経までが短くないか、高温期の途中で茶色い出血や少量の不正出血がないかなどを確認します。基礎体温をつけている場合は、高温期が10日未満になっていないか、高温期と低温期の二相性がはっきりしているかも参考にします。
基本的な治療は「黄体ホルモン補充療法」
治療の第一選択は、不足している黄体ホルモンを補う方法です。
一般に「黄体ホルモン補充療法」と呼ばれ、子宮内膜を維持し、受精卵が着床しやすい環境を整える目的で行います。排卵はしていても、排卵後のホルモン分泌が弱いと内膜が早く崩れてしまい、妊娠判定前に月経が来ることがあります。そうしたケースでは、補充療法が必要になります。
「一見、採血の結果上は問題ない方もいます。ただし、予定よりも早く生理が来てしまうなど臨床所見が出ている場合、黄体期に黄体ホルモンを補充するケースもあります。(加藤先生)」

黄体ホルモンを補う薬には、内服薬、腟剤、注射などがあります。どれが選ばれるかは、治療周期か自然周期か、妊娠判定までの管理方針、通院しやすさ、副作用の出方などで変わります。また、保険適用の有無で使える薬が変わることもあります。
<代表的な黄体ホルモンを補う薬(一般名/販売名)>
●経口薬
クロルマジノン酢酸エステル/ルトラール錠2mg
ジドロゲステロン/デュファストン錠5mg
●腟剤
プロゲステロン/ウトロゲスタン腟用カプセル200mg、ルテウム腟用坐剤400mg
ルティナス腟錠100mg、ワンクリノン腟用ゲル90mg

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補充療法で知っておきたいこと
黄体ホルモン補充は、原因そのものをなくす治療というより、
妊娠成立あるいは継続に必要な期間を支える治療です。
そのため、排卵後から月経予定日ごろ、あるいは妊娠判定後もしばらく継続することがあります。
注意したいのは、自己判断で中断しないことです。出血があったとしても、それが月経なのか着床後の出血なのかは見た目だけでは分かりません。治療中は指示された時期まで投薬を続けることが大切です。
排卵誘発剤やhCG注射を用いることも
黄体機能不全の治療は、黄体ホルモンを足すだけではなく、卵胞の発育から治療介入することもあります。
黄体ホルモンがしっかり分泌されるには、質のよい卵胞が育つこと、排卵することが大切です。そのため、卵胞の発育や排卵に課題がある場合、排卵誘発剤を使い、卵胞の発育から調整することもあります。
また、卵子の成熟を促し、排卵のタイミングを正確にコントロールする目的で使用されるhCG注射を黄体期に追加で使うこともあります(黄体維持療法)。hCGには黄体の働きを活性化させ、黄体ホルモンの分泌を促す作用もあるためです。
ただし、排卵誘発剤やhCG注射は誰にでも同じように使えるわけではありません。卵胞が複数育ちやすい体質では多胎妊娠のリスクに配慮が必要になる場合もあります。医師が個々人の状態や卵巣・卵胞などの状態を加味し、適切な治療を行います。
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妊娠・出産を希望しない場合の治療法
『通常だと、月1回生理が来るところ、黄体機能不全の場合、早く生理が来てしまい(=頻発月経)、QOLが下がると感じる方もいます。そういった方の場合、ピルを服用し、ある程度の期間、生理が来ないように調整することもあります。(加藤先生)』

黄体機能不全でも妊娠・出産はできる?
黄体機能不全といわれても、それだけで妊娠や出産をあきらめる必要はありません。
実際の診療では、原因の見極めとホルモン補充を中心に対応し、妊娠の成立や継続を後押しします。黄体ホルモンが不足していることがわかれば、比較的、治療方針を立てやすいと言えます。
ただし、不妊や不育症の原因が黄体機能不全だけとは限らない点にも注意が必要です。高プロラクチン血症や甲状腺機能異常、子宮内膜症の合併などが背景にある場合は、そちらの治療も並行して行う必要があります。
黄体機能不全に関するよくある質問
ここでは、黄体機能不全に関してよくあがる疑問を中心に、加藤先生にお答えいただきました。
Q1. 黄体機能不全は自力で改善できますか?
黄体機能不全を引き起こす原因は多岐にわたり、ご自身で特定することは非常に困難です。また、自力で完全に改善できるという明確な医学的根拠もありません。ストレスや生活習慣の見直しで状態が良い方向に向かう可能性はありますが、妊娠を希望されている方で「高温期が短い」「不正出血がある」といったサインがある場合は、まずは医療機関を受診することをおすすめします。検査の上、必要に応じて黄体ホルモンを補充するのが確実な方法と言えます。
Q2. 治療にかかる費用はどのくらいですか?
費用は治療内容で変わります。一般的な目安として、黄体機能不全の検査や治療は、不妊治療の一環として保険適用になる場合が多く、自己負担額は比較的抑えられることがあります。
ただし、実際にかかる費用は状況に応じ異なります。血液検査の回数や超音波検査の有無、黄体ホルモンの薬の種類、hCG注射を使うか、通院頻度などで差が生じます。
また、自費診療で不妊治療を行っている場合、基本的には一連の治療がすべて自費になるため、高額になるケースもあります。
費用については、事前に医療機関に確認するようにしましょう。
Q3. 治療はいつまで続ける必要がありますか?
妊娠を希望する場合、黄体ホルモンの補充は排卵後から始め、次の生理予定日または妊娠判定日まで続けるのが一般的です。
さらに、妊娠が成立した場合は、胎盤が黄体ホルモン分泌を担い始める妊娠初期まで継続するケースが多いと言えます。目安としては妊娠8〜10週頃まで続けることが多いものの、終了時期は治療歴や出血の有無、医師の方針で変わります。自己判断で薬をやめることがないようにしましょう。
Q4. 黄体機能不全と診断されたら、自然妊娠は難しいですか?
自然妊娠が不可能という意味ではありませんが、そのままの状態では着床しにくく、妊娠を維持するハードルも高くなります。しかし、医療機関で不足している黄体ホルモンを適切に補充すれば、体外受精などの高度な治療に進まなくても、タイミング法や人工授精といった自然妊娠に近いステップで妊娠・出産を目指すこともできます。ご自身の希望や体の状態に合わせて最適な治療法を選ぶことが、妊娠・出産への第一歩と言えます。
黄体機能不全のまとめ
◆黄体機能不全は排卵後に十分な黄体ホルモンが分泌されず、子宮内膜を維持できなくなる排卵後のホルモン不足状態のこと
◆代表的なサインは「高温期が10日未満と短いこと」と「生理前に茶色い不正出血があること」の2つ
◆原因には卵巣機能の問題や高プロラクチン血症や甲状腺機能異常などホルモンバランスの乱れ、子宮内膜症など様々な可能性が考えられる
◆診断は排卵後、約1週間(高温期)に行う血液検査と問診、基礎体温の記録を総合して行う
◆不足した黄体ホルモンを投薬により適切に補充することで、十分に妊娠・出産を目指せる
この記事の監修医
Kobaレディースクリニック
加藤 徹 院長
平成20年3月 兵庫医科大学卒業
平成20年4月 医師免許取得
平成22年4月 兵庫医科大学 産科婦人科
平成22年7月 大阪府 府中病院 産科婦人科
平成25年4月 兵庫医科大学病院ささやま医療センター 産婦人科
平成30年3月 兵庫医科大学大学院卒業
平成31年4月 兵庫医科大学病院 周産期医療センター長
令和2年4月 兵庫医科大学病院 産科婦人科 講師
令和2年10月 兵庫医科大学病院 産科婦人科 医局長
令和4年4月 kobaレディースクリニック 副院長
令和6年6月~ kobaレディースクリニック 院長 兼 理事長
[所属学会]
日本産科婦人科学会
日本生殖医学会
日本受精着床学会
日本エンドメトリオーシス学会
[資格]
医学博士
母体保護法指定医
一般社団法人 日本専門医機構 産婦人科専門医 / 産婦人科指導医
一般社団法人 日本生殖医学会認定 生殖医療専門医 / 生殖医療指導医

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