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    卵管水腫とは?体外受精でも着床率が下がるのはなぜ?原因・症状と手術などの治療法を解説【医師監修】

    卵管水腫_原因・症状と手術などの治療法を解説


    不妊治療の検査や体外受精(IVF)で胚移植を重ねる中で、「卵管水腫(らんかんすいしゅ)」があると医師に指摘された方もいらっしゃるかもしれません。

    卵管水腫は自然妊娠だけでなく、体外受精の着床率や妊娠率にも影響を与えることが分かっています。

    「卵管に水が溜まるだけで、なぜ不妊原因になるの?」
    「体外受精なら卵管を通らないから、関係ないのでは?」
    など、不安や疑問に思う方も多いと思います。

    本記事では、卵管水腫の原因や着床率が下がる理由、セルフチェック項目、検査方法から手術まで、英ウィメンズクリニック さんのみやクリニック 副院長・岡本 恵理医師にお話を伺いました。

    <この記事のポイント>
    ・体外受精の着床率低下・流産リスクに関係する: 溜まった水腫液が子宮腔内へ逆流することで受精卵の着床を妨げ、胚移植での臨床妊娠率が約半分に低下する

    ・ほとんどが無症状: 自覚症状がないことが多く、「胚移植で着床しない」「生化学流産を繰り返す」といった不妊治療の経過で判明するケースが多い

    ・子宮卵管造影(HSG)の「後撮影」が診断に重要: 軽度の水腫まで正しく見極めるため、時間を置いた後撮影を行うことが必須とされる

    ・体外受精では「まずは1〜2回移植を試す」のが基本: 卵管切除や卵管結紮の手術は身体的侵襲があるため、いきなり切除するのではなく、移植で結果が出ない場合に切除や結紮を検討する


    英ウィメンズクリニック さんのみやクリニック 副院長・岡本 恵理医師

    執筆者:Varinos編集部

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    卵管水腫(卵管留水症)とは

    卵管水腫(卵管留水症)の図解

    卵管水腫(卵管留水症)とは、何らかの原因で卵管の先端(卵管采:らんかんさい)が閉塞・癒着し、

    本来排出されるべき分泌液(水腫液)が卵管内部に溜まって太く腫れてしまった状態を指します。

    女性の体内において、卵管は卵子と精子が出会い受精し、成長した受精卵を子宮へと運ぶ大切な「通り道」です。この通り道が詰まって水が溜まることで、様々な不妊リスクが引き起こされます。

    臨床的には軽度のものも含めると比較的よく見られる疾患であり、良好な胚(受精卵)を移植しても着床しない「着床障害」の原因を調べる過程で発見されるケースも少なくありません。

    『超音波で明らかに映る卵管水腫については外来診療で発見されます。良好胚盤胞を移植しても着床しない場合は子宮卵管造影検査を再検し、その時に発見される患者さんが多いです。軽度の卵管水腫は比較的多く、胚移植不成功であった患者さんの1/3くらいに認めます。(岡本先生)』

    [関連記事]着床障害(不全)の原因を調べる検査と治療法


    卵管水腫が起きる主な原因

    卵管の先端が閉塞・癒着してしまう背景には、主に過去の「炎症」や「手術」が関係しています。

    クラミジア感染症などの性感染症の既往:

    最も多い原因のひとつとされているのが、クラミジアなどの性感染症の既往です。クラミジアなどの細菌が子宮頸部から卵管・骨盤内へと侵入し、激しい炎症(卵管炎・骨盤内感染症)を引き起こすことで、卵管の出口がくっつき閉塞してしまうことがあります。自覚症状がほとんどないまま進行することも多いため注意が必要です。

    [関連記事]子宮にとって良い菌・悪い菌とは?代表的な18の菌を解説!

    子宮内膜症:

    子宮内膜に似た組織が卵管や卵巣の周囲に発生・出血を繰り返すことで、強い組織の癒着を引き起こし、卵管の形を歪める、あるいは閉塞させることがあります。

    子宮内膜症の図解

    骨盤内の手術歴:

    過去に受けた虫垂炎(盲腸)の手術、帝王切開、婦人科疾患などの腹部・骨盤内の手術によって、後遺症として卵管周囲に癒着が生じることがあります。

    骨盤内の手術歴の解説


    卵管水腫が不妊・着床障害を引き起こす理由

    卵管水腫が不妊・着床障害を引き起こす理由


    「体外受精(IVF)であれば受精卵を直接子宮に戻すため、卵管の詰まりは影響しないのではないか」と考えられがちです。しかし、

    卵管水腫が存在すると、自然妊娠はもちろん体外受精(顕微授精)の成功率にも悪影響を及ぼします。

    その理由は以下の通りです。

    自然妊娠の場合

    ―受精の阻害

    卵管の先端が閉じているため、卵巣から排卵された卵子を卵管内に取り込むことができず、精子と卵子が出会えなくなります。

    体外受精(顕微授精)の場合

    ―着床障害・IVF成功率の低下

    卵管内に溜まった水腫液が子宮腔内へと逆流し、受精卵の着床を物理的・化学的に邪魔してしまいます。また水腫液には胚に対して有害な物質(炎症性物質など)が含まれており、体外受精(胚移植)での臨床妊娠率が約半分にまで低下することが知られています。*

    *出典:Pregnancy rates after in-vitro fertilization in cases of tubal infertility with and without hydrosalpinx: a meta-analysis of published comparative studies

    ―流産率の上昇

    子宮内に流れ込んだ水腫液の影響により、着床が成立できたとしても正常な妊娠維持が妨げられ、流産率が高まるリスクがあります。

    ―異所性妊娠(子宮外妊娠)のリスク

    卵管内の環境異常や構造の変化により、受精卵が正常な位置以外に着床してしまう異所性妊娠のリスクが高まる可能性があります。

    『異所性妊娠のリスクが高まる可能性はありますが、流産ほどエビデンスは高くありません。当院の患者さんでも卵管水腫の方が異所性妊娠を起こしやすいという印象はありません(岡本先生)』

    [関連記事]異所性妊娠(子宮外妊娠)とは?再発率や治療法・片側切除後の妊娠可能性を解説【医師監修】


    卵管水腫の検査と診断方法

    卵管水腫は自覚症状がないまま進行することも多く、不妊治療のスクリーニング検査や体外受精で良好な胚を戻しても着床しない、あるいは生化学流産を繰り返すといった経過を通じて発見されるケースが多いと言えます。


    診断に必要な検査方法

    卵管水腫の診断には、主に以下の検査が用いられます。

    経腟超音波(エコー)検査
    腟内に超音波プローブを挿入し、子宮や卵巣周辺を観察する基本的な検査です。ただし、超音波検査でハッキリと確認できる卵管水腫は、かなり高度・重度のものに限られます。

    子宮卵管造影(HSG)検査
    子宮口から造影剤を注入し、X線で卵管の通りや腫れを撮影する検査です。超音波では映らない軽度の卵管水腫まで幅広く診断できます。


    『超音波検査でわかる卵管水腫はかなり高度なものだけです。子宮卵管造影検査(HSG)ではもっと軽度の卵管水腫まで診断可能ですが、HSG時に造影剤によって卵管が拡張し、卵管水腫の様に見えることもあるので後撮影を行うことが重要です(岡本先生)』


    主な自覚症状とセルフチェック

    卵管水腫の多くは「無症状」ですが、状態によっては以下のようなサインが現れることがあります。

    特にはっきりとした症状がない(無症状):
    無症状で不妊治療の検査により発覚する方も多いと言えます。

    水っぽいおりものの増加:
    卵管内に溜まった水腫液が子宮腔を通じて腟へと排泄される際、サラサラとした水っぽいおりものが増えることがあります。

    下腹部痛や骨盤奥の重だるさ:
    過去のクラミジア感染や子宮内膜症による炎症・癒着が原因で、下腹部に重い痛みが残ることがあります。

    『自覚症状として水っぽいおりものが増えるということもありますが、何の症状もない方が多いと言えます。(岡本先生)』

    卵管水腫を疑うセルフチェック項目

    卵管水腫セルフチェックリスト

    ☑良好な胚を移植しても着床しない
    ☑生化学流産(化学流産)を何度も繰り返している
    ☑過去にクラミジア感染症や淋菌感染症にかかったことがある
    ☑過去に子宮内膜症の診断を受けたことがある
    ☑過去に腹部・骨盤内の手術(虫垂炎、帝王切開、婦人科手術など)を受けたことがある
    ☑サラサラとした水っぽいおりものが多い


    卵管水腫と診断された場合の治療法(手術・体外受精)

    卵管水腫と診断された場合、患者様の挙児希望(自然妊娠を希望するか、体外受精を進めるか)や水腫の程度に応じて治療方針を決定します。

    卵管水腫と診断された場合の治療法(チャート)


    1.自然妊娠を希望する場合の治療

    自然妊娠を目指す場合、卵管の詰まりや腫れの程度によって方針が分かれます。

    軽度(卵管の通気性・疎通性がある場合):
    まずは無治療で様子を見るか、細い内視鏡を用いて卵管の詰まりを解消する「卵管鏡下卵管形成術(FT)」を行います。

    重度(卵管の先端・遠位部が完全に閉じている場合):
    お腹に小さな穴を開けて手術を行う「腹腔鏡下卵管形成術(卵管開口術)」を検討します。

    『自然妊娠を希望する場合には、卵管疎通性があればまずは無治療で様子を見る、あるいは卵管鏡下卵管形成術(FT)を行います。遠位部の閉塞を認める場合は腹腔鏡下卵管形成術を行います。ただし、

    術後の自然妊娠率は30%未満

    とされているため(*1)、この治療をお勧めするのは若年で他に不妊原因のない方です。また、

    重度の卵管水腫がある方の術後妊娠率は低く、異所性妊娠率が10%くらい

    と言われています(*2)。そのため、重度の場合は最初から体外受精(ART)をお勧めします(岡本先生) 』

    *1 出典:『産婦人科 診療ガイドライン―婦人科外来編2020』(日本産科婦人科学会 / 日本産婦人科医会)
    *2 出典:Post-operative pregnancy outcomes following salpingostomy for hydrosalpinx: a systematic review and meta-analysis


    2.体外受精(ART)を進める場合の治療(手術のタイミング)

    「卵管水腫があると着床率が下がるなら、体外受精の前に必ず卵管切除や結紮(けっさつ)の手術を受けなければいけないの?」と不安に思う方も多いですが、必ずしも即手術となるわけではありません。

    まずは胚移植を試みる:
    卵管切除手術は患者様への身体的侵襲(負担)が大きい上、術後は二度と自然妊娠ができなくなります。そのため、まずは1〜2回胚移植を試み、それでも着床しない、あるいは流産になってしまう場合に手術を検討するのが一般的です。

    手術を行う場合(卵管切除術・卵管結紮術):
    着床障害や流産が続く場合、水腫液が子宮に流れ込むのを防ぐため、腹腔鏡下で「卵管切除(卵管を取り除く)」または「卵管結紮(卵管を縛って水腫液の逆流を止める)」を行うことがあります。

    『卵管水腫があると胚移植での臨床妊娠率は半分くらいに低下することがわかっていますが、卵管切除手術は侵襲の大きい治療です。また卵管を切除するということは、自然妊娠ができなくなります。そのため、まずは1-2回胚移植を試み、それでも着床しない、流産してしまう場合、手術を提案します(岡本先生)』


    卵管水腫に関するよくある質問(FAQ)

    卵管水腫に関して、患者様から多く寄せられる質問や不安について、岡本先生に回答いただきました。

    Q1. 卵管水腫があっても、自然妊娠できる可能性はゼロではありませんか?

    可能性としてはゼロではありません。軽度の卵管水腫で片側の卵管が正常に機能している場合や、卵管の通過性が保たれている場合などは、自然妊娠に至るケースもあります。ただし、水腫の程度や閉塞状態によっては自然妊娠率の低下や異所性妊娠のリスクが高まるため、状態に合わせた治療が必要となります。

    Q2. 卵管切除や卵管結紮の手術を行うと、卵巣機能(AMHなど)や排卵に悪影響はありませんか?

    卵巣への血流を遮断しないように注意して手術を行えば、卵巣機能やAMH(抗ミュラー管ホルモン)への影響はありません。

    Q3. 手術ではなく、水腫液を注射針で吸引・洗浄する治療法で改善することはできますか?

    穿刺吸引は、癒着が強い・手術リスクが高いなど卵管切除や結紮が不可能な場合の代替法です。無治療よりは明らかに妊娠率は改善しますが、34%が2週間以内に再貯留するというRCT(ランダム化比較試験)もあり*、お勧めできません。

    *出典:Ultrasound guided aspiration of hydrosalpinx fluid versus salpingectomy in IVF: a randomized controlled trial


    卵管水腫のまとめ

    今回は、自然妊娠だけでなく体外受精の着床率や妊娠率にも影響を与える「卵管水腫」について解説しました。

    ・卵管水腫とは: 過去の性感染症(クラミジアなど)や子宮内膜症、手術歴による炎症・癒着が原因で卵管の先端が閉じ、分泌液(水腫液)が溜まって腫れてしまう状態です。

    ・多くは無症状: 自覚症状がないことが多く、「良好な胚を移植しても着床しない」「生化学流産を繰り返す」といった治療の経過や検査で判明するケースが目立ちます。人によっては水っぽいおりものの増加や下腹部痛が見られることもあります。

    ・体外受精への影響: 溜まった水腫液が子宮腔内へ逆流することで着床を妨げ、胚に対して有害な物質の影響も重なって、胚移植での臨床妊娠率が約半分に低下したり流産率が高まったりします。

    ・検査と診断: 超音波検査では重度のものしか映らないため、軽度の水腫まで見極めるには子宮卵管造影(HSG)検査で「後撮影」を行うことが重要とされています。

    ・治療方針の考え方: 自然妊娠を目指す場合は卵管の疎通性や重症度に応じて経過観察や形成術(FT・腹腔鏡)を検討しますが、重度の場合は最初から体外受精が推奨されます。体外受精を行う場合でも、卵管切除や結紮は身体的負担が大きく自然妊娠ができなくなるため、いきなり手術を行うのではなく、まずは1〜2回胚移植を試みてから検討するのが基本方針となります。

    卵管水腫は着床障害や流産の原因となり得ますが、状態や治療希望に合わせて適切な検査・治療を選択していくことが可能です。胚移植で結果が出ない場合や不安がある場合は、主治医としっかり相談しながら治療方針を決めていきましょう。


    この記事の監修医

    英ウィメンズクリニック
    さんのみやクリニック 副院長
    岡本 恵理 医師

    1998年 大阪市立大学医学部卒業 卒業
    大学卒業後、大阪市立大学医学部附属病院 産婦人科へ臨床研修医として勤務後、大阪市立住吉市民病院 産婦人科に勤務
    2004年:大阪市立大学大学院 医学研究科卒業
    大学院卒業後、大阪府済生会千里病院 産婦人科にて勤務
    2007年1月:英ウィメンズクリニック勤務
    2012年8月:内視鏡部門副部長
    2013年6月:妊孕(にんよう)能温存部門部長に就任                                                           2020年12月:英ウィメンズクリニック 副院長に就任。

    [資格・役員]
    医学博士(大阪市立大学)
    日本産科婦人科学会専門医
    母体保護法指定医
    臨床遺伝専門医制度委員会 臨床遺伝専門医
    日本生殖医学会 生殖医療指導医

    [所属学会]
    日本産科婦人科学会
    日本生殖医学会
    日本受精着床学会
    日本IVF学会
    日本がん・生殖医療学会
    日本人類遺伝学会
    日本産科婦人科遺伝診療学会

    英ウィメンズクリニック さんのみやクリニック 副院長 岡本 恵理 医師

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